【編集長の気になる1冊】じっとしているわけにはいかない。『スイミー』
「人生には、思いもかけないことが3回起こる」
これは、子どもの頃に母からよく聞かされていた言葉。どういう意図で言っていたのか、言った本人が忘れてしまっている今となってはわからない。それでも、私はかなり影響され、それなりに人生というものを恐れながら過ごしてきた。
少し嫌なことがあったり、悲しいことがあると、これは1回に入るのだろうか、これくらいじゃ入らないのだろうかと、幼い私は考える。もっとすごいことが後3回起こるってことだろうか。いや、案外知らないうちに2回分は終わっているのかもしれない……。
冷静に考えれば、そのカウントには何も意味がない。でも、それなりに覚悟ができていくものなのだ。たとえ今、居心地のいい場所にいたとしても、それが永遠に続くわけではない。ある時ひっくり返ることがある、ということを。そして、思わぬ出来事に遭遇したとしても、残りはあと2回。まだまだ先を見越して、知恵を絞り切らなくてはいけないのだ。動く準備をしていなければならないのだ。
スイミー 小さなかしこいさかなのはなし
広い海の中、楽しく暮らす小さな赤い魚の兄弟たちに混ざって、一匹だけ真っ黒な魚がいた。それが「スイミー」。
ところがある日、お腹を空かせた大きなマグロがやってきて、魚たちを一匹残らず飲み込んでしまった! 逃げられたのはスイミーひとりだけ。大きな悲しみの中、彼は暗い海の底を泳ぎ続けます。それはとても不安で寂しくて……。
けれどスイミーは、泳ぎながら出会うのです。たくさんの素晴らしい海に。見たことのない景色や知らない珍しい生きものたちに。その中でいつしかスイミーは強く賢くなっていき、ある日出会った岩かげに隠れる赤い魚たちに言います。
「いつまでも、そこにじっとしているわけにはいかないよ。
なんとか考えなくちゃ。」
絵本作家レオ・レオニの代表作の一つとして世界中で愛されるこの絵本。印象に残るのは、何といっても小さな魚が集まって一匹の大きな魚として泳ぐシーン。自分は目となり、みんなを引っ張るスイミーの成長した姿。
ですが読み直してみて驚くのは、その壮大で独創的な数々の海のシーン。様々な手法を使って表現される生きものたちの魅力的なこと! その迫力! きっと子どもたちは、小さなスイミーと同じようにそれらを心に焼き付け、未知なる新しい世界へ向かう時に勇気をもらうのかもしれませんね。年齢を重ねるたびに繰り返し手に取ってほしい一冊です。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
この考え方は、大人になると、案外自分の支えになってくれている。規模の大小の差こそあれ、繰り返しやってくる「その日」に向け、ただひたすらに頭を使い、体を動かし、目の前のことを乗り越える。
環境が変わったとしても、関係性が変わったとしても。あるいは、何も変えることができなかったとしても。スイミーはいつでも私たちに訴えかけてくるのです。
「じっとしているわけにはいかないよ」
レオ・レオニの絵本の世界
磯崎 園子(絵本ナビ編集長)
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