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小学生におすすめの新刊

【小学5、6年生におすすめの新刊】『ぼくは本を読んでいる。』

少年と一緒に本の世界をのぞいてみよう

『ぼくは本を読んでいる。』なんだかちょっと珍しいタイトルですね。いったいどんなお話なんでしょう?
主人公は小学5年生になりたてのルカという名前の男の子。とくに本好きではありません。けれどもちょっとしたことがきっかけで、両親が子どもの頃に読んだのではないかと思う本を手にします。『ぼくは本を読んでいる。』は、本を読んでいる少年が本を読みながらどんなことを感じるのか、その頭の中がのぞける物語です。そして読者も一緒に「読書体験」ができるちょっと珍しい1冊です。
さあ、ルカと一緒に気軽な気持ちで本の世界をのぞいてみませんか?

『ぼくは本を読んでいる。』

ぼくは本を読んでいる。

出版社からの内容紹介

ぼくの家には壁一面に天井まである本棚が置かれた「本部屋」がある。そこで見つけた、紙カバーに包まれた文庫サイズの本。ぼくの両親のどちらかが小学生のころに読んだはずの本。
どうしてだかぼくは、それを親に隠れてこっそり読みたくなった――。

『小公女』を読み始めたルカは、主人公のセーラ・クルーの行動にツッコミを入れつつ、両親がまだスマホを与えてくれない理由を聞きつつ、幼なじみや転校生と日々の雑談をこなしつつ、手にした本を読み終えることができるのだろうか?
幼なじみのナナ、2年ぶりに一緒のクラスになった安田、読書好きの転校生カズサとの日常は、この「読書」によってどんなふうに変わっていくのだろうか?

映画化もされた『お引越し』で知られる児童文学作家、ひこ・田中が描く、本好きではない少年の1週間の読書体験。「読書離れ」とか言われてしまう今時の子どもたちよ、本なんて好きではなくても読書はできる! この本で逆襲せよ!!

おすすめポイント

  • 小学5年生のルカの考えていることがとにかく興味深い! 思春期の子どもたちが抱く周囲に対する気づきや微妙な気持ちの変化がうまく描かれていて、共感する子も多いのでは?
     
  • 主人公のルカはとくに本好きの子ではありません。そんなルカがふとしたことから本を読んでみることにするのですが、最初から最後まで、ルカと同じように気楽な気持ちで楽しく読み進められるお話です。
     
  • この本1冊読むと、この本を入れて全部で3冊お話を読んだ気持ちになります。
    というのは、ルカの読書体験を一緒に味わえるので、ルカが読んでいる本を自分も一緒に読んでいるような気持ちになれるからです。ルカの感想と自分の感想がどう違うかを感じてみるのも面白いでしょう。読んでいる本のタイトルは、『小公女』と『あしながおじさん』。古典作品なので、もしかしたら自分ではなかなか手に取らないかもしれません。けれどもルカの感想を読んでいくと、『小公女』と『あしながおじさん』を自分でもあらためて読んでみたくなります。古典作品への良い案内役ともなってくれる1冊です。(※けれども大部分のあらすじや結末が分かってしまうので、まず原作で読む喜びを味わってほしいと願う方は、先に『小公女』『あじながおじさん』の本を手渡して下さいね。)

こんなタイプの子に特におすすめ

  • ルカと同年代の小学5、6年生におすすめです。男の子も女の子も面白く読めると思いますが、高学年の男の子が共感できるお話というのは少ないのではないかと思うので、ぜひ男の子におすすめしたい本です。
     
  • 普段あまり本を読まない、最近読んでいない子に、クラスメートの男の子の頭の中をちょっとのぞいてみる、ぐらいの気楽な感覚で手に取ってほしい本です。
     
  • 日常のさまざまなことに疑問を持っている子、じっくり考えることが好きな子は、さまざま共感したり、発見があったりと、とくに面白く読めるのではないかと思います。

どんなお話?

