【児童書ニュース】2022年6月、7月の児童書おすすめ新刊情報
今何を読もう? 面白い本はないかな? 小学生の本選びに向けた情報のひとつとして、毎月、児童書の最新情報をお届けします。今回は、2022年6月、7月の話題の児童書ニュースや新刊情報。夏の終わりから秋に向けての読書の参考にしてみてくださいね。
2022年6月、7月の話題の児童書新刊ピックアップ
まずは、6月、7月の新刊の中から話題の作品をピックアップして詳しくご紹介します。
『うみべのおはなし3にんぐみ』
砂浜でピクニック中のローリー、スパイダー、サムの3人。リラックスした雰囲気の中、それぞれの個性溢れる自由な想像から生まれるおはなしには、ユーモアがいっぱい。おはなしを聞く楽しさ、作る楽しさ、想像する楽しさ……と、おはなしの魅力がたっぷり詰まった一冊。
ある日、砂浜でピクニックをしていたローリー、スパイダー、サムの3人。おなかいっぱい食べたひと休みの時間、食べてすぐ泳ぐのは良くないし、かといって昼寝もつまらない。
「じゃあ、おはなし、きかない?」
提案したのは、つばの広い麦わら帽子に緑色のサングラスをかけたおしゃまな雰囲気の女の子、ローリー。
「あたし、じぶんで おはなし かいてるの。」
ローリーが話したのは、ねずみとねこと犬が登場するおはなし。
あれ、もう終わっちゃうの? サムとスパイダーは物足りない様子。
それならば、と、個性的な帽子にカラフルな服装の男の子、サムがおはなしを始めます。
ローリーから「ねずみとねこのおはなし」というお題を与えられて作ったのは、ねずみがペットショップでねこを買うおはなし。サムは即興で作ったと思えないような、なかなかのストーリーテラーぶりを発揮します。
最後は、3人の中で一番活動的な雰囲気の男の子、スパイダーの番。スパイダーが作って話すのはこわいおはなし! おなかをすかせたかいじゅうが海から現れ、なにか食べるものはないかと砂浜を歩きまわっています。ローリーとサムのおはなしに出てきたねずみやねこもちゃんと登場しますが、かいじゅうの好物はなんといっても、にんげんの子!
「うほっ! いたいた!」
男の子がふたりに、女の子がひとり。
砂浜にいたにんげんの子!? それってもしかして‥‥‥。
仲良しのともだちとうみべで過ごすのんびりとした時間。リラックスした雰囲気の中、語られていく3人の自由な想像で生まれるおはなしには、さりげなくそれぞれの個性も反映されているようで、なんて面白いのでしょう。
ユーモア溢れる楽しいおはなしを書かれたのはアメリカの絵本・児童文学作家のジェイムズ・マーシャルさん。絵にもまたユーモアがたっぷり感じられて、見れば見るほど味わい深くなってきます。個人的なお気に入りは、表紙を開いたところにある3人の後ろ姿。読み終えた後にこの絵を見ると、3人の仲良しな姿がとっても幸せな気持ちにさせてくれるのです。
そのジェイムズ・マーシャルさんのユーモアをしっかりと心地良い日本語で伝えてくれるのは、小宮由さん。自らを「1930年から70年の、アメリカの絵本黄金期の作品を掘り起こす考古学者」と語られる小宮由さんが、ジェイムズ・マーシャルさんのこちらの作品を発掘し、日本の子どもたちが読めるような形で届けてくださいました。訳の中でとくに注目したいのは、サム、スパイダー、ローリーのセリフの部分。それぞれの個性が伝わってきて、3人それぞれに親近感が湧くところもこの本を好きになるきっかけとなりそうです。
おはなしを聞く楽しさ、作る楽しさ、想像する楽しさ……と、おはなしの魅力がたっぷり詰まった一冊。読んだ後は、自分でもおはなしを作って人に話してみたくなってしまうかもしれません! 挿絵がたっぷりで文章も易しいので、はじめてのひとり読みに挑戦する作品としてもおすすめです。
(秋山朋恵 絵本ナビ編集部)
『ぼくは王さまコレクション 全5巻』
たまごやきが大好きで、わがままで、なまけもので、くいしんぼう。こんな王さまが活躍するのが寺村輝夫さんの「ぼくは王さま」シリーズ。テーマごとに選りすぐりの作品を集めたアンソロジーセットが新たに発売となりました!
