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子どもの視点でストン!とわかる絵本 〜てらしま家の絵本棚から〜

大人の都合で絵本を押しつけていませんか?『くずかごおばけ』

絵本記事を書いたり、絵本について研究の日々を送る、絵本研究家のてらしまちはるさん。その活動の原点には、小さな頃にお母様から読み聞かせてもらったたくさんの絵本があるそうです。子ども時代の一風変わった、けれど本当はどこにでもある絵本体験を、当時の視点で語ってもらいます。「絵本の楽しさって何?」「読み聞かせているとき、子どもは何を思っているの?」そんな大人の疑問を解く、意外なヒントが満載です!

異世界に「行きて帰りし」物語

ついこの間、絵本作家せなけいこさんの展覧会が、神奈川県の横須賀美術館でありましたね。足を運ばれた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 

それにしても『ねないこだれだ』(福音館書店)が50周年とは、驚きでした。今だって、まったく古くささを感じさせないですもんね。私も子どものころ、この絵本をはじめ、せなけいこ作品を何冊も読んでいたなあ……。

 

なかでも、特に気に入っていたのが『くずかごおばけ』でした。

『くずかごおばけ』

くずかごおばけ

いやなものは、なんでもすててしまう女の子。ところが、そのくずかごの中から手が出て……。

【読んであげるなら】3歳~ 

【私が昔読んだ年齢】2歳ごろ~11歳ごろ

『くずかごおばけ』は、てらしま家の絵本タイムのレギュラーメンバーでした。なぜって、数日に一回はかならず私が絵本棚から出してくるからです(笑)。

 

お話は、わがままな女の子が、気に入らないものを次から次にくずかごへ捨てるところから始まります。あれもポイ! これもポイ!

 

すると、くずかごから大きな手がにゅ〜っとのびて、彼女は真っ暗闇に連れ去られ−−。捨てられたものたちの怒りうずまく異世界で、女の子はとびきりの怖さをあじわうのです。

子ども時代、この絵本を読んでもらう私は、主人公の女の子になりきって「うわあ、怖い!」を楽しんでいました。怒れるおばけたちを見つけて、うわあ、怖い。おばけたちに追いかけられて、うわあ、怖い。

 

けれど最後には、ちゃんと異世界から帰ってこられるんですよね。だから、恐怖に身を投じたとしても「恐怖のなかにいる自分」を楽しむ余裕がありました。

 

帰れるとわかっているから、余計にやみつき。何度も開きたくなる、めっぽう面白い絵本だったのです。

大人が考える「○○に効く絵本」、実は効いていない!?

ただただ面白かった『くずかごおばけ』。子どもの私が大好きだった理由は、単純にそれに尽きます。

 

でも、いま大人になってみて、一般の大人たちもこの作品を子どもと同じように見ているかというと、だいぶ事情が違うこともわかってきました。

 

『くずかごおばけ』を、しつけのためだけの絵本と思っている人が、だいぶ多いようなのです。この記事を読んでいらっしゃる方には、きっとあまり該当しないのでしょうけれど−−。

 

絵本ナビ「みんなの声」でも、この絵本に対する大人のコメントとして「読むと子どもの態度が急に変わって、行儀がよくなる」「これは使える」という趣旨のものが見受けられます。私も実際に、そうした声は何度となく耳にしてきました。

これに出くわしたとき、私のなかの感情は複雑です。それは、大人になってからの目と、子どものころの目という、本作への両方の視点を経験しているからです。

 

大人としての私は、親たちが「わが子の行動を正すのに、即効性あるアイテムがあれば使いたい」と思う気持ちが、よくよくわかります。

 

というのは、仕事やプライベートで自分が子どもに接してきて、彼らが時にかなり面倒くさい存在だと知っているからです。

 

基本的には、子どもの気持ちをくみとろうと努めますが、何度言っても理屈が通じなければ、ついイラッとすることはやっぱりあります。

 

