【今週の今日の一冊】新学期や仕事始めの一週間に読みたい絵本。自分のリズムで進もう。
今週は3学期が始まったり、本格的にお仕事が始まるという方が多い週になるでしょうか。1月8日は「成人の日」でもあり、新たなスタートという雰囲気がありますね。でも長めのお休みの後に何だか億劫だな、という気持ちになった時には……自分のリズムを探したり、整えたりできるような絵本を手にとってみませんか。今週は、それぞれの個性の豊かさを温かく伝える絵本や、時間のさまざまな捉え方を発見する絵本、深呼吸できる絵本などをご紹介します。
2024年1月8日から1月14日までの絵本「今日の一冊」をご紹介
1月8日 どんどん進めば、「みち」ができていく
月曜日は『みち』
まっ白な画面に引かれた力強い一本の線。
それがそのまま、ぼくたちが歩く「みち」となり、「さかみち」となり、「くだりみち」や「でこぼこみち」になり。雪が降っても、太陽に照らされても、「みち」があればどんどん進み。時には「よりみち」したり、「まよいみち」になったり。
近くても遠回りでも、長い道のりであっても、「みち」があれば、進んでいくことができる。でも、「みち」が見えなくなったら……?
「それ!」
線を引くのは、自分自身。どんどん進めば、「みち」はできていくもの。そうだよね。
三浦太郎さんの最新作は、いつもとちょっと雰囲気が違う? シンプルで美しい色面の構成による作品の印象が強いけれど、今回の主役は、思いっきり手で描かれたような力強く太い、味のある線。その道を歩いていく男の子と女の子、登場する家並みや商店街もどこか懐かしく。限られた色彩の中で描かれるのは、とても魅力的で親しみのある日本の風景。さあ、どんどん行こう。ぼくたちの新しい道! 読めば、子どもも大人も元気が出てくる絵本です。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
読者の声より
深読みしたら人生のような道です。
道にはいろんな道があって、それを自分は歩いていくのですね。
リズムがあるから、歩くことに楽しさがあります。
道が途切れていても、ちゃんとその先に道があるっていう発想も素敵です。
目的地に到着するのかと思ったら、道は裏表紙に続いていて、また表紙につながっていました。
若いうちは道はエンドレスです。
いろいろあるけど、まだまだ歩いていきましょう。
知らず元気をもらえる絵本です。
(ヒラP21さん 70代以上・その他の方 )
1月9日 きみが持っている音は、ひとつじゃない。
火曜日は『パッチワーク』
きみは、生まれる前からブルーとつながっていた。男の子だとわかった瞬間から。きみは、今でもブルーにとらわれている。ピンクや茶色が好きだったとしても。
でも、本当にそうかな。きみの涙はピンクでもブルーでもない。涙は人間のしるし。大人になったら全然別な色が好きになるかもしれないよ。
ダンスをするために生まれてきたと言われるきみは、いつだって頭の中にリズムを奏でている。でも、それはもしかしたら世界をかえるようなプログラミングを考えつくことにつながっていくのかもしれない。
いつもぼんやり上の空、笑わせることが得意なきみは、自分みたいな子どもの気持ちがわかる素敵な先生になるかもしれないし、誰にでも優しいあなたは、いつかみんなのリーダーとなって引っ張っていく強さを持った人になっていくのかもしれない。
きみが持っている音は、ひとつじゃない。生きていく上で経験した気持ちや出会いで色々によってさまざな音や色がパッチワークみたいにぬいあわさっていく。それが例えいびつでも、ちぐはぐでも……。
詩のようにつづられていく文章とともに描かれているのは、少しずつ色の数が増えていき、どこまでも空想が広がっていくような美しい絵。それらは時には抽象的に感じることもあれば、どこかでまっすぐ具体的に心に突き刺さってくることもある。読むたびに捉え方が変わっていくこともあるでしょうし、心が解放されたように感じる子もいるかもしれない。
ニューベリー賞とコールデコット賞をダブル受賞した作家と、ニューヨークタイムズベストセラーとなった絵本作家によって生まれたのは、無限の可能性を秘める子どもたちの豊かな心の世界を、子どもたちにも大人たちにも伝わるように描いてくれた絵本。それぞれのタイミングで、ふと手にしたくなる一冊になっていくといいですね。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
読者の声より
8歳の長男がパラパラとページを進めていました。おそらく文字を追ってはいないけれど、色彩に魅せられている様子。
しばらくして「あぁ。なぁんだ。」と納得したような声。
最後のページを開いたまま「これは、いろんな人の言葉なんだね。みんなの声が集まればこんなにキレイな模様になるんだ。」 言葉を追うだけでは出てこない解釈で、子どもの感性には、かなわないなと感じてしまいました。
それぞれ得意なこと、好きなことに夢中になって全身全力をかけて挑んだあと。役割を終え、良い時期を過ぎ、これまでの自分では居られないと分かったとき。
さて、自分はこれ以外に何をもっているのかしらと途方にくれてしまいそうです。
パッチワークはもともとの個性(色・柄)で、新たな模様を作り出す手仕事。人もまた、それまでとは違った役割でも、自分の感性のまま形を変えて、個性を深めることができるのだと、教えてくれる一冊でした。
とても不器用な生き方をしている息子の「個性を守ること」ばかり考えていた自分を振り返り、そうか、もっと自由でいいんだと気づかせてもらいました。
(つぐすけさん 40代・その他の方 男の子8歳、男の子4歳)
1月10日 ぼくも自分のリズムを見つけられるかな。
水曜日は『「はやく」と「ゆっくり」』
朝からパパとママはぼくに言う。
「はやく はやく」
起きた時、ごはんを食べる時、出かける時。夜寝る時も。ぼくは目が回るように忙しい。田舎のおじいちゃんとおばあちゃんはぼくに言う。
「ゆっくり ゆっくり」
出かける時、森を歩く時、食べる時。まるで時計のない家に住んでいるみたいだ。ある時、おじいちゃんとおばあちゃんが家にくると、ぼくは「はやく」と「ゆっくり」の間にはさまれちゃって、どうすればいいのかわからなくなり……!?
