「選択力」を高めよう!
絵本には、子どもに働きかける様々な力が備わっています。絵本がきっかけで、新しいことにチャレンジする気持ちを持てたり、苦手なことに取り組もうと思えたりもします。子どもたちの世界を楽しく広げてくれる絵本は、子育て中のパパママにとっても、大きな味方になってくれること間違いなしです!
この連載では、とくに「これからの時代に必要とされる力」にフォーカスして、それぞれの力について「絵本でこんなふうにアプローチしてみては?」というご提案をしていきたいと思います。
選び続ける毎日に
今日は何を着よう、お昼ご飯は何を食べよう……などなど、毎日の生活はまさに「選択」の連続です。子どもたちも、毎日やりたいこと、やらなければいけないことがたくさんあり、その取捨選択だけでも大忙し。でも、大人と比べてまだまだ経験が少ないので、選択する判断材料も多くありません。「選ぶの苦手」「決めるの苦手」な子も多くいます。
今回は、「選択力」を養える絵本、選ぶことってそんなに怖いことではないよ、一生懸命考えて決めたなら悪いことにはならないよ、と教えてくれて、「選択する力」がいざというときにどう大切になるのか考えさせてくれる絵本をご紹介したいと思います。
どっちを選んだって楽しいものだ
どっちにすすむ? 「こんがらがっち」の絵本1作目!
何かと何かがこんがらがって生まれた新生物「こんがらがっち」。この絵本では、こんがらがっちと一緒に読者が指で道をたどって「旅」を楽しみます。かわいくて、ひねくれていて、暖かい世界が広がります。
“コんガらガっち”とは、いろんな動物が、こんがらがってできた動物たちのこと。いるかともぐらがこんがらがってできた“いぐら”たちが、好きな道を選んで進むことでお話ができあがっていく絵本シリーズです。 この絵本シリーズの肝は、なんといっても子どもが自分でストーリーを選べること! お話の随所にいくつかの「選択肢」があって、それを自分で選ぶことで毎回違ったお話となっていきます。
選んだ選択肢によって、途中途中のストーリーがどんどん変わっていくのですが、どれを選んでもそれはそれで楽しく、最後は「あーよかった」と終わるのです。
この、「あーよかった」がとても大事だと思うんですよね。先が予測できないことを選ぶということは、不安も付き物です。だからこそ、もともと不安感の強い子は選ぶことが苦手になっていると思うのですが、この絵本は「どの道を選んでも、それなりに楽しいよ!」と思わせてくれます。
うちの下の子も選ぶの苦手で自己主張も控え目なタイプです。この絵本も最初は、選択肢のどっちを選んでいいかわからず、悩んでしまうようでしたが、繰り返し読んでいくうちに「どっちも楽しいじゃん!」となりました。
「コんガらガっちの絵本」シリーズ
この絵本シリーズの作者ユーフラテスは、慶應義塾大学佐藤雅彦研究室の卒業生からなるクリエイティブ・グループの名称で、Eテレの「ピタゴラスイッチ」や「0655・2355」の企画・制作も行っています。佐藤雅彦さんとユーフラテスの一員・貝塚智子さんが制作した絵本に『プログラムすごろく アベベのぼうけん』 というプログラミング絵本もあります。
こちらも子どもが参加して物語が進んでいく面白い絵本で、プログラミング的思考が学べます。
プログラミング的思考というと、手順やルールが定められていて、それに則って筋道を立てて進めていかなければいけませんが、そうしたベースがあったうえでその中で「先に進むためには何を選ぶべきか」なんですよね。やはり「選択」が不可欠な要素です。
そんな「選択」を楽しく、「どっちにしたって真剣に選んだのなら、どっちもOK」ということを教えてくれる絵本シリーズです。先日出た新刊の『コんガらガっち かぞえてすすめ!の本』は、ストーリー選択に加えて、数えたりしりとりをしたり、様々に頭を使って楽しめて、こちらも最高に面白い1冊ですよ
押すべきか、押さないべきか……
子どもの好奇心を刺激しながら、親子でコミュニケーションを楽しむ絵本
ついつい押したくなるボタンと謎の生き物。
おしちゃダメなボタンなのに、謎の生き物が「おしたらどうなるんだろう?」「おしちゃおうか?」と誘惑してくる。
誘惑に負けて押してみると…。
ボタンを押したり、絵本を振ったりこすったり。
子どもの好奇心を刺激して何度でも読みたくなる絵本です。
子どもはボタンを押すのが大好きです。そして、「絶対にやっちゃダメ!」と言われたことをやっちゃうのも大好きです。この二つが合わさってしまえば子どもたちが大ハマりするのは当然のことで、お話会では盛り上がることテッパンの絵本です。
この絵本にはルールがあります。それは、絵本に出てくるボタンを「おしちゃダメ」というたった一つのシンプルなルールです。ですが、「おしちゃダメ」と言いながらも、あの手この手でボタンのことを考えさせようとしてきます。そして押してしまうと……。
