美しい愛蔵版で読む『モモ』と『はてしない物語』。今読みたいのはどちら?
『モモ』と『はてしない物語』今読むなら?
冬の読書に、また一年の締めくくりに、ミヒャエル・エンデの名作ファンタジーを手にとってみませんか。今回ご紹介するのは、時間について考える名作『モモ』と真の望みを探し求める名作『はてしない物語』。子どもの頃に、あるいは大人になってから読まれて大切な存在になっている方も多いかと思います。今回は、クリスマスの贈り物としてもおすすめの愛蔵版でご紹介します。お話は知っているけれども愛蔵版は手にとったことがないという方、また、この2冊にはじめて出会う子どもたちや大人の方に、それぞれの魅力をたっぷりお伝えします。
「時間」について考える名作『モモ』
まず最初に紹介するのは『モモ』。ドイツの作家ミヒャエル・エンデによる児童文学の名作で、ドイツでは1973年に、日本では1976年に刊行されました。すでに50年近く読み継がれているのですが、近年でもたびたび話題となっているので、目にする機会が多いのではないかと思います。物語に描かれている内容とそこに込められたメッセージは、いつ読んでも内容が全く古びず、今現実の世界でも同じようなことが起きているのでは?と驚かされます。この先何十年、何百年‥‥‥とずっと読み継がれていくだろうと思わせる力のある作品です。
ミヒャエル・エンデの本 愛蔵版 モモ
「時間」の真の意味を問う、ドイツの作家ミヒャエル・エンデ(1929-95)の人気ファンタジー『モモ』。しゃれた造本で、やや大人向きの美しいスペシャル・エディションをお届けします。
どんなお話?
赤ちゃんからお年寄りまで、すべての人間が平等に持っている24時間。自分の時間を自由に使えるのは当たり前? でも、もし、あなたの時間が、知らないあいだに盗まれていたとしたら……?
どこからともなくやって来て、町の円形劇場の廃墟に住みついたモモ。みすぼらしい服装に、ぼさぼさの巻き毛をした小さな女の子モモは、豊かな想像力と、特別な力を持っていました。モモに話を聞いてもらうと、ふしぎなことに悩みがたちどころに解決してしまうのです。
ある日、町に灰色の男たちが現われてから、すべてが変わりはじめます。「時間貯蓄銀行」からやって来た彼らの目的は、人間の時間を盗むこと。人々は時間を節約するため、せかせかと生活をするようになり、人生を楽しむことを忘れてしまいます。節約した時間は盗まれているとも知らず……。異変に気づいたモモは、みんなに注意をしようとしますが、灰色の男たちに狙われるはめになります。不気味で恐ろしい灰色の男たちに、たったひとりで立ち向かうモモ。彼女をひとりぼっちにしようとする時間泥棒たちのずるがしこい作戦の数々! いったいどうなってしまうのでしょう?
(みどころ紹介より)
愛蔵版、ここが魅力!
- 美しい箱入り。箱には「時間」というテーマにふさわしい懐中時計と、お話の中で重要な役割をするカメのカシオペイアの絵が描かれています。さらに、文庫版とハードカバー版の表紙と裏表紙に描かれているさし絵は、本を開いた時の見返しにしっかり描かれています。
- 巻頭には、エンデ自身による『モモ』表紙試案画のカラー口絵も!
- オレンジ色の布クロスの表紙が豪華。
- 本の大きさがちょうど良い。
→文庫版とハードカバー版の間ぐらいの大きさで手に取りやすい大きさです。
- 文字色が読みやすい。
→こげ茶色のインクで印刷された文字が目にやさしく、読みやすさを感じます。
ここが面白い!
以下は私が感じた『モモ』の注目部分です。読む方それぞれに面白さや気づきがあるかと思いますので、いろいろ見つけてみてくださいね。
※以下は少しネタバレを含みますので、何も知らないで物語を楽しみたいという方は読まずにお進み下さい。
- 主人公のモモの存在の不思議さと聞く才能
ある日突然、円形劇場の廃墟に現れたモモ。背が低くやせっぽっちで、年は八つぐらいなのか十二ぐらいなのか検討もつきません。モモは特別何かができるわけではありませんでしたが、「ほんとうに聞く」という才能がありました。モモはどんな風に相手の話を聞いたのでしょうか。また聞いてもらった人にはどんな変化が起こったのでしょうか。
- 「灰色の男たち」や「時間貯蓄銀行」って何?
