【編集長の気になる1冊】わたしの好きな先生は…『にんじんようちえん』
大好きだったその先生は、明るくて、きれいで、優しくて。わたしが描く先生の似顔絵はいつも怒っている顔ばかり。
「こらー!」
セリフまでつけられたその表情はとても生き生きしていて。……あれ? 思い出そうとすると混乱してくる。
そういえば、わたしは先生にしょっちゅう怒られてばかりだったのだ。幼稚園生にして教室から出されたことさえある。今思えばよっぽどしつこくしていたのだろう。怒っている顔をさらに絵に描くだなんて、わたしが先生の立場だったらやっぱり怒るにちがいない。後に母に聞いた話からも、さぞかし困らせていた事が想像できる。
それでも先生はわたしにとっての憧れだったし、その気持ちはよく覚えている。子どもが先生を好きになる瞬間というのは、どうやらそう単純なことでもないらしい。
「とげとげウサギの子」の行動を見ていると、そんな当時の自分が少し可愛らしく思えてくる。
にんじんようちえん
今日から新しいようちえん。だけど「とげとげウサギの子」は、ようちえんが面白くない。ようちえんに行きたくない。
「やあ!」
クマせんせいは、とても大きい。声も大きい。力もつよすぎる。そして……ぼくのつくった粘土のゾウをほめてくれた! にんじんキャンディもくれた。ぼくは、ようちえんが楽しい。せんせいとけっこんしたい!!
主人公の赤い「とげとげウサギの子」がとにかく可愛いこの作品、韓国の人気絵本作家アンニョル・タルさんによる大ヒット作品です。いつも不機嫌な顔をして、カリカリと怒ったり泣いたり大忙し。そんな彼が恋をしてしまうのが、たくましくて力の強いクマせんせい。その大きさの違いといったら……その組み合わせがたまらないのです。
と言っても、絵本の中で繰り広げられるのは、ごく普通のようちえんの日常生活。園庭で遊び、みんなでたいそうをし、「にんじんソング」(韓国の有名な童謡)をうたっておさんぽに行く。子どもたちはのびのび自由に動き回り、クマせんせいはいつでも彼らに目をくばる。その中で、とげとげウサギの子は、自分の感情を素直にまき散らしながら、少しずつ成長していくのです。どのページからもにぎやかな声が聞こえてくるようで、何度読んでも飽きることはありません。
日本ではひこ・田中さんの翻訳で登場です。日本でもあっという間にファンが増えてしまいそうですね。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
クマせんせいは、幼稚園での目の回るような忙しい一日を終えた帰り道、ふと今日の出来事を思い出して「プッ」と笑う。そして足どりも軽やかにまた歩きだす。なんてたくましくて魅力的なのだろう。
そんな風に笑いとばしてくれていたらいいな……、今さらながら願ってしまう。ごめんね、先生。
磯崎 園子(絵本ナビ編集長)
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