この絵本には、究極の選択、「おす? おさない?」があります。「絶対に押してはいけないボタン」ですとか、「絶対に言ってはいけない呪文」など、大人でも子どもでも、うずうずしてきますよね。この絵本では、途中でボタンを押すハードルがだいぶ下がるので、お話会ではそこからもうガンガン子どもたちが押しにやってくるのですが、たまーに「絶対に押さない」子がいたりします。よくよく聞いてみるとそうした子はかなり物知りで、「そういう甘い誘いにのっかると痛い目に合うんだよ」と様々な知識を元に、押したい誘惑に耐えているのです。「選ぶこと」に対する真摯な姿に感心してしまいます。
押すか、押さないか、幼いながらも経験と知識を総動員させて、究極の選択に立ち向かえる、なんとも楽しい絵本です。
「ぜったいに おしちゃダメ?」シリーズ
もうひとつの選択肢「どれもやだ!」
いろいろな選択肢があると、「こんなにたくさんの中から選べばいいんだ!」と思ってしまうかもしれません。ですが、たくさんあればあるほど、まだある選択肢の一つを忘れがちです。それは、「どれも選ばない!」ということ。
次々と繰り出される奇想天外な選択肢
「ねえ、どれがいい?」と問いかけながら、次々と繰り出される奇想天外な選択肢。
子どもたちは「どれもイヤ」と言いながら、大喜びであれやこれや悩みます。
30年近く愛され続けてきたベストセラー絵本の〈改訳新版〉。
この絵本では、「もしもだよ」とたくさんのお題が問いかけられます。
「もしもだよ、きみんちの まわりが かわるとしたら、こうずいと、おおゆきと、ジャングルと、ねえ、どれが いい?」
と聞かれ、最初のうちは真面目に「この中からだったら、えーと、えーと」と思ってしまいますが、冷静に考えればどれも無茶なシチュエーションなんです。そして、こんな無茶苦茶なお題が続いていくので、ついには、「っていうか、どれもやだよ!」と我に返るのです(笑)。
選択肢の中に、実は「どれもやだよ」があることに気づくってけっこう大事だと思いませんか? 人間心理的にも、つい与えられた選択肢の中で選ばなければいけないと思ってしまいがちですが、それだけではないんです。最後の選択肢「選ばない」があるんです。
この絵本の選択肢は、どれも荒唐無稽で「いやだよー」とすんなり言えてしまいますが、日常生活の中では、「はっきりとは言えないけれど、どれもしっくりこないなー」というシチュエーションはたくさんあります。そんなときはその中から無理に選ばなくていいんです。「選ばない」という選択肢があるのですから。この絵本は、「どっちもやだ」から選ぶ愉快さとともに、「選ばない」という選択肢を逆説的に伝えてくれる絵本だと思います。
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こういうときこそ、選ぶ力を
ここまでは、「選択する」とはどういうことなのかを伝える絵本ご紹介してきましたが、最後に、「なぜ選択する事が大事なのか」を描いている絵本をご紹介します。
この絵本は、ヨシタケシンスケさんの作品の中でも、かなりメッセージ性の強い絵本です。
世の中には、いろんな人がいます。そして、たくさんの人がいれば、その中にはひどいことを自分にする人がいるかもしれません。そんなときにするべきことは「にげること」。ロールプレイングゲームのコマンドでいえば、「とどまる・たたかう」ではなく「にげる」を選択するのです。そうすると、自分をわかってくれる人を「さがす」ことができます。人は動くことができます、だから、探し続けて動き続けることができる、そうしたメッセージを伝えてくれる絵本なのです。
選ぶことができなければ、ひどいことをする人のところに、いやな場所に、とどまるしかありません。人間が動くことができるのは、「にげてさがして」、自分の居場所を選ぶことのためなのだ、そうしていくうちにすてきな何かを、すてきな誰かを見つけることができるということを伝え、勇気づけてくれる絵本です。
さいごに
「選択」するということは、思っている以上にエネルギーがいります。今までの知識や経験を総動員して、「一番いい選択を」と思うからです。気持ちが弱っているときは、コンビニでおにぎりの具を選ぶことだって難しいものです。実際、物事を選ぶということは、精神的にかなりの負担があることなのだそうです。情報があふれる現代、多くの選択肢から決断しようとしても、どんどん迷いがでてきます。「あー、疲れるなー」と思いますが、かといって子どもたちが自分では何も選べない、決められない大人になってしまうこともまた、問題ですよね。
人に決められた人生よりも、自分が選んで決めた人生のほうが、絶対楽しいです。これからの時代はいわゆる「社会的成功」よりも、個人がどう自己実現していくのかに価値が置かれていくと思います。自分なりの基準を持って、「選択する」という行為は不可欠です。
今回ご紹介したような絵本をきっかけに、子どもたちが自分で選択することを楽しんで、自信を持つようになってくれたらうれしいなと思います。
徳永真紀(とくながまき)
児童書専門出版社にて絵本、読み物、紙芝居などの編集を行う。現在はフリーランスの児童書編集者。児童書制作グループ「らいおん」の一員として“らいおんbooks”という絵本レーベルの活動も行っている。7歳と5歳の男児の母。
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