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子どもの視点でストン!とわかる絵本 〜てらしま家の絵本棚から〜

「自粛」に疲れた私たち 『めの まど あけろ』で手に入れた新しい世界とは?

絵本記事を書いたり、絵本について研究の日々を送る、絵本研究家のてらしまちはるさん。その活動の原点には、小さな頃にお母様から読み聞かせてもらったたくさんの絵本があるそうです。子ども時代の一風変わった、けれど本当はどこにでもある絵本体験を、当時の視点で語ってもらいます。「絵本の楽しさって何?」「読み聞かせているとき、子どもは何を思っているの?」そんな大人の疑問を解く、意外なヒントが満載です!

 

ここは東京、2020年4月21日です。ちょっと「自粛」に疲れてきてしまいました。

 

うちは夫婦2人の生活です。子どものいる家に比べたら、大人のことだけ考えていればいいんだから、緊急事態宣言下の巣ごもり暮らしもずっと楽に済んでいる方なのでしょう。

 

でも、急に変化した環境にストレスを感じてしまうのは、やっぱり大人2人だって変わらないのです。

急に変わった環境に、イライラ……

普段から家で仕事をしてきたフリーランスの私と、宣言の前後から家にいるようになった会社勤めの夫。

 

私自身は宣言の少し前から、夫に「なるべく家にいてほしい」と考えていました。

 

それにもかかわらず、いざほとんどの時間を一緒に過ごすとなると、自分のペースが乱されることにいらだちを感じるようになってしまいました。

特に頭を悩ませているのは、夫の取引先への電話や、オンライン会議の声です。これらの物音で、私の作業がひんぱんに中断されてしまうのです。

 

もともと私には、一人でいられる静かな環境が欠かせません。それは、文章や企画を考えるのに、そうでないとできないからです。いまは相手の物音でたびたび考えがふりだしに戻ってしまうため、鬱憤は日々つもっていくばかりです。

 

一方、夫は夫で停滞感をかかえています。

 

休みの日の遠出がいきがいの彼ですから、それがとりあげられて久しいとなれば、当然です。平日の夜に通っていたスポーツジムやゴルフ練習場も、つかのま遠慮すべきだし、第一、施設自体が閉まっています。

 

私も夫も、思いつくかぎりの発散法をためしてはみるものの、不全感はぬぐえません。せっかく一緒にいられるんだから、できるだけ笑っていたいのに……。

 

うちだけじゃないですよね、こういうのって。

 

きっと日本中が、いや世界中が、そんなさなかにあるのでしょう。不安と不自由に、みんながさいなまれる時代です。

解決できない、じゃあ鼻歌をうたおう

でも、よく考えれば、どちらも家にいて仕事ができるスタイルって、人間の生活としては望ましいはずですよね。

 

それこそ私たち夫婦は、ここ数年のうちに実現させようと行動していました。

 

あるべき形ではないけれど、それでも現実になりかけているのに、どうしてうまくいかないんだろう?

 

もやもやを解決する糸口は、さっぱり見つかりそうにありません。せめて気をまぎらわそうと、私は、慣れ親しんだ1冊の絵本を手にしました。

 

『めの まど あけろ』。これを開いて、ふんふんと鼻歌でもうたおうと思ったのです。

『めの まど あけろ』

めのまどあけろ

「めのまどあけろ おひさままってるぞ みみのまどあけろ だれかがうたってる……」子どもたちが、思わず口ずさんでみたくなる、現代のわらべうた絵本。

【読んであげるなら】2歳〜

【私が昔読んだ年齢】3歳ごろ〜13歳ごろ

気ままに鼻歌をうたっていると、いつのまにか細かいことはどうでもよくなっていたこと、ありませんか。

 

案外、これには根拠があると思うんですよ、私。

 

音楽を聴くとストレス解消になるというのは、もう方々で市民権を得ている話。いろんな研究でも指摘されています。

 

たとえば「音楽のストレス解消効果」という2013年の報告には、それに加えて、好きな音楽を聴くとストレス解消の度合いが大きいことや、5分以上聴くとその効果があらわれはじめるとあります。

 

鼻歌って、自分が心地いいから口ずさむでしょう。自然と耳にも入るし(当たり前か)、好きな音楽を聴くのと変わらないんじゃないか、というのが持論です。

閑話休題。『めの まど あけろ』のページを繰ると、谷川俊太郎の軽快な言葉たちがむかえてくれます。

 

「めの まど あけろ おひさま まってるぞ」の一節は、男の子の目覚めの場面をうたった詩の冒頭です。絵本はこの情景に始まって、最後まで読むと、男の子の一日をなぞる作りになっています。

 

すべて、ひらがなで書かれた詩。でも、誌面におどる文字だけを見つめていては、この絵本の魅力はよくわかりません。

 