だから、子どもが物を粗末に扱うのをなかなかやめないとき、一撃必殺で『くずかごおばけ』が「効く」なら、その力を利用したいと思う気持ちは理解できるんです。

 

かたや、絵本に親しんだ子どもとしての私は『くずかごおばけ』がそういった使い方をされることに、大きな違和感を抱かずにいられません。

 

せっかくの面白い話なのに、「あなたのしつけのため」という言葉がくっついて手渡されただけで、途端に見たくもなくなってしまいますから。

 

『くずかごおばけ』に限らず、「○○のため」とお仕着せの目的がぷんぷん臭う絵本は、どれもそう。たとえ口に出して伝えなくても、子どもって、動物的な嗅覚でかぎとっています。

 

それに、反応が正直。3、4歳くらいでは、わかりやすい子だと、敬遠したい気持ちが「集中できない」などの反応となって現れたりします。

 

2歳くらいなら、見たくないのにわざと怖いのを見せられて、泣く子もいるかも。これをくりかえされたら、その子は絵本自体を嫌いになりかねません。

 

大人が「効く」と思ってやっていることが、実のところ、子どもからするとおかど違いということがあります。効くどころか、本から遠ざかる原因を大人の側がわざわざこしらえている場合もあるかもしれません。

 

さて、大人の目と子どもの目、両方経験した私が結局どちらを大切にするかは、ここまで話せばもう明らかですね。

絵本が本当に「効く」ときはいつか

絵本の基本は「読みたいときに読みたいものを読む」こと。大人に誤解されがちな『くずかごおばけ』も、基本に立ち返って選んでほしいところです。

 

「みんなの声」のコメントを読んでいて、こんな出会い方が理想だなあというものを見つけましたよ。

この絵本は私が5歳くらいのときに初めて自分で選び、プレゼントしてもらった本です(中略)自分でおもしろいと思って選び、今もずっと心に残っている絵本だということに間違いはありません。ぜひお子さんに読んで怖がらせてあげてください。私のように「こわい! でももう一回読みたい!」となるかもしれません。

(タマゴさん/20代、投稿2012年 ※原文を要約)

うん、やっぱり、面白いから読むという単純明快な絵本選びが、いちばんです。

 

その結果、ものを大切にし始めるなどの行動が子どもに現れることは、十分にあり得る話。でも、なんにせよ、絵本を純粋に楽しむ時間が最初にあってこそでしょう。

5歳ごろの筆者(右)と妹。

読みたかった絵本を心底面白がった思い出は、大人になっても、心の芯にずっととどまります。成長したその子が苦しい局面に立ったとき、子ども時代のそうしたものが、生きる支えになってくれることがあります。

 

絵本が本当に「効く」のだとすれば、何十年も経って訪れるそんな瞬間だと、私は自分をふりかえって思います。

 

絵本の思い出って、一緒に読んだ大人との記憶。だから、絵本のことを思い出すと、自然と「あのころ私、あの大人に愛されてたんだなあ」と気づくことができます。

 

その確信さえあれば、ときに仕事や家の問題にくたびれて自分が見えなくなったとしても、ふしぎとまた立ち上がる気力が湧くのです。

 

絵本には、時間をまたぐそんな底力があります。私が絵本を追いかけつづけるいちばんの理由は、これです。

 

近ごろは、なにかにつけてすぐ効果が出ることを求められがち。でも、一見効率のわるそうなことが、人を形づくる要素としては欠かせなかったりします。

 

絵本も、そういうものの一つでしょう。

てらしま ちはる

1983年名古屋市生まれ。絵本研究家、フリーライター。雑誌やウェブ媒体で絵本関連記事の執筆や選書をするかたわら、東京学芸大学大学院で戦後日本の絵本と絵本関連ワークショップについて研究している。『ボローニャてくてく通信』代表。女子美術大学ほかで特別講師も。日本児童文芸家協会正会員。http://terashimachiharu.com/

写真:©渡邊晃子

掲載されている情報は公開当時のものです。
絵本ナビ編集部
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