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現役学校司書が本でCheer Up! 中学生に読んでほしいオススメ本

読書の秋! 中学生がどっぷりハマる? 小説特集

みなさんこんにちは。山下ちどりです。
めっきり秋も深まってきましたね、みなさんお元気ですか?
中学生のみなさんは、行事・定期テスト・部活と慌ただしいことでしょう。
芸術の秋、食欲の秋……楽しんでいますか?
そうそう、秋は「読書の秋」でもあります。
読み始めたらついついページをめくる手が止まらなくなってしまうような、そんな小説(一部、ノンフィクションあり)を中心にピックアップしました。
今回の特集には「海外作品」が半分ほど入っています。
いつも日本の小説ばかりで……というあなた!
海外作品もいいものですよ! 食わず嫌いなだけかもしれません。
中学生のみなさんにとって親しみやすそうな、そして楽しんでもらえそうな本ばかりです。

ぜひ手にとって読んでみてくださいね!

【1冊目】日本の小説:音楽、特にパンクロックが大好きなあなたに

『拝啓パンクスノットデッドさま』

ティーン向けの出版業界、図書館界隈で昨年末から話題騒然のこの本。
遅ればせながら私も読んでみたところ……時間を忘れて一気読み!
今回の特集のトップバッターに置いてみました。

 

最近聞かれる「親ガチャ」という言葉、ご存知ですか?
「ガチャ」のように何が出るかわからない、選ぶことができない「親」という存在について、親や社会への皮肉や批判を込めて「運の悪い子ども」「親や生育環境を選べない子ども」という意味で使われることが多いようです。

 

この作品の主人公は、「親ガチャ」でいうところの「ハズレガチャ」を引き当ててしまったであろう、高校生の夏目晴己。家に寄り付かない母の代わりにバイトや家事をしながら、少し難しさを抱える弟右哉と二人で健気に暮らしています。彼ら兄弟の心の支えは、1960年代から70年代に流行した初期のパンクロック。初期パンは二人にとって欠かすことのできない音楽なのです。生きるために家事やバイトで忙しい晴己はなかなかパンクを演奏することが叶いませんが、ある時、高校生主体の舞台で一度限りの演奏をすることが決まり……。人との関わりをなるべく断っていた晴己は、パンクバンドの活動を通してバンド仲間、クラスメイト、周囲の大人との関わりを深めていきます。実生活の閉塞感とパンクロックの破壊力との不安定な調和、そしてエネルギーが紙面からほとばしるような最後の演奏シーンが魅力の小説です。

【2冊目】海外ノンフィクション作品:自分を変えたい!と思うあなたに

「親ガチャ」同様に、努力をしてもなかなか変えづらいもの。その1つに容姿があります。背が低い、足が太い、小顔じゃない。……ええと、全部これ、私のことです。

 

みなさんの中には、中学生になって、急に周りから自分がどう見られているか気になり始めた、という人も多いことでしょう。これは大人になる前の発達の特徴で、仕方がないことだそうですが、なんと言われたって気になるものは気になる! そんなあなたに、この本をおすすめします。これは創作の小説ではなくて実話なんです。中2のマーヤの勇気と、人目を気にしない強さに拍手喝采したくなる本です。

 

このお話はスクールカーストの圏外以下(!)「社会的はみ出し者」にいるマーヤが、たまたま出会った古~い本『ベティ・コーネルのティーンのための人気者ガイドブック』を読み、1つ1つ実行していく自分改造ストーリーです。マーヤが参考にしたのは1950年代の古めかしい本。日本でいえば、終戦から5年たったあたりです。その本の教えを1つ1つ実行していくと、当然周囲からは「ファッションがおばあちゃんみたい」とからかわれますが、気にせずマーヤは実行していきます。この本の魅力的なところは、改造する対象は「自分の見た目」だけではないという点です。時代を超えても変わらない、ベティ・コーネルの教えを忠実に実践する中で、マーヤは(周囲の声に惑わされずに)自分の軸を持って生きること、どんな人にも親切に接することの大切さを体得していきます。事実は小説より奇なり。マーヤの行動力にあなたも元気を得られるはず!

【3冊目】日本の小説:意外な場所の、青春物語を読んでみたいあなたに

『櫓太鼓が聞こえる』

一対一の男の真剣勝負と、それを支える若者の青春ストーリーです。
一対一の真剣勝負って、テニス?ボクシング?武道?それを支えるってことは、審判やマネージャー? そんなふうに思った人はいませんか?
正解は……「相撲」と「呼び出し」です! ね? 意外でしょう?