誰もが心の中に時計を持っている。それはパパやママ、おじいちゃんやおばあちゃんだって同じ。ぼくも自分のリズムを見つけられるかな。
台湾から届いたこの絵本。さまざまな時間の感覚を体験しながら少しずつ成長していく男の子の様子を、あたたかな目線で描き出します。「はやく」と「ゆっくり」って面白い。わかったつもりになっていた大人の心にも響く一冊です。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
読者の声より
カラフルでおしゃれなイラストに惹かれ、手に取りました。
主人公の男の子は、お父さんやお母さんには「はやくはやく」と急かされ、おじいちゃんやおばあちゃんには「ゆっくりゆっくり」と言われ、混乱します。
子どもたちにいつも「はやくはやく」と急かし続けてしまっていたことにハッとしました。
登場するおじいちゃんの「はやくてもゆっくりでもかまわない。自分のリズムを見つけるんだよ」というセリフが印象的。
「ときどきはやく、ときどきゆっくり」を、私も心に留めておこうと思います。
(クッチーナママさん 40代・ママ 女の子18歳、女の子15歳、男の子13歳)
1月11日 時間は、すすんでいくもの? それとも……
木曜日は『きみが 生きる いまの おはなし』
「チクタク チクタク」
聞こえてくるのは時計の音。時計やカレンダーの数字は、時間や月日を教えてくれる。でも、時間ってなんだろう? 時間って、どういうことなんだろう? 目には見えないけれど、確かにここにある時間。親しんでいるはずなのに、つかみどころのない時間。
例えば、こんなことかもしれないね。
時間は、種かもしれない。じっと眠っていて、その時がくると花になる。そして、やがてしおれてしまう。
時間は、チョウかもしれない。だって、もともとは小さなアオムシだった。あるいは、時間は思い出かもしれないし、髪の毛がのびることかもしれない。時間はゆっくり進むこともあるし、あっという間に過ぎていくこともある。時間は……。
みんながそれぞれに感じる時間。同じだと思っていたけれど、どうやら色々な顔を持っているのかもしれない。もっと複雑なのかもしれないし、意外とシンプルな気もする。次々に登場するスタイリッシュな絵と、わかりやすく味わい深い言葉による、さまざまな「時間」の具体例。この魅力的な絵本を通して見えてくるのは、「いま」という時間がとっても愛おしいということ。その時にしかない、大切な一瞬なのだということ。
絵本を読んでいるきみにとって、今というのはどんな「時間」? 一度目と二度目はちがった? ……頭の中をぐるぐるさせながら触れてほしい一冊です。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
読者の声より
時間って何だろう。
そう考えるゆとりが持てたら、時間を有効活用できるのかも知れません。
一瞬の時間の可能性、期間経過によって変わっていくもの、時間によって変わってきたもの、そして未来予測も。
様々な切り口で、「時間」というものを分析している本です。時間をかけて味わうことで、時間に対する意識を高められるような気がします。
ジュリー・モースタッドはカナダの作家ですが、日本的な絵が出てきたり、富士山が出てきたり、日本人に向けて発信された絵本にも思えます。
(ヒラP21さん 70代以上・その他の方 )
1月12日 「じぶんがすきなところ」をもとめて、冒険の旅に
金曜日は『ちいさな木』
もう何年もそこに生えている一本のちいさな木。ある時一ぴきの犬が走ってきて、こんなことを言います。
「ぼく、ゴッチ。つなを くいちぎってね、家出したんだよ。
これから じぶんの すきなところに いくんだ」
自分の好きなところ? ちいさな木は自分も行ってみたくなります。でも動けないから無理だとあきらめかけていると、ゴッチはやってみなくちゃわからないと言います。ためしに根っこをよっこらしょって引き抜いてみると……歩けた! ちいさな木はキッコと名乗り、ゴッチと一緒に「じぶんがすきなところ」を求めて、冒険の旅に出発することに。
ゴッチは、スタンスタン。キッコはイッポイッポ。ゆるやかな丘を登ったり下りたりして歩いていくと、途中で岩のイワオ、沼のイッテキにも出会い、「じぶんのすきなところ」に魅入られた異色の4人が一歩ずつ進んでいきます。スタンスタン、イッポイッポ、ゴロンチョゴロンチョ、ポチョンチョポチョンチョ。その先に見えてきた景色は……?