ある晩から町に現れた灰色の男たち。頭のてっぺんから足の先まで、灰色をした服に身を固め、顔まで灰色、口には灰色の葉巻をゆらし、灰色の書類かばんを抱えています。彼らは言葉たくみに町の人たちに時間を時間貯蓄銀行に預けるよう持ちかけます。彼らの望みとはいったい何なのでしょう。また灰色の男たちが通ると、味わったことのないさむけに襲われるというところもなんだか面白いですよ。
- 生きる時間が秒で示される
灰色の男たちは、人々の生きる時間を秒で表現して町の人たちを言いくるめていきます。一分は六十秒、一時間は六十分、そうすると六十かける六十で一時間は三千六百秒……十年ですと、三億一千五百三十六万秒……。こうして膨大な数字を提示されると正常な判断能力が揺らいでしまうのも分かる気がしませんか? また自分がこの時間を少なく感じるか多く感じるかというところも面白いところではないでしょうか。
- 町の人々の変化
時間貯蓄銀行に自分の時間を預けて時間をなくしてしまった町の人たち。時間がたっぷりあった時と時間がなくなった時の変化が大きなみどころです。考え方や行動、大切なものなどはどのように変わっていったでしょうか。
- 「カシオペイア」と「マイスター・ホラ」
モモが出会う、甲羅に光る文字が浮かび上がって会話ができるカメのカシオペイアや、銀髪の老人はいったい何者なのでしょう。
- <さかさま小路>や<どこにもない家>
モモがたどり着いた不思議な名前の道や場所。それはいったいどんなところだったでしょう。ネーミングがとても気になりますね。
そして物語の醍醐味は、なんといってもモモと灰色の男たちとの対決とモモが出会う冒険でしょう。ものすごい数の灰色の男たちと、ひとりぼっちの小さなモモはどんな風に対決するのでしょうか。
読者レビューより
エンデ好きになるきっかけの本です
この本と出逢ったのは、まだ学生の頃。
オレンジ色の紙製ケースに入ったこの本を、
ドキドキしながら引き出して読んだ事を覚えています。
灰色の男たちが音もなく増えていく様や、
時間を奪われて心の余裕をなくしていく人々を、
心底怖いなぁと思って読んでいたはずなのに、
大人になった私は、
時間に追われるように生活したり、
娘を「早くしなさい!」と急かしたり・・・
もう1回読み直さなければ!
この“モモ”にちなんで名付けたワケではありませんが、
我が家の“もも”にも、将来読んで欲しいなぁと思っています。
(ももうさ♪さん 20代・ママ 女の子2歳、女の子0歳)
あそびは無限
小さなころ映画になっているのを見に行ったのですが、灰色の男たちがとても怖かったことしか覚えてなくて、ずっと敬遠してました。
今になって読んでみるとなんと見事な物語であることか。
無限の想像力で遊ぶ子供たち、そこに目の前にいる人を何より大切にするモモ。
時間は切り詰めて消費するものではなく、瞬間瞬間を心から楽しんで愛しんでいくことこそがほんとに生きていくということで、いつでもそういう生き方をしていきたいと思えます。
子供たちも決まった遊び方しかできないおもちゃではなく、どうやってでも遊べるもので遊び、毎日毎日を自分たちの物語でいっぱいにしていってほしいと思いました。
いまさらだけど私もモモになりたい。
いっぱい力が湧いてくる大事な一冊になりました。
(ミルキーミルキーさん 20代・ママ 女の子2歳、女の子0歳)
ハードカバー版、文庫版はこちら。
真の望みを探し求める名作『はてしない物語』
『モモ』と同じ作者のミヒャエル・エンデによる長編ファンタジーの名作。ドイツで1979年に、日本では1982年に刊行され、『モモ』同様に大変人気のある作品です。日本では1985年に『ネバーエンディングストーリー』として映画化されたことで有名ですが、映画では原作の前半部分のみしか描かれていないことと、結末が原作と異なっているため、ぜひ原作で読んでみることをおすすめします。『はてしない物語』については、読めば読むほど、何も前情報なく読む方が楽しいかもしれない‥‥‥という思いが強くなっていきましたので、まず読んでみようと思われる方は、以下の紹介を物語を読んだ後に読むのがおすすめです。
※以下はややネタバレを含む内容となります。
どんなお話?