 

この作品の主人公は、高校を中退してやる気も出ないまま、「呼び出し」の新入りとして相撲界の一員となる篤。呼び出しって? 各取り組みの前にはかま姿で土俵に上がり、扇をもって「にいしーーーー、みねあーーらあしーー」と力士のしこ名を呼ぶ、あの人です。彼らの仕事は、力士を呼び上げるだけではなく、懸賞旗を持って土俵を回ったり、寄せ太鼓を叩いたり、地方巡業の際には土俵を一から作るなど、幅広いそうです。ちなみに呼び出しは相撲協会ではなく、各相撲部屋に所属して力士たちと一緒に生活をするんですって。これは、まったく私の想定外でした。

 

お相撲さんというと、髷を結って着物を着て、優勝力士は巨大な盃になみなみ注がれたお酒を飲んで……とオトナのイメージがありますよね。でも、この小説で描かれるのは、令和に生きる10代後半から20代の新弟子たちや兄弟子たち。休憩時間にはスマホをいじったり、コンビニでおやつを買ったりしています。でも、土俵の上では男と男が裸でぶつかり合う、ケガをも辞さない一対一の真剣勝負を行う力士なのです。主人公の篤はいま一つやる気がなく、土俵の上でしこ名を呼び間違えるという大失態をおかしてしまいますが、兄弟子たちの夢や悩みを目の当たりにするうちに、いつしか自らの仕事に真剣に向き合うようになります。

厳しい勝負の世界をめぐる、優しくてあったかい人たちの物語です。

【4冊目】海外小説:小説版バチェラー? 王子さまを射止めてみたいあなたに

ドラマ配信サービスなどで話題になった、一人の男性を巡って女性たちが競い合うリアリティ番組「バチェラー」。みなさんのご家族で見ていた人もいるかも知れません。そんな設定を思い出させるようなこの本は、占いによってプリンセス候補の地域となった、辺境の村の女の子たちが、プリンセスに必要な教養を身につけるために厳しい特訓を受ける物語です。

 

訓練するのは都会から来た怖~い先生。自然豊かな、美しい石の産地の村に住む女の子たちは、学問はおろか、文字を読む必要もなく生活してきました。家族の元を離れ、プリンセス・アカデミーで暮らす10代の女の子たちは、先生に叱られながらも、懸命に勉強を重ねます。その内容は、文字の読み書きから、王国の歴史、食事や立ち居振る舞い、社交界に必須のダンスまで! 
選ばれるプリンセスはたった一人、厳格な先生に反発して結束することもありますが、基本はみんなライバルです。主人公のミリは石切り場で働くこともできないほど小柄で、知的好奇心にあふれる女の子。アカデミーで高得点を取りたいと励みつつも、村に住む幼なじみの男の子ペダーのことをとても気になっています。ミリたちは訓練を経て、王子に会う機会にまでこぎつけますが、単純に未来のお妃が決まるわけではありません。ひと波乱も、ふた波乱も彼女たちにピンチが押し寄せます。この物語は、「王子さまが妃を選ぶ」という筋書きながら、読み進めるうちに、アカデミーの女の子それぞれの夢や、幸せの定義、自分の力をどこで役立てるか、など、女の子の生き方を考えることができる本です。

【5冊目】日本の小説:SNSの距離感に苦労しているあなたに

この本は、インターネットやSNSといった電子メディアをテーマにした連作短編集です。
とはいえ、「スマホは使い過ぎないように!」というようなお説教ではないのでご安心を。手のひらに乗る文庫本の中に、テロリストの殺人動画を見てしまった女の子、ゲームの課金に心揺れる男の子、自分の姿をネットの世界にアップして人気者になりつつある女の子、自分の姿がネットにさらされることを苦痛に思う女の子、と様々な主人公が登場します。そして、ネットをめぐる切り口が実に幅広い小説です。

 

物語の終盤では、ネット世界とだけ繋がっていた引きこもりの青年が、憧れのIT企業創業者のトレーラーハウスを目指して、外の世界へ踏み出します。ネットは今や私たちの生活に欠くことのできないツールですね。みなさんがすっかり慣れ親しんだネットとの関係性を再確認することができます。

【6冊目】海外の小説:心がささくれ立ってしかたないあなたに

注:この本はクマに挑んだ主人公が襲われ、大怪我を負うシーンが詳細に描かれています。また、非行少年だった主人公の暴力なども描かれています。苦手な人は読むのを控えてください。

 

みなさんは「本を読む人」にどんなイメージを持っていますか? 優等生? おとなしい人?
では、本の登場人物にはどんなイメージを持っていますか? けなげに頑張る人? まじめな人? 

