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『特装版 車のいろは空のいろ』いつまでも読み継ぎたい日本のファンタジーの名作

「白いぼうし」の感動と面白さをもう一度! 「車のいろは空のいろ」シリーズを特装版で手に取ってみませんか?

「これは、レモンのにおいですか?」

ほりばたでのせたお客のしんしが、はなしかけました。

「いいえ、夏みかんですよ。」

 

1968年に刊行以来、子どもから大人まで幅広い層の読者に世代をこえて愛読され続けてきたロングセラー「車のいろは空のいろ」シリーズ。とくに「これは、レモンのにおいですか?」の出だしではじまる「白いぼうし」のお話は1971年より50年以上にわたり国語の教科書にも掲載され、多くの子どもたちに読み継がれてきました。小学生の頃に読んだ記憶が蘇って、思わず懐かしい! と声をあげてしまう大人の方も多いのではないでしょうか。その「白いぼうし」のお話が入った連作短編集の第1巻『白いぼうし』と第2巻『春のお客さん』がこのたび豪華な特装版セットとして発売となりました。さて、どんなセットなのでしょう。お話の内容と合わせて、詳しくご紹介します。
 

特装版 車のいろは空のいろ

【セット内容】
・書籍2冊(クロス装・箔押し・化粧箱入り)
『特装版 車のいろは空のいろ 白いぼうし』
『特装版 車のいろは空のいろ 春のお客さん』
・特製アートカード…北田卓史が描いた「車のいろは空のいろ」の名シーンの中から4場面を特製のカードにしました。
・特製リーフレット「思い出すままに」…各巻の収録作について、作者・あまんきみこが思い出すままに綴ったとっておきのお話です。

特装版ここが素敵!!

Special 1 クロス装に箔押しの表紙

背表紙にもしっかりタイトルと著者名と出版社名の箔押しが。
さりげないタクシーの箔押しが嬉しい♪

優しい色合いの二色のクロス装に箔押しの豪華な表紙。背表紙にも銀色の箔押しでタイトルと著者名、出版社名が記されています。右下のタクシーの箔押しにもご注目くださいね。

Special 2 特製化粧箱

デザイン=名久井直子さん特製のおしゃれなスリーブケース入り
箱の裏はまた違う絵柄になっています

手触りがよく、しっかりとした作りのくるみ箱。箱に描かれている絵柄はなんのお話でしょう。読んだ後に、ああ、あのお話の中の絵だったのか……と気づいて、また絵を見ながらお話を反芻して、という楽しさがあります。本棚にしまっておいて、ふと表紙を目にした時にいつでもお話の世界が蘇ってきそうな気がします。実際に手にとってみると固くてとても頑丈な箱は、大切な特装版2冊をしっかりと守ってくれる頼もしさです。

Special 3 思い出すままに(あまんきみこさんのとっておきのおはなし)

2巻それぞれの収録作について、あまんきみこさんが思い出すままに綴った、とっておきのおはなし。一気に読んでも、短編ひとつ読み終えるごとに読むのでもおすすめ。私は、短編ひとつ読み終えるごとに、その作品にまつわるエピソードを読んで‥‥‥という順番で読み、ひとつひとつの作品をさらに豊かに味わうことができました。

Special 4 北田卓史さん特製アートカード

北田卓史さんが描いた『車のいろは空のいろ』の名シーンの中から4場面を特製のカードに。それぞれどのお話の名シーンなのでしょうか。読み終えた後にはこちらのカードを見るだけで、お話が蘇ってきそうです。

「車のいろは空のいろ」シリーズとは?

どんなお話?

1968年の刊行以来、半世紀以上読み継がれるロングセラーシリーズ。空いろのタクシーの心優しい運転手、松井さんとふしぎなお客さんたちとの出会いがあたたかく描かれる名作ファンタジーです。長く愛されてきた『白いぼうし』『春のお客さん』『星のタクシー』の3巻に、2022年11月あらたに4巻目となる最新作『ゆめでもいい』が加わり、全4巻となりました。まだ同時に新装版と特装版セットが刊行となりました。

特装版に含まれる短編の目次はこちら

『白いぼうし』 8編の連作短編集

  • 小さなお客さん
  • うんのいい話
  • 白いぼうし
  • すずかけ通り三丁目
  • 山ねこ、おことわり
  • シャボン玉の森
  • くましんし
  • ほん日は晴天なり

    あとがき

    【解説】西本鶏介

『春のお客さん』 7編の連作短編集

  • 春のお客さん
  • きりの村
  • やさしいてんき雨
  • 草木もねむるうしみつどき
  • 雲の花
  • 虹の林のむこうまで
  • まよなかのお客さん

    あとがき

    【解説】砂田弘

 

「車のいろは空のいろ」シリーズの魅力とは?