出版社からの内容紹介
三世代にわたって読み継がれるロングセラー。「ぼくは王さま」のアンソロジーができました。王さまを読むならこの5冊から! テーマ別によりすぐったお話をお楽しみ下さい。
王さまの可愛いケース入り。
セット内容はこちら(1セットごとでも購入いただけます)
「三日月島のテール」シリーズ
人気読み物シリーズ「黒ねこサンゴロウ」のサンゴロウも登場する、ファン待望のシリーズがこのたび新装版としてよみがえりました!「三日月島のテール」は、海の宅配便運送会社〈ドルフィン・エクスプレス〉で働く猫のテールの冒険を描いた物語。以前、岩崎書店から「ドルフィン・エクスプレス」というシリーズ名で刊行されておりましたが、このたび偕成社より「三日月島のテール」シリーズとして、表紙絵や中の挿絵を一部変更・追加した形で新装版が刊行となりました。
テールは三日月島にすむ、海の宅配便<ドルフィン・エクスプレス>の配達員。スピードボートであちこちの島や湾に荷物を届けるのが仕事だ。ある日、テールは配達先のヒスイ島で、なぜか受けとりを拒否されてしまう。送り主は、かつてあこがれだった伝説のヨットレーサー、うみねこ島のフルヤ・サンゴロウだった! サンゴロウに荷物を返しにうみねこ島に向かうテール。しかしそのなぞめいた荷物を扱ううち、テールは自分のからだの中にべつの生き物がいるような奇妙な感覚をおぼえ始める。その荷物の中身とは? そして、そのなぞはとけるのだろうか?
人気ロングセラー<黒ねこサンゴロウ>シリーズからつづく海の冒険物語。
岩崎書店版<ドルフィン・エクスプレス>シリーズ(2002~2007年)の新装改訂版。
『黄色い竜』
絵本作家の村上康成さんによるはじめての児童書。自然豊かな町にくらす10歳の少年クリオは、おじいちゃんから、「子どものころにつりにがした、湖のぬしのような巨大なさかな」の話を聞き、そのさかなを釣るために、ひとり湖に向かいます。村上康成さんが描く自然が、今回は絵ではなく文章で、目に耳に肌に訴えかけてきます。まるでその場にいるかのような臨場感を味わえる読書体験。爽やかでありながらも、物語の展開は迫力満点です!
※サイン本も販売中♪
日本を代表する絵本作家・村上康成が
初めて文章で描く、
少年のひと夏の清新な物語!
ボローニャ国際児童図書展
グラフィック賞、
ブラチスラバ世界絵本原画展金牌、
日本絵本賞大賞などを受賞した
日本を代表する絵本作家・村上康成が
初めて贈る児童文学!
10歳の少年のひと夏、
まわりの人々や生きもの、
川や湖の風景が、目にうかんでくる
清新な物語。
クリオは、自然豊かな町にくらす10歳の少年。
弟の1歳のお祝いにやってきたおじいちゃんから、
「子どものころにつりにがした、湖のぬしのような
巨大なさかな」の話を聞いたクリオは、
そのさかなを自分がつりたい、と思うようになるが…?
ホタルの飛ぶ夜、親友とのキャッチボール、
まつりの金魚すくい、竹を切って作った
つりざおを手に山道を登るとき、
耳について離れないツクツクボウシの声…。
自然の中で生きる少年のひと夏を
まるごと描きだす、
絵本作家ならではの清新な物語。
カラーの挿絵多数。
『トラブル旅行社 魔獣牧場でホームステイ』
失敗は大冒険のはじまり! 廣嶋玲子さんがおくる冒険ファンタジーの第2弾が発売になりました。第1巻の『トラブル旅行社 砂漠のフルーツ狩り』や、「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」シリーズにハマっているという子は、こちらも読んでみませんか。失敗を挽回するために、旅のツアーに参加してミッションをクリアしていく主人公と一緒に、ワクワクハラハラの体験が待っています。
必ずお客さんのトラブルは解決できますよ。失敗は大冒険のはじまり!
