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小学生におすすめの新刊

第36回坪田譲治文学賞受賞! 岩瀬成子さん『もうひとつの曲がり角』

児童文学作家の岩瀬成子さんが、2021年1月に坪田譲治文学賞を受賞され、その授賞式が2月20日に行われました。岩瀬成子さんは、2022年の国際アンデルセン賞の日本からの候補者にも選ばれており、その活躍が大変注目されている作家さんです。子どもの内面を丁寧に掬い上げる筆致は、同じ年頃の子どもたちを励ますものであると同時に、読む大人にも子どもたちの心を注意深く感じとる眼を養ってくれるように思います。また、私たち大人が子ども時代に言葉にできなかった感情を思い出させてくれることも。子どもから大人まで、幅広い世代の方に出会ってほしい作品がたくさんあります。

今回は、受賞作『もうひとつの曲がり角』を中心に、おすすめの作品をご紹介します。

子どもの内面を丁寧に描き出す、注目の児童文学作家、岩瀬成子さん

岩瀬 成子(いわせじょうこ)


1950年、山口県生まれ。1977年、『朝はだんだん見えてくる』(理論社)でデビュー。同作品で日本児童文学者協会新人賞受賞。1992年、『「うそじゃないよ」と谷川くんはいった』(PHP研究所)で小学館文学賞、産経児童出版文化賞受賞。1995年、『ステゴザウルス』(マガジンハウス)、『迷い鳥とぶ』(理論社)の2作により、路傍の石文学賞受賞。2008年『そのぬくもりはきえない』(偕成社)で日本児童文学者協会賞受賞。そのほかの作品に、『ともだちって だれのこと?』(佼成出版社)、『きみは知らないほうがいい』(文研出版)、『なみだひっこんでろ』(岩崎書店)、『ちょっとおんぶ』(講談社)、『ピース・ヴィレッジ』(偕成社)、『だれにもいえない』(毎日新聞社 )、『まつりちゃん』(理論社)などがある。

坪田譲治文学賞とは‥‥‥

岡山市出身で、わが国の児童文学に新しい分野を拓いた、故坪田譲治氏のすぐれた業績を称えると共に、市民の創作活動を奨励し、市民文化の向上に資することを目的として、昭和59年12月に制定された賞。9月1日を基準日とし、前一年間に刊行された文学作品の中から、大人も子どもも共有できる世界を描いたすぐれた作品を対象として、選考委員会の審議を経て受賞作が決定。

岩瀬成子さん「受賞者コメント」

どの人の中にも、子どもだったときは生きつづけています。楽しかった思い出も、辛い思いをしたことも、ないまぜになって胸のどこかにあり、内側から生きる力を支えているような気がします。『もうひとつの曲がり角』は、人の中でいつまでも生きつづける子どもの時間について書きました。そして、大人の中に眠る子どもの時間にゆさぶりをかける子どもについても書きました。この作品で坪田譲治文学賞を受賞しましたことを、たいへんありがたく、嬉しく思っています。

選考委員 森絵都氏のコメント

深刻な心の傷を巡る話が目立った今回の候補作の中で、受賞作『もうひとつの曲がり角』の主人公・朋の悩みは「英会話スクールに行きたくない」という素朴なものでした、が、彼女にとってそれは、時空を超えた何処かへ迷いこむほど切実な問題でもありました。 

 

不思議な出会いによって朋の日常に開かれる穴。そこから流れこむ瑞々しい風景――。

 

 圧倒的な筆力をもって語られる朋の冒険は、時代を問わず常にどこか閉ざされた場所にいる子供たちを、揺さぶり、くすぐり、ほぐしてくれる極上のプレゼントとなるに違いありません。

岩瀬成子さんと、森絵都さんのクロストーク風景

受賞作『もうひとつの曲がり角』紹介

新しい生活へのとまどい、客観的に見えるようになった母や父の姿、英会話スクールに感じる違和感と、違和感なく受け入れているように見えるクラスメートの中での孤独‥‥‥。さまざまな思いに揺れる小学五年生の朋の内面に、曲がり角を曲がった先での出会いがもたらしたものとは?

