【編集長の気になる1冊】地面よりちょっと上。
空を飛びたい。
誰にだってある、そんな夢。
だけど、あんまり高いところは苦手。
だって怖いし、まわりに誰もいないのはなんだかさみしい。
いつだって憧れるのは、地面よりちょっと上。少し浮いている世界。
そう、テレビやアニメに登場するような、みんなよりちょっとだけ飛んでいるキャラクター。
例えて言うなら……
砂利道も泥道も関係ない、地面の上10センチ。
右側も左側も見える、塀の上15センチ。
地面をぽーんと蹴れば、軽々と水たまりを飛び越えられる、
頑張れば一回転だって出来ちゃう身の軽さ。
高い木の上の枝にぶら下がって、勢いつけて地面に飛び降りても全然平気で、
学校の教室から廊下、そして隣の校舎へ、窓から移動しちゃう浮遊感。
子どもの頃から一人妄想していたのは、そんな自分。
それって……謙虚なのかしら、それともちょっとした優越感?
うん、夢の中だったらどちらでもいい。
そして、ちょっとぐらい必死になって疲れてもいい。
……こんな素敵な世界なら!
まよなかのせおよぎ
「ちっとも ねむれない」
……そんな夜って、あるよね。
そんな時、窓の外を見てごらん。何かが起こっているかもしれないよ。
「うん? あれぇ?」
女の子が見たのは、夜の空を泳いでいる人!
水着を着て、水中メガネと帽子をかぶり、背中を下に向け、
背泳ぎをしているのです!!
女の子は驚いて、夢中であとを追いかけます。
背泳ぎの人は、坂の上を泳ぎ、大きな通りを泳ぎ、大きな建物の行き止まりに。
「あぶない!ぶつかっちゃう!」
すると……?
誰もが、なんとく、ふわぁーっと抱いている憧れのイメージ。
空を泳ぐ、ふわふわ泳ぐ、あの浮遊感。
それをこの絵本では、見事に素敵に具体的に実現してくれちゃっています。
いいな、いいな、こんな夜。
私だって、今すぐ体験したい。
そしてこの絵本の世界をさらに魅力的にしているのが、独特な丸みを帯びた愛らしい絵のフォルムと色鉛筆の淡い色彩。どこか懐かしいようで、でも確実に今の子どもたちを夢中にさせてしまう画風。静かで不思議な夜の出来事にぴったりなのです。この絵本の世界の人になりたい! そんな事を思うのは、子どもだけじゃないかもしれませんね。
第40回講談社絵本新人賞を受賞され、早くも話題となっている作者の近藤未奈さん。今後の作品も本当に楽しみです。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
背泳ぎかあ……、うん背泳ぎならイメージできる。
もともと一番得意な泳ぎだし。
なにしろ布団の上で目をつむり、そのままの姿勢で泳ぎだせばいいわけだ。
ちゃんと浮いてくれるかな。
どのくらい経ったら、ターンが上手に出来るようになるのかな。
高さは調節できるのかな。
もし飛んでいけたら、夜空を眺めようかな、それとも下に広がる自分の町を見ようかな…
自分ひとりかな…息子もいたりして……さむくないかな……
……いい夜になるといいねぇ。。。
合わせておすすめ! 素敵な夜の世界
磯崎 園子(絵本ナビ編集長)
この記事が気に入ったらいいね!しよう ※最近の情報をお届けします |