【前半】
主人公は、10歳か11歳ぐらいの背の低い太った少年、バスチアン。母は亡くなっていて父親と二人暮らしをしており、学校ではいじめられています。ある日、いじめっ子から逃れるために飛び込んだコレアンダー古書店で『はてしない物語』と書かれた本に魅きつけられ、本を盗んでしまいます。見た瞬間どうしても欲しくなってしまった本。しかし盗んだことを父親に知られてはいけないと家に帰れなくなってしまったバスチアンは、学校の屋根裏の物置に隠れ、『はてしない物語』を読み始めます。物語は、虚無が広がっていくことによって崩壊の危機に瀕した国「ファンタージエン」について描かれ、国を救うため、「緑の肌」と呼ばれる種族の少年アトレーユが探索の旅に出ます。アトレーユには、メダルの形をした「アウリン」というお守りが授けられ、さまざまな困難や危険と出会いながらも、国を救う方法にたどり着くのですが‥‥‥。その国を救う唯一の方法を成すことができるのが「外国(とっくに)」に住む人間の子だということが判明し、本の中からバスチアンに助けが求められます。
【後半】
「ファンタージエン」にやってきたバスチアン。アトレーユがお守りとして持っていた「アウリン」は今度はバスチアンに授けられます。ファンタージエンでは「アウリン」を手にしているバスチアンの望みによってあらゆるものが生まれ、豊かになっていきます。得意な想像でどんどん新しい場所を生み出し、物の名づけ親となり、時には他の生き物のために物語を作って語るバスチアン。しかし望み(新たな物語)が実現していくごとにあるものを失っていきます。そのあるものとは、現実の世界に戻るのにはなくてならないものでした。もしかしたらバスチアンが帰れなくなるかもしれない、と危機を感じたアトレーユと幸いの竜フッフールはバスチアンのためにあれこれ助言します。しかし‥‥‥。
全てが思い通りにいくという権威を手に入れたバスチアンはどんどん変わっていき、これからどうなってしまうのだろうとハラハラする場面が続きます。しかしそんな中にもバスチアンを導く存在が登場し、そこには作者エンデの深い愛が感じられます。
はたして、バスチアンは自分自身の中にある真の望みを探しあてることができるのでしょうか。
※590ページにわたる長編で、26章に分かれており、前半ではバスチアンのいる現実世界ともう一人の主人公アトレーユが旅をする本の世界「ファンタージエン」の2つの世界が並行して描かれています。一方後半では、バスチアン自身が「ファンタージエン」の世界に入り込み、さまざまな冒険をしながら、本当の望みを探す物語となっています。文庫版ではこの前半の部分が上巻、後半の部分が下巻となっています。
ハードカバー版、ここが魅力!
- 美しい箱入り。箱には、物語の主人公バスチアンが鏡を通して目にしたファンタージエン国が色鮮やかに描かれています。
- あかがね色(物語に出てくる色名です)の布クロスの表紙が美しい。タイトル文字「はてしない物語」を囲むモチーフは、物語の中の重要な場面と繋がっています。
- 文字色が世界ごとに分けられていて、分かりやすい。
現実の世界…こげ茶色、ファンタージエンの世界…薄緑色。
- ハードカバー版の最大のポイントは、物語の中に登場する本と全く同じ装丁だということ。お話に入り込めば入り込むほど、自分がバスチアンになったような感覚で読むことができるでしょう。
ここが面白い!