小学5年生になったルカの始業式から七日目までが描かれます。始業式から帰宅した一日目、部屋に出たゴキブリを追いかけたことをきっかけに、久しぶりに、壁一面が本棚になっている「本部屋」に入ります。そこで本棚の一番上に、5冊だけカバーがかかった本を見つけます。ルカはなぜこの本だけカバーがついているのかということにドキドキし、秘密をのぞくような気持ちで、順番に読み進めることにします。

さて、ルカはその本をどんな風に読み、どんなことを感じるのでしょうか?
またもう一つのこの本の楽しさは、ルカの日常における考察にあります。これまで特に疑問に感じなかったことが気になって、さまざま考察し、新たな発見を重ねて大人へと近づいていくルカ。同じく5年生になったばかりの幼なじみのナナ、2年ぶりに一緒のクラスになった安田、読書好きの転校生カズサとの会話も楽しく、クラスメートたちとおしゃべりしているような親近感で読めます。

ここが面白い!

  • 言ってしまえば、このお話は特別なことは何も起こりません。ただただ、小学5年生のルカが過ごす一週間が書かれているのみ。けれどもなぜだか面白くて読み続けてしまうのは、ルカの毎日や考えていることに親近感を持ったり、共感できるからではないかと思います。
     
  • ルカのちょっとした気づきが面白く、その気づきによって成長していく様子が感じられます。同年齢の子どもたちも同じようなことを考えたことがあるかもしれませんね。
    たとえば、
    *「ぼく」と「オレ」「わたし」の使い分けについて。自分はその中でどれを選ぶか。
    * 子どもを「ちゃん」づけで呼ぶ親と呼ばない親についての考察と、また「ちゃん」づけで呼んでた親が「ちゃん」をつけなくなったきっかけについて
    *スーパーマーケットで売っている物の並び順の法則について
    *ネットやスマホがあることの便利さと不便さについて
    などなど。
     
  • 新たな本の楽しみ方を知ることができます。
    *特に、本の真髄をついていると私がドキリとしたのは、転校生のカズサがクラスメートに言った次のひと言です。
    「あんな、ナナ。物語は二種類しかないのん。おもしろいか、おもしろくないかだけ。新しいか古いかはあんまり関係ないよ。」
     確かに、と深く納得です。子どもたちにも新しいか古いかではなく、おもしろいか、おもしろくないか、その目線で本を選んでほしいなと思いました。

    *ルカと転校生のカズサが、同じお話で訳者が違う本について読み比べをする場面が出てくるのですが、そうしたちょっと一歩進んだ本の楽しみ方についても知ることができます(私自身が訳者を意識して本を選ぶようになったのは大人になってからなので、小学生の頃にこのことに気づけたら、それはすごいことだなと思います)。

このお話を書いたのは?

作者のひこ・田中さんは、児童文学作家さんであると同時に、たくさんの児童文学や子どもの本を分かりやすく紹介して下さる書評家さんとしても有名です。そんなひこさんが、ルカの目線で紹介する『小公女』『あしながおじさん』の面白いことといったら!
読みながら、子どもの頃に読んだ記憶や、「世界名作劇場」のアニメで見た記憶が蘇ってきたのですが、当時は気づけなかった発見がたくさんあり、もう1度読み直してみたいという気持ちになりました。まだ読んだことのない子が興味を持つきっかけにもおすすめです。

ひこ・田中さんの作品は、子どもの目線から描かれているところが大きな魅力です。大人が読むと、子どもの頃の気持ちが呼び起こされたり、高学年向けのお話では、どこか恥ずかしいような甘酸っぱいような気持ちが蘇ってきたり。そんなひこ・田中さんの作品を対象年齢別にご紹介します。

秋山朋恵(絵本ナビ 児童書担当)

掲載されている情報は公開当時のものです。
絵本ナビ編集部
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