  • 松井さんの乗るタクシーの色の表現に惹かれる
    「空いろのぴかぴかのタクシーが、一台、とまっていました。」
    本の最初の出だしはこの一文からはじまります。「車のいろは空のいろ」とシリーズ名にもなっている「空のいろ」。この「空のいろ」という表現がまずとても素敵ですね。どんなお天気の時の空のいろなんだろう、なんて想像してみるのも楽しいかもしれません。
     
  • タクシーに乗ってくるふしぎなお客さまの正体は?
    松井さんが運転する空いろのタクシーには、いつもふしぎなお客さまが乗ってきます。はじめは普通の人なのですが、途中でなんだか様子がおかしくなってくるのです。時にはお客さまが降りたあとにあれ? と気づくことも。また時間や時代を超えたお客さまが乗ってくることも!? いったいどんなお客さまが乗ってくるかワクワクドキドキしながら読んでみてください。
     
  • 誰にも分け隔てない、運転手の松井さんの優しさ
    お客さまが人間であろうと動物であろうと虫であろうと、松井さんの態度は変わりません。だからこそ、松井さんのタクシーにはいろいろなお客さまが安心して乗ってくるのではないでしょうか。動物も人も虫も同じという作者の優しい目線が感じられるところでもあります。
     
  • どのお話も春夏秋冬の季節がハッキリしていて、季節の雰囲気が感じられる。
    「タンポポがきいろのじゅうたんのようです。」
    (「小さなお客さん」春、四月のお話)
    「夏がいきなりはじまったようなあつい日です。」
    (「白いぼうし」夏、六月のお話)
    「あんなに青あおとしていた並木の葉も、いつのまにか、きいろにいろづいています。」
    (『山ねこ、おことわり』秋)
    「星が、つめたい冬の空に、ちかちかとひかっています」
    (『くましんし』冬)
    どのお話も出だしからどんな季節に起こる話なのかがはっきり分かり、その季節独特の空気感が伝わってきます。
     
  • 五感に訴えてくる表現が心地良い。
    季節ごとに見られる美しい自然の風景、目の前に繰り広げられる不思議な光景、子どもの笑い声、生き物たちの小さな声、夏みかんのにおい、暑さ、寒さなど、目に耳に鼻に肌に感覚として感じられる豊かなことばの表現に、想像が心地良く広がっていきます。
     
  • 優しく親しみやすいファンタジーの中に、考えさせられるテーマが含まれている。
    「すずかけ通り三丁目」空襲で死んだ息子たちに会いに、二十二年の時を超えて母親が会いにくる、戦争の傷あとを描いた作品
    「くましんし」自然を壊す人間の身勝手さを突く作品‥‥‥。
    あまんきみこさんが多くの作品を通して伝え続けられてきた、戦争の悲しみと平和への祈り、自然との共生などのテーマが、優しいファンタジーの中にしっかりとしたメッセージとして入っています。読むとどこか心に引っ掛かり、心に深く残ります。

    『白いぼうし』の【解説】で日本の児童文学作家・児童文学評論家である西本鶏介さんも次のように言われています。
    「あまんさんの作品が今なお読みつがれているのは、だれもが親しみやすいファンタジーにとどまらず人生や社会の真実を見る目がしっかりと光っているからです。」

お話を作られたのは?

日本を代表する児童文学作家のあまんきみこさん。

1931年旧満州に生まれ、日本の児童文学作家坪田譲治さんが主催する「びわの実学校」に「くましんし」を初めて投稿されたところから創作活動が始まりました。1968年にこちらの「びわの実学校」発表作品を集めた『車のいろは空のいろ』が刊行されると、日本児童文学者協会新人賞と野間児童文芸推奨作品賞を受賞されます。その後も、『こがねの舟』(以上ポプラ社)で旺文社児童文学賞、『ちいちゃんのかげおくり』(あかね書房)で小学館文学賞、『おっこちゃんとタンタンうさぎ』(福音館書店)で野間児童文芸賞、「車のいろは空のいろ」シリーズで赤い鳥文学賞特別賞、『きつねのかみさま』(以上ポプラ社)で日本絵本賞など多くの賞を受賞されました。2020年代に入ってからもさまざまな絵本作家、画家、イラストレーターさんの挿絵とともに読み応えのある新刊がぞくぞくと刊行され、今なお児童文学作家としてご活躍を続けておられます。

『ちいちゃんのかげおくり』『おにたのぼうし』「白いぼうし」(「車のいろは空のいろ」シリーズの一篇)』など、あまんきみこさんの作品は多くの小学校の国語の教科書にも長く掲載され、日本じゅうの誰もが一度はあまんきみこさんの作品に触れたことがあるのではないでしょうか。

優しくて心地良いファンタジーの世界の楽しさも大きな魅力ながら、時に、優しいファンタジーの中に平和への祈りや、自然や動物との共生のメッセージが秘められていることに気づいたとき、読者の心が揺さぶられ、読んだ時からずっと心に残り続ける、そんな作品をたくさん生み出されています。

絵を描かれたのは?

昭和20年代から平成の始めにかけて、児童書や絵本などたくさんの作品を残された画家の北田卓史さん。

代表作には、「車のいろは空のいろ」シリーズ(ポプラ社)の他、大石真さんとのコンビによる『チョコレート戦争』(理論社)、『さとるのじてんしゃ』(小峰書店)、『もりたろうさんのじどうしゃ』(ポプラ社)などがあり、今でも人気を博しています。単行本以外にも、「キンダーブック」、「チャイルドブック」、「こどもせかい」といった定期刊行の絵本雑誌などに数多くの作品を提供されており、小さな頃によく絵を目にしていたという大人の方も多いのではないでしょうか。登場人物の動きや表情は控えめながら、その感情がありありと伝わってくるのはなぜなのでしょう。長く読み継がれるお話とともに絵も味わっていきたいですね。

いかがでしたか。

何度も読み返して、優しいファンタジーの世界を楽しむと同時に、その奥に込められたメッセージをしっかりと見つめたい。子どもの頃に出会った感動と面白さにもう一度出会いたい。大人になった自分自身に、またこれからこのお話に出会う子どもたちに、とびきり贅沢な造本で、日本のファンタジーの名作を贈ってみませんか。
 

文:秋山朋恵(絵本ナビ副編集長・児童書主担当)

撮影:所 靖子

掲載されている情報は公開当時のものです。
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