ああ、なんて素敵な冒険なのでしょう。無理だと思っていたけれど、やってみたら出来るかもしれない。自分の居場所を自分の足で見つけられるのかもしれない。もちろん、その場所が4人とも一緒だとは限らないのですけどね。
文章を手掛けているのは、童話や絵本など、数々の名作を世に送り出してきた角野栄子さん。小さな木の不思議な物語を、軽快に、そして優しくシンプルな言葉で綴ります。絵を描かれているのは、「魔女の宅急便」シリーズ(福音館書店)で角野さんとタッグを組まれている佐竹美保さん。モノクロが基調となった絵は、象徴的でもあり、ユーモラスでもあり。後半に広がっていく緑色の風景は何年経っても心に残るであろう美しさ。
年齢に関係なく、読み終われば、なんだか背中を押してもらったような気分。今ならなんでもできる気がしてきます。「やってみないとわからないでしょ!」 角野さんと佐竹さん、お二人の声が聞こえてくるようですね。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
1月13日 ゆっくりはいてたっぷりすうと、力がわいてくる!
土曜日は『ゆっくりはいて たっぷりすって 心も体も元気になる本』
いいこと おしえてあげる。
いっしょに やってみようか。
それは「ゆっくりはいて たっぷりすって 心も体も元気になる」呼吸法。要は深呼吸で、「なんだか ちからが わいてくる!」という、自分を元気にするツールなのです。男の子が語りかけながらポーズをとってくれるので、イメージしやすいのがポイント。「おなかと せなかが くっつくくらい ゆっくり たくさん はいて」など、具体的な語りをまねてやってみると、深呼吸をマスターできます。
作者のこがとしこさんは、気功インストラクターとして、呼吸の効果と呼吸法実践普及のため活動中の方。国立成育医療研究センター医師による監修で、医学的効果も検証済です。
ストレスを感じた時に、深くゆったりした呼吸法を実践することで、しなやかな強さと回復力を手に入れることができるそうですよ。さあ、深呼吸で元気をチャージ!
(中村康子 子どもの本コーディネーター)
読者の声より
絵本のタイトル通り、深呼吸をするお話です。
主人公の男の子と一緒に「ゆっくりはいて たっぷりすって」を繰り返すお話です。
深呼吸をすることで、気持ちがスッキリしたり、やる気が出たりと変化が出てくることを教えてくれます。
子どもたちに読み聞かせてあげたい一冊です。
(さくら嵐♪さん 40代・せんせい)
1月14日 きみはひとりじゃない、きみの存在には意味がある。
日曜日は『きみはたいせつ』
自分がどうしようもなく小さく思える。
誰にも気にされていないんじゃないかと感じる。
そんなきみにこそ、伝えてあげたいのは。
「きみは たいせつだよ」
ってこと。なぜかっていうとね……。
気づかれないほど小さな微生物も、やっかいものだと思われてる生き物も、足並みを揃えることのできない子や、助けを求めても気が付いてもらえない子も。
たとえ、きみが抱えきれないほど大変なことが起きたとしても、大切な人と信じられないほど遠く離れていたとしても、たまらなくさびしくなったとしても。
みんなひとりじゃない。この宇宙の中で、生命の進化の中で、そのすべてのつながりの中で生きているきみの存在には、意味がある。
素朴な可愛らしい絵で優しく語りかけてくれるのは、『おばあちゃんとバスにのって』(鈴木出版)でコールデコット賞オナーブックに選ばれ世界で注目されている絵本作家クリスチャン・ロビンソン。『きみはたいせつ』も世界8か国、6万部以上も出版されているそう。原書はYou MatterというBlack lives matterにも呼応するタイトルで、子どもたちも含め、誰も排除されない社会への願いがこめられています。
「どんなきみだって、たいせつ」
ゆっくりと、そして、くり返し。一緒に読み続けてあげてくださいね。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
読者の声より
私はこの本を読ませて頂いて、とても感動しました。これはいのちの大切さを教えてくれるからです。私は誰でもかけがえのないいのちであり、まさに奇跡だと信じています。きみはたいせつという言葉はまるでダイヤモンドのように光っています。
(水口栄一さん 60代・その他の方)
いかがでしたか。
今年の初めには、竜とドラゴンの絵本をご紹介しましたが、2週目には、気持ちがほぐれるような絵本をご紹介したいと思いました。
始まりの週の気持ちが少しでも楽になりますように。
選書・文:秋山朋恵(絵本ナビ副編集長)
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