【パパも絵本を楽しもう!】絵本ナビパパスタッフが選ぶ3月の絵本
「子どもに読んであげる絵本を、パパが選ぶのってすごく楽しい。パパ自身がもっと絵本を楽しんだら、いろんなことを子どもと分かち合えるし、自分にも返ってくる。ママとパパ、複数の目線で選ぶと、子どもの本棚はすごく豊かになるんです。」 そう語るのは、絵本ナビスタッフの奥平亨パパ。2児のパパで、イベントなどでの読み聞かせ活動歴10年以上、ロングセラー絵本の知識はもちろん新刊情報もいち早くキャッチしている絵本のプロです。
たとえば、好きな詩を共有するように、パパも絵本を通して子どもたちに思いを伝えられたらいいですよね。
気負わず楽しく、パパ目線で絵本選び。奥平パパから子育て中のパパたちに向けて、絵本を選ぶコツと季節のおすすめ絵本を紹介します!
パパが選ぶ、3月に読みたい絵本
卒園する子どもたちに
3月、春を迎えて、卒園や卒業、入学、進級など子どもたちの生活が大きく変わるタイミングですね。僕は保育園に毎月読み聞かせボランティアで伺っているのですが、毎年3月に担当するクラスには、「みんなともだち」を読んでいます。 ご存知の方も多いと思いますが、この文章にはちゃんとメロディがついて歌になっているので、歌いながら読んでいます。おはなし=歌詞はすべてがいいのですが、
「みんないっしょにうたをうたった みんないっしょにえをかいた みんないっしょにおさんぽをした みんないっしょにおおきくなった」
というところが特に大好きです。特別なことでなく、子どもの日常のひとつひとつを中川さんは本当によく見ていることがわかります。毎回読んでいて泣きそうになる。そんな僕を見て子どもたちはポカーンとしているわけですが。
卒業する小学6年生に読んであげたい絵本
保育園の卒園で読む本が『みんなともだち』なら、小学6年生が卒業するタイミングで読みたいのが太田大八さんの『ともだち』。小6の子どもたちにとってさえ、20年後どうしてるかなんてなかなか想像が難しいと思います。で、ここで描かれている仲間たちの未来はとても多様で素敵なものばかり。子どもの時の「その子らしさ」を大人になっても持ち続けていることにも感動します。
僕は息子が小6の時、最後に読み聞かせをする機会をもらえましたのでこの本を捧げました! 今年は娘のクラスでもこれを読みます! さて我が子どもたちの20年後はどうなっているんだろう。
満開の桜に感じる生と死と
かつて、わたしが一度だけ行ったことのあるふしぎな谷のお話です。
まだ山が枯れ木におおわれる春の手前、林の中の尾根道を歩いていたわたしは、のぞきこんだ谷を見ておどろきました。そこだけが満開の桜にうめつくされていたのです。
聞こえてくる歌声にさそわれてくだっていくと、谷底で花見をしていたのは、色とりどりの鬼たちでした。鬼なのに、ちっともおそろしいという気がしません。まねかれるまま、わたしは花見にくわわります。目の前のごちそうは、子どもだったころ、運動会の日のお重箱に母がつめてくれたのとそっくりです。
「かくれんぼするもの、このツノとまれ」
ふいに、一ぴきの鬼がとなえると、鬼たちはたがいのツノにつかまって長い行列になりました。列の最後の鬼のツノにつかまったわたしは、かくれんぼの鬼をすることになります。わたしは、林の中をかけまわってさがすのですが、なかなか鬼たちをみつけることができません。
そのうちに、だんだんふしぎな気持ちになってきました。わたしがおいかけているのは、ほんとうに鬼なのでしょうか。だって、いま、あの木のうしろにかくれたのは、わたしのおばあちゃんのようでした。こっちの木のかげには、おかあさんが。そこの木のうらには、おとうさんがかくれました。それは、みんな、みんな、もうこの世をさってしまった人たちなのでした。
でも、そうか。みんな、ここにいたのか。桜の谷であそんでいたのか──。
そうわたしが思ったとき、風がふきわたり、谷じゅうの桜がいっせいに花びらをちらします。
気がつくと、わたしはひとりぽつんと雑木林の中に立っていました。満開の桜はきえていましたが、ヤマザクラの枝さきに、大きくふくらんだ花のつぼみが見えました。どこかで、あの鬼たちの歌声が聞こえるようでした。
~「桜の樹の下には屍体が埋まっている! これは信じていいことなんだよ。何故って、桜の花があんなにも見事に咲くなんて信じられないことじゃないか」~
ちょっと衝撃的な一文で始まるこの文章―梶井基次郎の『桜の樹の下には』を皆さんは読んだことあるでしょうか?僕はたぶん高校生の頃に初めて読んだと思いますが、これ以来、桜にはなにか生きることと死ぬことの間(あわい)を感じてきました。 また少し遡って中学の頃、教科書に載っていた大岡信さんの『言葉の力』で、染色家の志村ふくみさんの話として、着物を桜色に染めるには、花びらでなくその皮から煮だしたものを使うこと、しかもその色は花が咲く直前の、木全体がピンク色になろうとしているときの皮からしかとれないことを教えてもらったエピソードが書かれているのを読んで、その桜の内部からの強い生命力のようなものに対して、僕はちょっと大げさに言えば「畏怖」を感じてきました。 前置きが長くなりましたが、そんな僕にとっては、この『さくらの谷』のおはなしはすごく自然に受け入れられる、とても素敵なファンタジーでした。富安陽子さんの文章がやはり素晴らしいのですが、松成真理子さんの絵がとにかくいい! 桜が仲立ちをする、この世界とあの世界の間(あわい)を本当に見事に描き切っています。多くの愛する身近な人を見送った経験のある大人が主人公として描かれているので、もしかしたら子どもたちは主人公に感情移入するのが少し難しいかもしれません。でも子どもたちも、子どもたちなりに別れを経験しているはずで、この『さくらの谷』にある、寂しさと温かさの複雑な共存には何かを感じてくれるのではないかと思います。
『どろぼうがっこう』学校が始まるあなたに。こんな学校があるといいね。
『はなをくんくん』とにかく絵が素敵、黒の中の黄色の花のなんと鮮やかなこと。春が待ち遠しい!!
『つくし』甲斐信枝さんの描く自然はどれも精密で、それでいて温かくて。
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