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子どもの視点でストン!とわかる絵本 〜てらしま家の絵本棚から〜

斬新!小学生も大人もハマる奇想天外な長いしりとり絵本『ままです すきです すてきです』

絵本研究家のてらしまちはるさんは、子ども時代に自宅の「絵本棚」でたくさんの絵本に出会いました。その数、なんと400冊! 「子どもが絵本を読む目線は、大人の思い込みとはちょっと違う」そうですよ。

 

 

絵本を読むのって、たのしいですよね。

 

好きなのを子どもと開いて、あははと笑って。

 

でも、表紙を閉じたら絵本の世界はおしまい、と思っていませんか? おしまいにならない絵本って、実はたくさんあるんです。

 

今日の一冊も、そのひとつ。私たちの日常に、ご機嫌に「はみ出す」絵本です。

『ままです すきです すてきです』

ままです すきです すてきです

不思議で奇妙なしりとり遊びの絵本。「たぬききつねねこ……」に始まって、ページを繰るごとに思いがけない展開で言葉と言葉が結びつき、とてもおかしな空想の世界へ読者を誘います。

【読んであげるなら】2歳〜

【私が昔読んだ年齢】3歳ごろ〜13歳ごろ

斬新&爆発的!魅力あふれるしりとり絵本

『ままです すきです すてきです』は、しりとり絵本です。

 

でも、ただのしりとり絵本とあなどるなかれ。

 

大人でさえ、ひとたび読み始めたら「えっ、なにこれ!?」がとまらない、斬新かつ爆発的な一冊なのです。

 

まずは絵柄を見てみましょう。

 

おにの子がこちらに手を振る表紙絵からして、存在感がきわ立ちます。が、これは序の口です。

 

摩訶不思議ワールドは絵本のすみずみまで広がり、私たちが頭から煙を立てておもしろがるのを待ち構えています。

 

子どもはこれをありのまま、素直に楽しめます。

 

強烈なまでの絵のゆたかさに、子ども時代の私はもはや「しりとり絵本」だなんて忘れていましたけどね。

 

そして、言葉も斬新です。

 

谷川俊太郎による、どこか奇妙な長〜いしりとり。なんと、一冊のはじめから終わりまでひとつづきになっています。

 

最初こそ「たぬき きつね ねこ」と始まりますが「ちくおんき きく くま」「すてーき きらいな なまけもの」と、だんだんヒートアップ。

 

しりとりなのにストーリーがあって、ただの言葉の羅列に終わりません。

 

変なしりとりから立ち上がる光景を、アバンギャルドな絵がのみこんで、その魅力は爆発的。

 

見ずにはいられない絵本です。

ご機嫌に「はみ出す」絵本って、なに?

ところで、ご機嫌に「はみ出す」絵本とは?

 

それは、ページを閉じても遊びがつづく絵本の意味でした。

 

『ままです すきです すてきです』には、ほかのどんな絵本でも替えのきかないおもしろさがあります。夢中になる子は大勢いることでしょう。

 

その子たちの脳裏には、おにの子の住む世界が、絵本を閉じても広がっています。

 

大人がここに、長〜いしりとり遊びのきっかけを放りこんであげれば、絵本のなかだけに息づいていた遊びは、かんたんに日常世界に「はみ出」してきてくれます。

 

どうやるのかって?

 

身の回りのあれこれを思い出して、長いしりとりを作るだけですよ。

自粛生活ネタを、しりとりに

たとえば、私の近ごろの暮らしを題材にして、いくつか作ってみましょうか。

 

え〜っと、そうだなあ。……こんなのとか。

 

「はなつみ みつけた たくさんの のばな」

 

巣ごもり生活で、野花をつんで歩くたのしみが増えたことを、ひとつづきのしりとりにしてみました。

 

まだ、できそうです。

 

「かついで でかけるのじゃ じゃばらから ラララ」

 

お、よくできた気がする(笑)。これは、当ててもらいましょうか。なんのことを言っているか、わかりますか?

 

答えは、楽器のアコーディオンです。

 

自宅時間の長い生活にうるおいがほしい!と思って、私、GW前にアコーディオンを手に入れました。

 

近所のだだっ広い公園に毎日かついでいって、練習しています。重さ10キロ、でも抜群にたのしい。

こんなのもあります。

 

「ぎょっとした! たちつくすも ものいわぬ ぬら〜り」

 

長引く自粛生活のなか、うちの団地に、ある日あらわれたんですよ。ぬら〜りと「恐竜」が! これには、びっくりしました。

 

ランニングから帰ってきた夫が「恐竜がいる」って言うから、わけもわからず見に行きまして。そしたら本当に、等身大の恐竜のきぐるみが遊歩道を「ヨタ……ヨタ……」と歩いていました。

 

居合わせた大人も子どもも「え、なにこれ?」という感じ。みんな一定の距離を保って見つめます。

 

すると、恐竜はにわかにお腹を押さえ、次の瞬間、ジッパーが空きました。なかからは、ブロンドのお姉さんが汗だくで出てきました。

 

留学生さんかな? 彼女は汗をふきふき、恐竜をたたんでいきます。

 

それを眺めていたら、お腹の底からわらいがこみあげてきました。こんなに笑ったの、ひさしぶりってぐらいに。

小学生と読んで、なが〜いしりとりを

近ごろの生活だけにしぼっても、けっこうひねり出せました。

 

楽しかったことを思い出しながら考えるのって、生活がうるおいそうじゃありませんか?

