【編集長の気になる1冊】子どもたちの中に生まれた本当の気持ちには…『へいわとせんそう』
家の中にいても、何か違和感のある物音が聞こえてくると思わず階段の下に身をひそめる。外にいても空から聞こえる飛行機の音に、ふと首をすくめる。夢の中では、ふってくる爆弾からひたすら逃げ続ける。
これは、小さい頃に初めて観た映画のテーマが戦争だったせい。そのあまりの衝撃に、しばらくは現実と映画の中の世界の区別がつかなくなったほど。私が今いるこの世界にも、家にも、学校にも、家族にも、同じことが起こるかもしれない。かなり切実な恐怖だ。たとえ実際に経験をしたことがなかったとしても、あの時の絶望感は、今もずっと世界の誰かを思う時の土台となっている。
へいわとせんそう
「へいわ」と「せんそう」。
確かに違う、このふたつ。
平和の方がいいに決まってる。
…だけど。
「へいわのボク」と「せんそうのボク」ではなにが変わるんだろう。
詩人・谷川俊太郎と、一度見たら忘れられないモノクロームのドローイングが話題のイラストレーターNoritakeが取り組んだ、平和と戦争について考えるこの絵本。左右のページにはさまざまな人や物や場所の「へいわ」の状況と「せんそう」の状況が並び、ひとめでその違いが見えてくる。
例えば…
「へいわのボク」はいつも通り。いつもと同じに立っている。
「せんそうのボク」は座り込んでしまっている。
「へいわのワタシ」は勉強をしている。これもいつも通り。
「せんそうのワタシ」は何もしてない。
「へいわのチチ」はボクと遊んでくれて、「せんそうのチチ」は完全武装をして一人で闘っている。「へいわのハハ」は絵本を読んでくれるけど、「せんそうのハハ」は…。食卓を囲む「へいわのかぞく」、食卓には誰もいない「せんそうのかぞく」。手に持っているモノだって、木や海や街だって、明らかに全然違う。
それは、行き来が可能な世界ではない。
「せんそう」が終われば戻る世界でもない。
何かがなくなった、だけでは終わらない。
どこまでも深い「黒」と、少し光を放つような「白」の2色で構成されている場面に、シンプルだけど、これ以上ないくらいわかりやすい「ことば」。この絵本のどのページを見ても、まるでマークや記号のように、直接、目と頭に働きかけてくるのです。そして頭に残るのです。
でも、谷川さんは最後に大切な希望を見せてくれます。それは…。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
どんな事情があろうとも、どんな都合があろうとも。いやなものは、いや。戦争はしたくない。いつもと変わりなく毎日が続いていってほしい。そう思うのは間違っていないこと。子どもたちの中に生まれた本当の気持ちには、耳を傾け続けなければならないのです。
<本作に寄せて>
戦争が終わって平和になるんじゃない。
平和な毎日に戦争が侵入してくるんだ。 谷川 俊太郎
戦争はいやだ
磯崎 園子(絵本ナビ編集長)
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