 

この小説の主人公は、ミネアポリスに住む15歳の少年コール。童顔な顔つきとは裏腹に、人生の半分以上を警察のお世話になっているとびっきりの「悪」。中高生向けの小説でコール以上の悪人に私は出会ったことがありません。お店に強盗に入り、気に入らない友達はボコボコにする、欲望のままに身勝手なコールは、同級生に一生後遺症が残るケガを負わせてしまいます。それでも反省せず、世の中をなめ切った態度で大人をだまして乗り切ろうとするコール。彼は両親から愛想をつかされ、周囲の人間はおろか、自分すら信じることができない位に心が荒れ、自分を含む世の中の全てに怒りを感じる少年でした。彼は刑務所生活を回避しようとサークル・ジャスティスと呼ばれる会に参加します。これは、犯罪者の更生に何が必要かを議論する市民の場のこと。サークル・ジャスティスでの審議の結果、コールはアラスカの無人島で一年間暮らすことになります。しかし彼は島に到着してすぐに、彼の更生を手助けする大人たちが作った小屋や、食料などの一切を燃やしてしまいます。島からの脱出に失敗し、嵐の中伝説のスピリット・ベアと闘って、命が危ぶまれるほどの大怪我を負いますが、ここは無人島、誰も助けてくれる人はいないのでした……。自然界の摂理である生と死を目の当たりにしたコールは、ぶつかりながらも少しずつ価値観が変わっていきます。

 

最後にコールを待ち受けている難題とは? そしてコールは自らの怒りをコントロールしながらこの難題を乗り越えられるのでしょうか?

【7冊目】日本の小説:困難を笑い飛ばして乗り越えたいあなたに

『さよなら、田中さん』

現役中学生(執筆当時)が書いた小説です。私は作者の鈴木るりかさんより、ずっと長く生きていますが、彼女の作品を読むたびに「すごい! 上手い作家さん! 」と尊敬してしまいます。

 

小学校六年生の女の子、花実の身の回りに起こる出来事を、5つのお話でまとめたのが、デビュー作『さよなら、田中さん』です。貧乏を笑い飛ばす屈強なお母さんと、お母さんとはだいぶ違う、ちょっと心配性で慎重な花実。さらにアパートの大家のおばさんと、おばさんの息子のけんと(引きこもりでニート)、学校の先生や友達などが登場する、身近な日常を描いた等身大小説です。ですが! この作者のすごいところは、重くて深刻な話題を扱いつつも、ユーモアたっぷりであるために、読者も明るい気持ちで読み進めることができる点です。

 

タイトルにもなっている「さよなら、田中さん」はラストのお話。このお話だけは花実の同級生が主人公になり、親の期待に応えられない深刻な苦悩が描かれています。このお話で花実のお母さんが語る言葉を、みなさんに送ります。
「悲しい時、腹が減っていると、余計に悲しくなる。辛くなる。そんな時はメシを食え。もし死にたいくらい悲しいことがあったら、とりあえずメシを食え。そして一食食ったら、その一食分だけ生きてみろ。それでまた腹が減ったら、一食食べて、その一食分生きるんだ。そうやってなんとかしてでもしのいで命をつないでいくんだよ」

【8冊目】海外の小説:幼くて淡い恋にほっこりしたいあなたに

チャールズ・ディケンズは、お札の肖像になったほど有名なイギリスの国民作家です。この本は世界の文豪ごとにまとめた短編集のシリーズの1冊で、人気イラストレーター、ヨシタケシンスケさんの可愛いイラストとピンクの表紙が目をひきます。表紙のイラストは、本のタイトルになっている「ヒイラギ荘の小さな恋」の一場面から取ったもので、作品の愛らしさがにじみ出ています。

 

まずは、136ページから始まるこの作品を読んでみてくださいね。お屋敷の若き(8歳!)のハリー坊ちゃんと、ノーラお嬢ちゃんの、幼いけれど(当人同士はいたって)まじめな、駆け落ち騒動を庭師の視点で描いた作品です。あどけない紳士と淑女のカップルの様子はドールハウスで繰り広げられているかのような愛らしさ! 結末はしんみりしますが、キラキラした恋する気持ちを存分に味わえることでしょう。読後はぜひ、その他の短編も読んでみてください。背筋が凍るような怖さの「信号手の話」、びしょ濡れの黒ずくめで医師の元を訪ね、不思議なことを話す「黒いヴェールの女」など、「ヒイラギ荘の小さな恋」とはまったく異なるタイプの作品を味わえます。これぞ文豪! と私はうなってしまいました。
可愛いお話から、怖~いお話、人間の深部の闇に迫るお話まで、1冊で楽しめる本です。

スペシャルコンテンツのお知らせです。

絵本ナビのコラムを見てくださっている方に、前回に引き続き、スペシャルコンテンツがあります。
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おわりに

今回の特集「読書の秋!中学生がどっぷりハマる?小説特集」はいかがでしたか?
小説はそれぞれ好みがあり、他人に紹介されたものが自分にもピタッとハマるのは、なかなか無いなぁと実感しています。そんなこんなで私、実は現場でも小説を紹介するのが結構苦手なんです。今回の特集を読んで中学生のみなさんが、一人でも、一冊でも、小説に出会う機会となればいいなぁと思います。そして、中学生のみなさんが今読んでいる本、面白い! と思った本をぜひ教えて欲しいです。
 

山下ちどり
 

現役学校司書。
音声メディアstand.fm「学校図書館ラジオ〜本とともにごきげんな毎日」のパーソナリティ。
比較的新刊のお気に入り本や、学校図書館、出版周辺のトピックスなどを配信している。Twitter @nagisalib

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