 

こんな感じで1つか2つ考えておいて、子どもたちをしりとりに誘ってみてはいかがでしょう。

 

子どもは、大人よりも作品世界に入りこむのが上手です。

 

おうちでの読み聞かせで子どもが本当に気に入っている作品なら、そのなかの遊びがはじまるきっかけを作るだけで、絵本の力の後押しで子どもたちとの遊びが大きく広がる可能性があります。

 

地域によっては、なかなか外に出られない生活がいまだ続いています。日常生活から派生したこうした遊びのアイデアをもっていると、子どもにとっても大人にとっても心強いのではないでしょうか。

 

ちなみに本書は、出版社が出している対象年齢を見ると「読んであげるなら2才から」となっています。

 

でも私は、あえて小学生と一緒に読むのをオススメしたいです。

 

特に、小学校低学年の子にはぴったりでしたよ。

 

この間、オンライン上で小学2年生の女の子とやってみたら、やわらかな発想で大人を尻目に、とっぴな言葉をつぎつぎと生み出してくれました。

 

絵本の絵を描いたのは

『ままです すきです すてきです』の絵をひとことで表そうとすると、あなたはどんな言葉を選ぶでしょうか。

 

私には、奇抜、とっぴ、風変わり……なんて言葉が浮かびます。

 

でも、それだけじゃない。抜群におもしろいし、奇抜だけれどそわそわさせる不安定感はないから、いつまでも読んでいられます。

 

ほかにあまり見かけない画風。描いたのは、タイガー立石です。

 

絵本作家というよりは、芸術家の色合いの強い人物でした。

 

『ままです すきです すてきです』をはじめとする彼の絵本群がめっぽうおもしろいのは、彼が絵本以外のいろんな場所を経験してきたからだと、私は考えています。

絵と遊んだ絵描き、タイガー立石

タイガー立石が通過した表現方法は、前衛絵画、漫画など、実に多様です。

 

それらで世間に認められたあと、彼は安住をきらって1969年にヨーロッパに渡り、10年以上過ごして1982年に帰国します。

 

絵本に着手したのは、帰国以降のことでした。

 

絵本にとりかかる前の作品を、いまも方々で見ることができます。

 

「コマ割り絵」と称する独特の手法で描かれた大きな一枚絵は、たまに開かれる美術館の企画展で見られることがあります。

 

また『TRA(トラ)』(タイガー立石、工作舎、2010年)では、大量に描きためられた漫画を読むことができます。

 

どの作品にも共通するのは、画面のなかにとほうもない広がりをもつこと、シュールなのにあたたかみのある筋書きが展開されること。

 

シュルレアリスムの画家をはじめとする、芸術家への尊敬とオマージュも垣間見えます。

描かれるのは、おそらく、彼が愛してやまないものばかりだったんじゃないかと、私は推測します。しかも描くことで、それらと遊んでいたんじゃないか、とさえ思うのです。

 

『ままです すきです すてきです』を見返すと、たとえば、きのこのつなひきの画面なんかは無限とも思える空間で行われています。

 

次のページの、すいかの水平線や、風景を目鼻に見立てたいたずらのような描き方は、ダリの絵を彷彿とさせます。

 

たくさんのアウトプットを経て、タイガー立石が最後に行き着いた、絵本というメディア。いままでのぜんぶが、息をしているようです。

なにかの入り口に、絵本がなることもある

才能あふれるこの画家は、残念ながら、いまは亡き人です。

 

けれど、いまでも絵本を通じて、メッセージを発しつづけています。

 

たとえば私は、あの水平線がダリの影響を受けていることなど、ちっとも知らずにいましたが、中学生のある日、美術の資料集でダリの絵から目が離せなくなりました。

 

その気持ちが大人になった私をヨーロッパへ旅立たせ、シュルレアリスムを入り口にして美術への興味をわきたたせてくれました。

 

絵本の発するメッセージは、受け取る人によって中身が違うでしょう。私の場合は、タイガー立石作品に美術へのきっかけをもらい「好きなものに没頭しなさいよ」と背中を押されたんだと思います。

 

うちの母は「おもしろがると思ったから」と、私たち姉妹に『ままです すきです すてきです』を与えました。

 

そのことを、私はとてもラッキーだったと思います。

参考文献:『TRA(トラ)』タイガー立石、工作舎、2010年

てらしま ちはる

絵本研究家、フリーライター。絵本編集者を経験したのち、東京学芸大学大学院で戦後日本絵本史、絵本ワークショップを研究。学術論文に「日本における絵本関連ワークショップの先行研究調査」(アートミーツケア学会)がある。日本児童文芸家協会、絵本学会会員。絵本専門士。

写真:©渡邊晃子

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