【編集長の気になる1冊】思い出すのはいつも足音。『えんどうまめばあさんとそらまめじいさんのいそがしい毎日』
思い出すのはいつも足音。廊下をパタパタ走る音。階段をバタバタ上り下りし、思いついたように庭に飛び出していく。雨になれば庭に水がたまるからとバケツを用意し、晴れの日は洗濯物が乾いたかどうか何度もベランダまで見にいく。
母には効率や順番なんて関係ない。理屈の様でちっとも理屈じゃない説明をしながら、思いついた時に行動する。年を重ねるたびにそうなっていった気もする。
「はあ、つかれた」
椅子にどかっと座った時の表情は心なしか楽しそう。私もそんな様子を見たり聞いたりすると、ちょっと嬉しかったりして。でも、座ったままずっと動かない日だってある。何もやらなかったからと落ち込んで電話がかかってきたりもする。そんな日は悩まずにただ休めばいいのに。いつの間にか母のバタバタは、私にとっても大切な音になっていったのだ。
えんどうまめばあさんとそらまめじいさんの いそがしい毎日
小さな家に仲良く暮らす、えんどうまめばあさんとそらまめじいさん。二人ともとっても働きもの。今日もおばあさんは思い出します。
「庭のえんどうまめのつるに、ぼうを立ててあげなきゃ」
すると庭の草がぼうぼう。抜きおわった草を見て、うさぎたちに食べさせてやろうと思いつきます。ところが、うさぎ小屋の金網が壊れています。修理をしなくっちゃ。おじいさんに頼み、二人で作業小屋に行くと、目の前には穴のあいた作業着がぶらさがっていて……。
そうなのです。困ったことに、二人は何かをやっている最中でも、他にやりたいことが見つかると、すぐに始めないと気が済まないのです。だから大忙し。一日の終わりになると、二人はへとへとです。でも、なんだかとっても楽しそう。そうそう、暮らすってこういうことなんですよね。
松岡享子さんが、降矢ななさんと一緒に最後に残してくれた物語。えんどうまめばあさんとそらまめじいさんのドタバタする姿は、ユーモラスで可笑しくて可愛らしくて。「順番通りにいかなくたって、何とかなるもの」……そんな言葉が聞こえてくるようです。
磯崎園子(絵本ナビ編集長)
「暮らす」ということが大事。いそがしく、たのしくね。
――松岡享子(絵本冒頭より抜粋)
物事を順番通りに考えることが苦手な私は、それが母から受け継いだ短所だと思い込み、なんとか克服することばかりを思い続けてきたけれど。年を取ればそんな部分に助けられるってこともあるのかもしれない、なんて。そんな「贈りもの」も悪くないね。
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磯崎 園子(絵本ナビ編集長)
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