【編集長の気になる1冊】入り口だった……かもしれない?
「じゃあねー」
階段の踊り場で友だちと別れ、廊下の突き当たり奥から2番目の教室に入り、机の間の通路をすり抜けながら、前から3番目の自分の机に向かう。さあ、座ろう……とすると、そこには。
今日のすべての授業が終わって、これから「帰りの会」のはずなのに。鞄に自分の荷物を詰めて帰り支度をする時間、のはずなのに。私の机の上には知らない荷物がある。
「だれ? 私の机の上に荷物を置いてるのは。間違ってるよ……」
と大きな声で言いかけて、ハッと周りを見渡す。見慣れない人たちがいる。あれ、ここはどこ? 私だけ知らない空間にいる?
そして次の瞬間にすべてを悟った私は声を一言も発することなくそーっと後ずさり、Uターンをしてそそくさと教室を後にする。
そう、そこは間違いなく「まちがいきょうしつ」だったのです。本当は、自分の帰るべき教室は3階の奥から2番目。わざわざ友だちと手を振ってまで間違った教室に入っていったという……中学生の頃の話です。
まちがいまちに ようこそ
「まちがいまち」って、どういう町なのでしょう。
色んなものが間違っているってこと?
そんなの大丈夫なの?
いい天気の日、おとうさんとおかあさん、犬のころと、ぼくはお引っ越しです。
これから新しく住む町の名前は「まちがいまち」。
到着してすぐ、目の前に広がっているのは「あなばたけ」。
町の人が忙しそうにかけているのは「へいたいでんわ」。
みんなが住むあたらしいおうちの屋根の上には「えんぴつ」。
あれ、なんかへん。なんかちがう。
でも……なんかいい!
駅の改札口でも、バスの中でも、回転寿司屋さんでも。
公園でも、映画館でも、動物園でも。
合っているようで、合っていない。
びっくりするような楽しい間違いであふれています。
「まちがい」ってこんなに素敵なの?
こんなに面白かったっけ?
今最も注目される詩人のひとり斉藤倫さんとうきまるさんのコンビが手がける「ことばあそび絵本」。更に絵を手掛けているのは及川賢治さん。「新しい言葉遊びの世界が広がっているにちがいない」、そんな期待をしてしまいますよね。
その通り。畳みかけるように繰り出される「まちがい言葉」の数々に笑ったり、驚いたり、うっとりしたり。読者は見事に振り回されます。いいな、こんな町。私も「うにびらき」に行ってみたい! よし、この男の子に「けがに」でも書いてみようかな…。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
思えば中学生の頃は盛大に明るく間違えてばかり。そして、その後も。高校生になっても、大学生になっても大人になった今も。
でも、あの一瞬の不思議な空間は今でも忘れないのです。あれこそ「まちがいまち」の入り口だったのかもしれない。後ずさりせずに、もしあのまま机に座っていたとしたら……なんて、30年経った今、また続きの物語を想像してみたりするのです。
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磯崎 園子(絵本ナビ編集長)
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