【小学3、4年生におすすめの新刊】『オポッサムはないてません』『ぼくはくまですよ』
読み終わった後、モヤッとするお話
あれ? モヤっとする話っておすすめする言葉なの?
思わず突っ込んでしまったあなた。そうですよね、いきなり、この本モヤッとするよ、なんて言われたら、だれだって驚いてしまいますよね。けれども読み終えた後、なにかが心に引っ掛かるんです。どうしてモヤっとするのか気になる性格の子はとことんその原因について考えるも良し、考えるのが面倒だったら深く考えなくて良し。ただその心の引っ掛かりをずっーと忘れないでいてくれたらいいなあ、なんて、大人の私としては願ってしまう、今回はそんな作品をご紹介します。
「幸せってなんだろう?」
木にぶらさがるオポッサム。
人間たちは下から見上げたので、にこっと笑った口元をフニャっとさがっていると勘違いしました。
「ぼくはにこにこですよ」
「いいや、めそめそオポッサム! しあわせにしてやろう!」
人間たちは、オポッサムを町に連れて行きますが・・・!?
楽しくてわらっちゃうお話。
隅々まで見たくなる挿絵。
年齢によっては、読んだ後に考えるメッセージも受け取れます。
おすすめポイント!
- 大きな勘違いをされてしまった「オポッサム」。読みながら、違う、違う、と思っているうちに、つづきが気になって、あっという間に読めてしまいます。あっという間に読めるけれど、何かが引っ掛かり、心に残ります。そして不思議と何度も読みたくなってしまうお話です。
- 作者自身による、ユーモアと皮肉の入った挿絵がお話をさらに楽しくしてくれています。ぜひすみずみまで眺めてみて下さいね。オポッサムの表情から、オポッサムがどんな気持ちでいるのか、場面ごとにちゃんと感じ取ることができるでしょうか? 四人の人間たちのように勘違いしたりはしませんか? また各ページの人間たちの表情にも注目してみると面白いですよ。
- 短いお話の中に、子どもも大人もじっくり考えたい大切なテーマが込められています(子どもにこの本を手渡す大人の方は、この本のあとがきまでじっくり読んでみて下さいね)。
こんなタイプの子に特におすすめ
出版社のHPによると、対象年齢は中学年からとありますが、3、4年生の皆さんはもちろんのこと、5、6年生もさまざま考えさせられるお話なので、ぜひ読んでみて下さい。そして大人の方にもぜひ読んでみてほしいと思います。年齢が高ければ高いほど、深いメッセージが迫ってきて、私自身も、読みながらずっとドキドキが止まりませんでした。ちょっとこわいお話や奇妙なお話が好き、という子にも面白く読めるかも?
小学生で出会った後、また5年後、10年後……その先で、再び出会って、子どもたちに自分の感じ方の違いを発見してみてほしいお話です。
どんなお話?
森に住んでいるオポッサムは、いつもにこにこわらっていて、一番ごきげんで、一番しあわせな動物でした。しかし、ある日四人の人間がピクニックにやってきて、町へ帰る途中で、木にぶら下がっているオポッサムを見つけます。そこでオポッサムを下から見上げた人間たちは、にこにこしているオポッサムをかなしんでいると勘違いし、オポッサムをにこにこのしあわせ者にしようと町へ無理やり連れていきます。町では、オポッサムに映画を見せたり、ディナーショーへ連れて行ったり、自分たちの価値観で、オポッサムをにこにこにしようと奮闘するのですが……。
はたしてオポッサムをにこにこにすることはできたのでしょうか?(はじめからにこにこしてるのに、どうやってにこにこにするのでしょうね……)
ここが面白い!
- まずこの「オポッサム」ってどんな生き物なのでしょう?