『はてしない物語』は数えきれないほどのみどころと面白さが詰まっています。以下は私が感じた注目部分ですが、読む方それぞれに面白さや好きな場面がたくさん見つかると思いますので読みながら探してみてくださいね。
※以下はネタバレを含みますので、何も知らないで物語を楽しみたいという方は読まずにお進み下さい。
- ファンタージエンに登場するさまざまな異形の生き物の存在に魅力される
→太古の媼モーラ、群集者イグラムール、幸いの竜フッフール、静寂の声ウユララ、人狼グモルク、さすらい山の古老、いも虫のアッハライ、女魔術師サイーデ、アイゥオーラおばさま、盲目の抗夫ヨル‥‥‥などまだまだ書ききれないほど奇妙で不思議な生き物が登場します。描写が細かく素晴らしく、さし絵を手がかりとしながら、自由に想像を膨らませて楽しみたいところです。登場する生き物たちは、アトレーユやバスチアンの敵だったり味方だったりさまざまな立場で登場するのですが、それぞれにアトレーユやバスチアンに気づきやアドバイスをもたらしてくれる存在です。
- 現実の世界から本の世界へ入るという奇跡
→現実の世界とファンタ―ジエンの世界がどんな風に繋がっていくのかが大きな注目どころです。
- 物語の要所要所で登場する門や扉の存在が気になる
→物語の前半でアトレーユが挑戦する通るのが難しい謎の門。後半でバスチアンの前にはだかる扉など、それぞれの扉が何を意味しているのかが気になります。
- 名前や物語をすぐに思いつくバスチアンの才能
→持ち前の想像力を働かせて、ファンタージエン国のあらゆる名づけ親となったり、新しい物語を生み出す場面は、バスチアンが一番生き生きとしているのを感じます。
- ファンタージエン国で、アウリンを授けられたバスチアンは、ひとつひとつ望みを叶えていくのですが、ひとつの望みを叶えると次の望みが出てくるところ、また望みがかなうごとに、バスチアンの中から大切なものが奪われていく仕組みがとても興味深く描かれます。
→背が小さくて太っていることがコンプレックスだったバスチアンは、ファンタージエンでは美しい王子の姿に。すると、美しくなりたいという望みを持っていたことすら忘れ、次の望みが出てくるという具合です。
読者レビューより
かけがえのない一冊
初めてこの本を読んだのは、中学生の頃。何かのお祝いにいただきました。そして、まさに物語にとりこまれ、読み終わるまで、本が一時も手放せなくなり、母に注意されるほどでした。本に入っていく主人公のバスチアンと自分がわからなくなるくらい、夢中になりました。物語が終わるのが、本当に悲しくなるほど好きになった一冊です。
子どもの時に、この本と出会えたことは、私には大きなことでした。
それくらい、大事な本です。
先日、久しぶりに読みましたが、やはりおもしろい。自分の年齢がかわるにつけ、うけとるものも違いますし、ひきつけられるところも変わります。
とにかく、壮大な物語です。
できれば、この本は文庫でなく、ずっしりとした単行本で読んで欲しいと思います。特に子どもが読むならば、バスチアンの持っている本と似たつくりのほうがいいのでは、と思います。本が大事な要素になっている物語ですから。
(あんじゅじゅさん 40代・その他の方)
何度でも読み返して…
『モモ』と並び、エンデの作品の中でも特に好きな一冊です。
初めて読んだのは小学生の時でした。
あかがね色の布地に、二匹のヘビがそれぞれの尾をくわえ合って輪になっている表紙。物語の中の主人公が手にしている本と似た装丁のずっしりとした本は、それだけでわくわくするものでした。
各章毎に独立した、様々な異形の者たちの物語が繰り広げられ、読み応えのあるファンタジーという印象でした。
ある時、大人になってから再びこの本を通して読む機会がありました。
子どもの頃に読んだ時から、この本の重要な部分は、主人公が物語の世界に飛び込んだ後半部分にあると思ってはいたのですが、改めて読み返してみて、この後半部分に描かれている内容の深みにすっかり魅了されました。
読後、エンデという人は、なんて愛情深い人なのだろうと、感動で胸がいっぱいになったのを覚えています。もう、20年ほど前のことですが…
それからはエンデの晩年の作品を常にチェックして購入していました。
最近、閉塞感を感じているので、そろそろまたこの本の世界に浸りに行きたくなっています。
ずっしりとしたあかがね色の表紙の本が手元にあって良かったなあ。
子どもたちに、子どものうちに読んでおいた方がいい本の一冊として、真っ先に勧めたい本です。
(てんちゃん文庫さん 40代・ママ 女の子17歳、男の子15歳、女の子10歳)
作者のミヒャエル・エンデとは?
1929年生まれ。ドイツの作家。ドイツ南部の町ガルミッシュ-パルテンキルヒェンに生まれる。画家エドガー・エンデを父に持ち、演劇活動のかたわら、さまざまな戯曲・詩・小説を生み出す。 『ジム・ボタンの機関車大旅行』が1961年、ドイツ児童文学賞を受賞。続編の『ジム・ボタンと13人の海賊』とともに児童劇やテレビの放送劇となり、一躍人気作家となる。 『モモ』『はてしない物語』のほか、『岩波少年文庫 魔法のカクテル』『まほうのスープ』(以上、岩波書店)など、著作多数。1995年逝去。
いかがでしたか。
ファンタジーとして日常とはかけ離れた世界を描きながらも、読む私たちの心に深く働きかけてくる『モモ』と『はてしない物語』。読む年齢によっても読むたびに新たな気づきを手渡してくれるでしょう。一生のうちに何度でも読み返したい名作です。
文:秋山朋恵(絵本ナビ副編集長・児童書主担当)
撮影:所 靖子
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