『もうひとつの曲がり角』

もうひとつの曲がり角

みどころ

「知らない道って、こうやってどこまでものびているんだなと思った。この道も先のほうではきっとまた別の知らない道につながっていて、その道もまたどこまでものびて、どこまでもどこまでも道は続いているのだ。」

市の西側から東側に家族と共に引っ越してきた小学五年の朋と、中一の兄。念願だった新しい家を手に入れた母は、これまで以上にてきぱきしていて何に対しても積極的で、朋にも英会話スクールを勧める。「行きたくない」と言っても聞き入れられず、通うことになった英会話スクール。けれども朋は、英会話を好きになれそうになく、違和感を感じます。ある日、英会話スクールが休講となり、ふと、行ったことのない道に行ってみようと、先のT字路にある白い花がちらほら咲いている木が立っている家から別の方向にのびている道へ。昔ながらのお店や、古びた感じの家々を通り過ぎると、女の人の声が聞こえてきて‥‥‥。そこで出会ったのは、木に囲まれた小さな庭でひとり朗読をするオワリさんという小さなおばあさんでした。
「朗読をきいていただいて、どうもありがとう」
「よかったら、またいらっしゃい」
オワリさんの不思議な朗読が聞きたくて、その後も英会話スクールに行くフリをして、たびたびT字路の曲がり角を曲がる朋。けれども、なぜか別の道にたびたび迷い込んでしまい、そこには、みっちゃんという女の子がいるのでした。

「あの道のことを考えようとすると、どうしても頭の中がごちゃごちゃしてくる。T字路のところをまちがえないように気をつけて曲がったつもりでも、いつのまにか、どこかでちがう道に入りこんでしまってるのだ。あの道と、もう1つの道がどこでどうつながっているのかがわからなかった。」

オワリさんへと続く道と、みっちゃんへと続く道。
なぜ同じ道を曲がっても別の場所についてしまうのか? 朋と一緒に混乱しながらも、次第に解明への糸口が見えてくる過程にドキドキさせられます。

新しい生活へのとまどい、客観的に見えるようになった母や父の姿、英会話スクールに感じる違和感と、違和感なく受け入れているように見えるクラスメートの中での孤独‥‥‥さまざまな思いに揺れる朋の内面に、オワリさんとの交流や、みっちゃんとの交流が、変化をもたらしていきます。それと同時に、オワリさんも朋との交流によって、子どものときの気持ちをさまざま取り戻すのでした。そんな朋とオワリさんがお互いに影響しあう姿がみずみずしく、二人が過ごす時間は朗読の素敵さや庭の自然の豊かさも相まって、きらきら輝いているようです。また中学生の兄の存在も注目どころです。「お兄ちゃんは家を引っ越したからか、知らない子ばかりの中学校に入ったからか、それとも中学生になったからか、まえとはちょっと感じがちがってきた。どこがどう、とはっきりはいえないけれど、なんだかもう子どもでいるのはやめた、というような顔をしている」そう朋が感じる兄もまた大きな成長の過程にいて、朋と抱えているものは違えども、兄の存在が、内面的に孤独になりそうな朋を支えているようにも感じられます。

読む年齢によって、さまざまな感じ方ができる作品ではないかと思うので、小学五年生ぐらいから大人の方まで幅広い年齢の方におすすめしたいと思います。私自身は読みながら、朋の気持ちになったり、朋のお母さんの気持ちになったり、オワリさんの気持ちになったり、いろんな目線になりながら、心がさまざま揺り動かされました。けれどもやっぱり一番は、朋と同じぐらいの年齢の高学年から中学生にこの作品が届いてほしいと願ってやみません。

家と学校とどこにも逃げ場がないような、どこか窮屈さを感じていることがあったら、そんな思いにとらわれていたとしたら・・・・・・。もうひとつの道や世界が存在しているということにこの作品を読むことで気づけた時、どれぐらい気持ちが軽くなることでしょう。

最後に、絵本作家の酒井駒子さんの挿絵は、表紙と裏表紙のみなのですが、この絵の存在感は大きく、お話を読む間、ずっと頭の中にイメージとしてあり続けました。酒井さんの絵もまた、不思議な「もうひとつの曲がり角」の世界への入り口へ心地良く誘ってくれるようです。

