【編集長の気になる1冊】外から見るか、内から見るか。
馴染みのない土地の見知らぬ道。
強い日差しに照らされながら、とぼとぼ歩く。
すぐそこで待ちわびてくれているような。
このまま永遠に辿り着くことなんてないような。
言葉も少なくなってきたその頃、視界の端に気配をチラッと見せてくる。
「あっ」
そうなると、後はもうひたすら歩くのみ。
少しでも早く近づきたい、その一心で。
息を切らしながら、坂道を登っていくと……
「会えた!」
広い青空を背景に、どこまでも広がる海を見下ろして。
白く堂々とそこにそびえたっているのは、
……私の大好きな灯台。
大人になってから見つけた数少ない趣味の一つ、「灯台めぐり」。
何が楽しいかと聞かれれば、
スリムで、とてつもなく背が高くて、その洒落た姿を真下から見あげる瞬間だと答える。
灯台が佇んでいるのは、遠くから見つけやすい、とても見晴らしのいい場所。
いつでもそこにいて、
光を放ち、船の安全を守り、人の命を守るのです。
だけど、そこに近づけば近づくほど違う景色が見えてきて……。
おーい、こちら灯台
その灯台が立っているのは、世界のさいはてにある小さな島。永遠に続くようにと建てられ、船を安全に導くために、遠くの海まで光を送るのです。
「……おーい!……おーい!
おーい、こちら灯台!」
灯台のあかりを灯し続けるのは灯台守の仕事。レンズをみがき、油をつぎたし、ランプの芯を切りそろえる。レンズが回り続けるように、ぜんまいをまき、些細な事も全て灯台日誌に書き綴る。
360度見まわしても海ばかり。上へ上へと続く建物の中は全て円形。らせん階段で塔内を移動し、聞こえてくるのは風の音。こんなところに人が暮らすなんて! でも100年程前までは、本当に灯台守は灯台に住んでいたのです。ひとりで、あるいは相棒と、あるいは家族と。
そんな、想像を遥かに超えたところにある様な「日常」を、この絵本は描き出してくれます。具体的に、美しく、とっても魅力的に。そんな一家のもとに船の荷物とともに届いたのは、思いがけない一通の手紙。そこに書いてあったのは?
2019年コールデコット賞を受賞した本作品。絵本の中心に堂々とそびえ立つ灯台の存在感そのものがこの絵本の魅力であることは間違いありません。日によって全く表情の変わる海の中で、霧の立ち込める風景の中で浮かびあがる灯台、更に陸地から眺める灯台。印象的な景色の記憶は、きっと子どもたちの心の中に刻み込まれていくことでしょう。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
灯台の中に住む。
そんなこと、考えたことありますか?
まわりには海しかないあの場所で、
あんな不思議な形の建物の中に、
誰とも会わない日々を過ごすのです。
ありえない。
ありえないけど……どこか憧れる自分もいて。
「外側から見た灯台」ではなくて「内側から見る灯台」。
その具体的な想像は、私にもう一つの楽しみを与えてくれます。
「…いつかそんな事が実現したとしたら」
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磯崎 園子(絵本ナビ編集長)
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