ひとたび読み上げると、自然とふしがついて、鼻歌がとまらなくなります。これこそが大きな魅力です。

 

おそらくこの絵本を読むだけで、5分以上うたうというのは簡単に達成できてしまいそう、なんちゃって(笑)。

 

また、この絵本には、出発を予感させるオープンエンドなしめくくりの詩がいくつかあります。家にこもらざるを得ない暮らしでも、気分だけはようようと屋外に出かけるイメージをいだかせてくれて、うきうきします。

むかしむかしのてらしま家でも、『めの まど あけろ』は大人気でした。

 

いまもページをめくれば、三姉妹みんなで声をそろえてうたったことや、母の読む声が思い出されます。

 

まんなかの妹は、特にこの絵本が好きだったのも、思い出されてきました。そうそう、いちばんのお気に入りは「かんかん おこりむし」の詩でしたっけ。

ここに出てくる「おこりむし」は、男の子のお腹にいて、ぷんすか怒っています。理由はしっぽに火がついたからと、詩の第1節にあります。

 

第2節は、おそらく男の子の視点。おこりむしに向かって、出かけて気晴らししてごらんよ、と語りかける内容です。「のはらでさかだち しておいで」って。

 

ああ、そうだよね。私のなかのおこりむしも、しっぽに火がついちゃったんだろうな。「のはらでさかだち しておいで」って、おこりむしに言ってあげなくちゃ。

 

ついでに私も、近所の野原へ散歩に出かけてみようっと。

望んじゃいない変化でも、物事には両面あるから

近所の公園の、風わたる、だだっ広い野原。

 

お昼すぎに繰り出してみると、あちこちで楽しそうに過ごす人のすがたがありました。

集まりすぎを避けつつも、たくさんあるベンチやテーブルがどれも埋まるくらいには人がいます。

 

やっと見つけた切り株に腰かけて、私は、ぼーっとし始めました。

 

晴れた空からあたたかい日がさして、野原もうっとりしているみたい。うん、なかなか悪くありません。

 

ふと、3年前に旅行したドイツ・フランクフルトの広場が脳裏に浮かんで、「あのときにそっくりだ」と思いました。

 

その旅先で私は、平日の夕方に、いまみたいにぼーっとしていたのです。

 

仕事を終えたドイツ人たちが、芝生に腰をおろしてのんびりおしゃべりするのを、飽かずに眺めていました。どの人もにこやかにささめきあい、そこにはおだやかな時間が流れていました。

 

「日本でも、みんながこんな風に過ごせたらいいのにな」と思ったものです。他方で、せわしない私の国ではとうてい無理だろうと、あきらめも感じていました。

しかしいま、目の前には、ほとんど変わらない風景が広がっています。

 

野原のそこここで、ピクニックする人たち。親子連れやおばさん同士の小グループが、お弁当やお茶を片手に、しあわせそうに笑っています。

 

ランニングシャツに身をつつんだ若いお父さんは、ベンチに座って、電話会議に参加し始めました。カチッとした仕事の口調とはうらはらに、うしろ姿はとてもリラックスして見えます。2、3歳の娘さんが遊ぶのを、見守りながら話しています。

 

芝生の上を行く、ムクドリ。そのかたわらには、日よけのテントがたてられて、おじさんがゆったり寝転がって本を読んでいます。

 

未知のウイルスによって、くしくも変わらざるを得なかった私たちの生活。

 

大小さまざまな問題がふりかかっているのは、たしかに、まぎれもない事実です。が、もしかしたら、そう悪い面ばかりではないのかもしれません。

 

私と夫の困りごとも、やっぱりすぐには解決しないでしょう。でも、問題ばかりに目を奪われて、存在するしあわせを見失うのは残念です。

 

物事は両面。問題もしあわせもおおむね同じくらいの量で、新たに生まれているのでは。

 

慣れるべき部分は慣れ、解くべき問題は解決法をためしつづける。それが、私と夫にできるすべてでしょう。鼻歌の力でも借りながら、やってみるしかありません。

 

まさに、新しい世界に「めの まど あけろ」。そう語りかけられているような、私たちのこのごろです。

 

ぐっと、力がわいてきたぞ。

参考文献:海老原直邦、中嶋麻菜(2012)「音楽のストレス解消効果」,『富山大学人文学部紀要』56,pp49-58,富山大学人文学部.

てらしま ちはる

1983年名古屋市生まれ。絵本研究家、フリーライター。雑誌やウェブ媒体で絵本関連記事の執筆や選書をするかたわら、東京学芸大学大学院で戦後日本の絵本と絵本関連ワークショップについて研究している。『ボローニャてくてく通信』代表。女子美術大学ほかで特別講師も。日本児童文芸家協会正会員。http://terashimachiharu.com/

写真:©渡邊晃子

掲載されている情報は公開当時のものです。
絵本ナビ編集部
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