(秋山朋恵 絵本ナビ編集部)

作品より、印象に残った言葉

『もうひとつの曲がり角』には心に残る言葉がたくさん散りばめられています。下記はほんの一部になりますが、作品世界を知るきっかけになれば、と少しご紹介します。(詳細を知らずに、お話を読みたいという方は、読まずに飛ばして下さいね)

 

 

「そもそも、わたし、だれもきいてくれなくてもかまわない、と思っていたの。朗読していると、声が庭にみちる気がして、空のほうへ昇っていく気がするの。木や草や虫や、それからもっと別のものたちもきいてくれるような気もするし。」(122ページ)

 

「子どものときの出来事じゃなくて、子どものときに感じていた、なんていうか、なんとなくの気もち。そういう気もちって、どっかに消えてしまうと、それっきりになってしまいそうなものだけど、そういうものがね、ふっとよみがえってくるの」(129ページ)

 

「なにもかもが新しくなるのを楽しみにさえしていた。だけど、じっさいに知らない町の知らない子ばかりの小学校に入ってみると、自分がいままでどんなふうにしていたかがわからなくなって、大事なものがなくなって空っぽになったみたいな気がしたのだ。」

(205ページ)

 

「でも、ついこのあいだ、わたしもあなたみたいな子どもだったの。それからわかったの。子どものときに体験したことはそのあとの人生にもずっと影響を及ぼしつづけていたんだなってことが。長く生きてきたあいだで感じたり考えたりしたことも、もともとはあそこからはじまっていたんだと、そんなことも思って」(238、239ページ)

 

「たいていのおとなは、子どもはいっしょうけんめい勉強するのが一番だと考えている。いっしょうけんめいしたくない、ってことを上手に説明することなんてできるんだろうか。」(249ページ)

 

岩瀬成子さんの作品紹介

『朝はだんだん見えてくる』基地に住む中学3年生の女の子が自分らしい生き方を求めて疾走する、岩瀬さんのデビュー作

朝はだんだん見えてくる

基地の町の中学生・奈々は反戦喫茶や基地反対のデモから,徐々に現実社会で生きる自我に目覚めていく。10代の青春物語。

『きみは知らないほうがいい』小学生の人間関係における苦しい胸の内を鋭く描き出した、第62回(2015年)産経児童出版文化賞受賞作

きみは知らないほうがいい

米利は、あまり話したことのないクラスメイトの昼間くんとバスでいっしょになる。どこへ行くのか聞いてみると、「きみは知らないほうがいい。」という。米利があとをつけると、昼間くんは駅の地下通路でホームレスの人と会っていた。
第62回産経児童出版文化賞 大賞受賞!

『わたしのあのこ あのこのわたし』友達とのすれ違いや心の交流を繊細に描いた最新作(2021年1月刊)

わたしのあのこ あのこのわたし

小学5年生の秋は、友だちのモッチの家へ遊びに行った時、大切なレコードをモッチの弟に傷つけられてしまった。秋は、弟を止めなかったモッチが悪いと思うようになる。そして、モッチは自分の考えをはっきりと言えないところも、前から良くないと思っていた。秋は、モッチへのいじわるな気持ちが広がっていくのを止めることができなかった。
モッチは、レコードのことで怒っている秋ちゃんをずっと気にしていた。もう自分のことを許してくれないかもしれないと思っていた。秋ちゃんに「レコードを傷つけてごめんなさい」という手紙を書きながら、前に秋ちゃんからもらった手紙のことを思い出した。秋ちゃんは、「友だちになって」という手紙をくれたのに、モッチは短い返事を書いた手紙を、結局渡せずにいた……。
ささいな出来事をきっかけに離れていくふたりが、再び心を通わせるまでを描いた物語。

絵本から低・中・高学年、中高生向けまで対象も幅広く、テーマは身近に感じられるものが多くありますが、身近だからこそ、さまざま考えさせられたり、大事なことに気づかされる作品がたくさんあります。今回の受賞作品をはじめ、ぜひさまざまな作品に触れてみて下さいね。

 

秋山朋恵(絵本ナビ 児童書担当)

掲載されている情報は公開当時のものです。
絵本ナビ編集部
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