「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」シリーズ 著者・廣嶋玲子さんがおくる冒険ファンタジー
シリーズ待望の第2弾!
母親の置き物を壊し、失敗を取り戻したい陸斗。流れ星を食べる星食いカエルや、黄金の毛を持つやさぐれ羊など、牧場で不思議な魔獣たちの世話をしながらミッション達成をめざす。
【今回の問題】:お母さんのお気にいりの置きものを割ってしまい、ばれてしかられるのがこわくて、家からにげだした。(上杉 陸斗/10歳)
【参加ツアー】:魔獣牧場でホームステイ
【旅のミッション】:1ホームステイ先のファミリーを手伝い、ファミリーから感謝されるように努力する。 2タイタンの卵を育てる。 3セイレーンのうろこを手にいれる。
■□■作者・廣嶋玲子さんからのメッセージ■□■
生き物のお世話は大変です。それが魔獣であれば、なおさらに。
でも、それを楽しむことができたら、きっと最高の体験になるはず。
トラブル旅行社の旅プランにご期待ください!
『ちいさな宇宙の扉のまえで 続・糸子の体重計』
数々の文学賞を受賞され、課題図書にも多くの作品が選ばれている、児童文学作家いとうみくさん。新刊が出るたびに注目しているという方も多いことでしょう。そのいとうみくさんのデビュー作『糸子の体重計』から10年……。待望の続編『ちいさな宇宙の扉のまえで』が発売になりました。当時5年生だった登場人物たち(細川糸子、町田良子、坂巻まみ、滝島径介)は今回の舞台では6年生に。転校生の日野恵という新メンバーも加わり、5人の視点で5つの物語が繰り広げられます。友達との気持ちのすれ違いに悩んだり、憧れたり、嫉妬したり、一方で家族との関係にも悩みながら、自分を見つめ、前に進んでいく5人の姿は、そのまま読者である子どもたちへの大きなエールとなることでしょう。
細川糸子と同級生の、町田良子、坂巻まみ、滝島径介。そして、転校生の日野恵。この5人の視点で語られる、5つの物語。
6年1組・細川糸子。がさつで粗雑と言われるが、そのまっすぐな言葉は、かかわる人に時に大きな影響を与えることを、当の本人は知るよしもない。おいしいものを食べることが生きがい。
糸子が盲腸で入院している間に転校してきた日野恵。糸子との距離をグイグイつめて親友であろうとするが、糸子にはその真意がはかりかね、消耗するばかり……。転校すればリセットできる。新しい自分になれる、そう思っていたけど、わたしはニセモノの仮面をかぶっていただけ。そんなわたしに本当の友だちなんてできるはずがない。
町田良子。才色兼備でクールな一面の裏で、糸子との出会いによって、他者とかかわる心地よさに気づき、あるべき自分を探し求める。思いはことばにしなきゃ伝わらない。わたしもいつかきっと。
坂巻まみ。町田良子に憧れる気持ちの真ん中にある、自分自身の感情に気づき、疑い、うろたえて、やはりそうなんだと自覚し向き合う。いまはまだこの思いを言葉にして伝えることはしない。でもいつか、自分自身を好きになれたらそのときは。
滝島径介。母は深夜までスナックで働いている。アパートでふたり暮らしの生活。思いがすれちがう日々。話をしよう。母さんの気持ちを聞いて。オレの思いを伝えて。母さんに大事なことをあきらめてほしくない。オレもオレが幸せになることをあきらめたりなんてしない。ちょっと図々しくなればいい。だいじょうぶ。
前作『糸子の体重計』では5年生だった子どもたちは、6年生になった。
相変わらず、小さなことでいじけて、羨んで、けんかして。
うじうじ悩んで、転んだりへたりこんだり、だれかのせいにしたり、逃げたり。
そして迎える、卒業式。
1作目『糸子の体重計』はこちら
『スクラッチ』
コロナ禍で何もかもが中止・延期・規模縮小。そんな中でもがきながら自分の未来に手を伸ばす、4人の中学三年生それぞれの迷いと疾走。いまだコロナとの共存生活が続いている2022年の夏、今この時をどう乗り切るかヒントが欲しい中高生や大人の方へ。また、いつか今の状況が過去の事となった後の未来の読者にも、コロナ禍の今を刻む爪痕となる力強い物語が誕生しました。
