私だけじゃ、なかった。
私にも友だちは、いた。
小さくてファンシーなうさぎのマスコット。
小学生には似つかわしくない風貌のそれを、いつも学校のかばんに忍ばせて。
何かしゃべりたい事があれば、心の中で話しかけていたことを思い出す。
別に学校で上手くいっていなかったわけじゃない。
実際の友だちだっていたけれど。
きっとそこでは話しきれない事があふれていたのかもしれない。
その「私だけの友だち」は次々に姿を変え、人形になり、ぬいぐるみになり、文房具になり。
いつの間にかいなくなり、そんな事はすっかり忘れていたのです。
大人になった時、この絵本に出会い。
すごく驚いた。
そういう形のない自分だけの思い出が、
とるに足らない出来事だと思っていたその瞬間が、
絵本の中に描かれていたのです。
ALDO・わたしだけのひみつのともだち
ひとりで好きに過ごすのは悪くない。
時々はママと公園やご飯を食べに行くことだってある。
でも、またひとりになる…。
だけど私には特別なともだちがいる!
これは本当に運がいい。
本当に困った時は、いつでも助けにきてくれる。
わたしだけの秘密のともだち、アルド。
他の人には見えなくても、役に立つことはなくても、
たまに存在を忘れることがあったとしても。
アルドがいれば、どんな時だって怖くない。
少女の孤独な心を支えているのは、彼女自身の豊かな想像力。大人へと成長していくその一歩を踏み出す時、誰だって不安で心細い時期を通り抜けなくてはなりません。例え、それを支えてくれる人がまわりにいなかったとしても。いつも隣にいてくれるお友達が空想だっとしても。彼女にとってそれは大切な存在なんだということが、痛いほど伝わってきます。
ジョン・バーニンガムが絵本の中で描くのは、いつだって子どもの心の中に住んでいる小さな不安。不安定な線と風景でそれらを描き出す。だけどそこから受ける印象は不思議と自由で明るくて。くすっと笑えるユーモアで包み込んでくれるから、読んでいるうちに心が軽くなっていくのです。
「この感覚、自分だけじゃないんだな」
そう思えることが、子どもたちの心を救ってくれるのかもしれません。
もちろん、大人になってしまった私たちのことだってね。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
私は大人になってから出会ったけれど、子どもの頃に読んでいたらどう思ったのだろう。「一緒だ」と思って喜んだかもしれないし、「よくわからないな」と読み飛ばしていたかもしれない。
大人になった今、つらいからと言って「私だけのひみつのともだち」といって空想に逃げ込んでいたら、生活も仕事も立ち行かなくなってしまうでしょうね。でも、大人だって弱くはないのです。ちゃんと「ひみつのともだち」のつくり方だって、上手な付き合い方だって知っている。ここは子どもに自慢しなくちゃあね。
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磯崎 園子(絵本ナビ編集長)
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