どうやら表紙にいる小さな生き物のことのようだけど、実際にいる動物なのでしょうか? 読み終えてもし気になったら調べてみるのも面白いかも? 読んでいるうちに、なんだかどんどん可愛く感じられてくるオポッサム。とくに66ページのオポッサムの表情がたまりません。
- オポッサムと四人の人間たちの会話で、何度も繰り返される「いいえ、にこにこしてますよ。」「いいや、にこにこなんかしていない! にこにこしていると思ってる、めそめそオポッサムだ!」のやりとりが笑えます。声に出して読むと、さらに面白さが増しそうです。
- なかなかオポッサムを捕まえられなかった人間たちは、どうやってオポッサムを町に連れていったでしょう?
- 訳者の小宮由さんの言葉の響きにはユーモアがいっぱい。
とくにお話の中で出てくる「にこにこ」「めそめそ」の言葉は、繰り返されれば繰り返されるほど面白く、ユーモアが増していきます。声に出して読むとさらに楽しそうですよ!
- 四人の人間たちの、オポッサムに対する大きな勘違い。しかしそれに気づくことなく、オポッサムをにこにこにしたことで、賞賛を浴び、どんどん有名になっていきます。その賞賛のされ方もおかしくて笑ってしまうのですが、似たようなことが現実にも起こっているような気がしてしまいます(これは大人の感想かもしれません)。
このお話を書いたのは?
フランク・タシュリンというアメリカの作家さんです。子どもの頃から漫画を描くのが好きで、大人になってからは、アニメーターとして活躍。ワーナーブラザーズやウォルト・ディズニー社などで働き、ミッキーマウスなどの脚本も手掛けられたそうです。その後、映画監督としても活躍されたそうなのですが、子ども向けの著作は、『オポッサムはないてません』と『ぼくはくまですよ』の2作品のみとのこと。もっともっとこの作家さんの子ども向けのお話を読んでみたいと思ったのに2作品のみというのは残念ですが、大切に読み継いでいきたいと思いました。ちなみにこの2作品は、アニメ化もされているそうです。
では、フランク・タシュリンさんのもう1冊のお話『ぼくは くまですよ』もご紹介します。
「自分がくまなのかどうかは、だれが決めるのだろう?」
くまが冬眠から目覚めると、そこは、騒がしい工場の中でした!
「おい、そこのおまえ、仕事はどうした!」
工場の主任が近づいてきてどなります。
「仕事ってなんです? ぼくはくまですよ」
くまは、そうこたえますが・・・!?
楽しくて笑っちゃうお話と、隅々まで楽しめる挿絵。
年齢によっては、読んだ後に考えるメッセージも受け取れちゃう!
こちらの『ぼくはくまですよ』も、ユーモアたっぷりで笑えるお話でありながら、読み終えるとやはりモヤっとする作品です。私自身は、読んだ後、自分の存在がなんだかぐらぐらするような感覚を覚えました。
このお話について、作者の小宮由さんは、あとがきで次のように述べておられます。こちらの作品にも考えさせられる大切なテーマが入っているのが伝わってきますね。
「くま」と「工場の人間たち」とは、何の隠喩なのか? 単純に考えれば「少数派」と「多数派」とか「民衆」と「権力者」とかになるでしょうか。しかし、もう少し深読みすると「(そもそも自分はくまなのだから、くまとして生きるのだという)真理をわきまえている人」と……(この続きは、お話を読んだ後にあとがきでお楽しみ下さい)
最後に……
今回ご紹介した2冊は、2018年12月から刊行開始となった「こころのかいだん」シリーズの最初の2冊なのですが、こちらの「こころのかいだん」シリーズの主旨についても小宮由さんが素敵なメッセージを書かれているので、最後にご紹介したいと思います。これからどんな作品がラインナップに入ってくるのか楽しみですね。
こころのかいだんシリーズ
楽しい読書体験は、あなたの「こころのかいだん」を大きくします。そして、階段のてっぺんまでのぼったら遠くの景色が見えるように、広い世の中を知ることができます。階段の底まで降りていったら? それは、あなた自身を深く見つめられるようになります。このシリーズが、そんなあなたの「こころのかいだん」になれますように。
秋山朋恵(絵本ナビ 児童書担当)
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