「もういやだ―――!!! コロナふざけんな―!!」
すぐに気持ちを外に表す鈴音(すずね)と、めったに取り乱すことなく、平常心を常としている千暁(かずあき)。バレー部のキャプテンの鈴音は、コロナ禍で「総体」(総合体育大会)が中止となり、憤りを隠せません。一方、美術部部長の千暁も出展する予定だった「市郡展」の審査が中止になってしまいます。平常心で、大きなパネル絵の作成に黙々と取り組む千暁ですが、絵を見た顧問の仙先生に「君はこの絵を描いていて楽しかったか?」と問いかけられ、初めて自分の絵がわからなくなってしまいます。
ある日、鈴音は千暁の描きかけのキャンバスを目にします。さまざまな運動部のメンバーがスポーツをする姿を描いたその絵は、はっとするほど美しいあざやかな色づかいと躍動感にあふれていて、鈴音は感動します。真ん中でバレーのアタックをしているのは、多分、私。けれどもその直後、鈴音は不注意で絵に墨を飛ばしてしまい……。
コロナ禍という状況の中、正反対ともいえる性格の、千暁と鈴音の思いが時に交錯しながら、二人の語りで物語が繰り広げられていきます。そこにクラスメイトの文菜や健斗の悩みが加わり、中学三年生の夏が展開されます。
注目したいのは、コロナによって引き起こされるさまざまな出来事にとまどいながら、自分の本当の気持ちを模索したり、周りの友だちや先生や家族の気持ちをあれこれ慮る登場人物たちの姿。それぞれが関わり合う様子に素敵な場面がたくさんあります。とくに素敵だと感じたのは、千暁と、美術部の幽霊部員健斗とのやりとり。お互い別世界の人間だと思っていたふたりが、実はお互いのことを「すごい」と思っていたことを知り、ふつふつと笑い合いながら心を通い合わせていく場面はとても優しく、爽やかです。また、不思議なキャラぶりを発揮している顧問の仙先生が、自分らしい絵を見つけるために奮闘する千暁をそっと見守り、何気なくサポートする数々の場面も大きなみどころです。
本書が刊行された2022年の夏は、未だ出口の見えないコロナとの共存生活が続いています。しかしこの物語がしっかりと読者に見せてくれるのは、行事やイベントが中止になろうとも、マスクが外せなくとも、私たちの日常は消えてしまったわけではないし、薄まったわけでもないということ。また、コロナであろうとなかろうと中学三年生の登場人物たちが進路に悩んだり、自分らしい在り方を探し求める姿は、読む私たちを大いに励ましてくれるのです。
千暁が真っ黒なキャンバスに「スクラッチ手法」で力強く刻んでいった先に見つけるひとすじの光――。その光のように、目をそらさなければ必ず前に進める、希望が見えてくるということを提示してくれる本書は、ふと立ち止まってしまった時にも私たちの背中を押してくれるにちがいありません。
(秋山朋恵 絵本ナビ編集部)
戦争と平和について考える読み物新刊(復刊含む)
今年の夏も、戦争と平和について考える読み物の新刊がさまざま刊行となりました。
2022年6月、7月、対象年齢別おすすめの児童書新刊
その他おすすめの新刊を対象年齢別にご紹介します。
小学校低学年から
小学校中学年から
小学校高学年から中高生に
秋山朋恵(あきやま ともえ)
絵本ナビ 副編集長・児童書主担当
書店の本部児童書仕入れ担当を経て、私立和光小学校の図書室で8年間勤務。現在は絵本ナビ児童書主担当として、ロングセラーから新刊までさまざまな切り口で児童書を紹介。子どもたちが本に苦手意識を持たずに、まず本って楽しい!と感じられるように、子どもたち目線で本を選ぶことを1番大切にしている。編著書に「つぎ、なにをよむ?」シリーズ(全3冊)(偕成社)がある。
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