【ポプラ社×東京大学Cedep】「子どもと絵本・本に関する研究」共同プロジェクト
ポプラ社と東京大学Cedepが共同プロジェクト開始
株式会社ポプラ社と東京大学大学院教育学研究科附属発達保育実践政策学センター(以下東京大学Cedep)は、デジタルメディアの急速な普及が進む中、子どもを取り巻く読書環境の改善を目的とし、‘本’の価値を科学的なアプローチで明らかにする「絵本・本と子どもの発達」をテーマとした共同研究を2019年8月より開始しています。その研究背景や調査報告の概要、今後の展望内容を発表する記者会見を2月に行いました。
調査の背景…就学前の保育施設の急増に伴い、利用児童数が増加しています。また、利用時間の長時間化で、子どもの「育ちの場」としての重要性が増大していると考えられます。
東京大学大学院教育学研究科の教授である遠藤利彦さんは「デジタルメディアが急速に普及し赤ちゃんでもスマートフォンなどの情報端末に触れるようになっている。子どもを取り巻くメディア環境が変化しているなか、こどもたちがどのような形で絵本・本に触れ、どのような学びができるのかという新しい方向性について提案していきたい」と言います。
保育施設は絵本・本の予算と蔵書数が小中学校に比べ少ない
全国の保育・幼児教育施設の絵本・本環境実態調査の結果を報告しました。本調査を通じて、小中学校と比較して、保育・幼児教育施設では絵本・本の年間予算および蔵書数が非常に少ないことが明らかになりました。また、施設による格差が大きいことが判明しました。
冊数に関する調査結果は、園で所有している絵本は500から1,000冊未満が20.5%ともっとも多かったですが、施設形態別に見ると、300冊未満と答えた認可保育所が30.8%である一方、幼稚園は9.8%、認定こども園は7.7%と差が明らかになりました。
東京大学大学院教育学研究科附属発達保育実践政策学センター 特任助教の高橋翠さんは「施設における園児が少ない場合や、設立年数が浅いと蔵書数も少ない傾向にある」と言います。
子ども1人あたりの年間平均予算は1000円以下で、補助金もほぼなし
1年間の絵本の平均購入予算が5万円未満である施設は、認可保育所が60.4%、幼稚園が55.0%、認定こども園が41.1%となりました。
子ども1人あたりの年間平均予算は認可保育所が615円、幼稚園が583円、認定こども園が641円となりました。1冊1,000円以上であることの多い絵本の値段より安い金額であることがわかりました。また、絵本を購入するために市町村や都道府県からの補助金等がある施設はほとんどないと回答しています。
一方で、園における絵本の蔵書数や購入予算は十分だと思う保育者が多く、研究者と現場とのギャップが見られました。
蔵書数が少ない施設ほど、図書館の絵本を活用する頻度が高いことも分かりました。その結果、地域の図書館は就学前の子どもたちの絵本・本環境として重要であることが分かりました。
結果を踏まえて今後の展望
今回の調査結果を踏まえ、今後は実験研究や事例研究をすすめるとまとめました。
・実験研究として、絵本の読み聞かせと動画視聴時の違い
・日本国内・海外における優れた絵本・本環境構築に向けた取り組みの情報収集・調査
ポプラ社の代表取締役社長 千葉均さんは「ポプラ社では『のびのび読み』によって絵本で親子のコミュニケーションをつくることを推進しています。絵本を通じたコミュニケーションを推進する活動により注力できるよう、今後の研究成果に期待してほしい」とコメントしました。
記者会見に参加した絵本ナビ代表 金柿の感想
「絵本は子どもの発達に良い影響を与える」と多くの人が考えていますが、そのエビデンスとなる調査研究はこれまで驚くほど少なく、就学前の幼児の読書環境も調査がほとんど行われていませんでした。今回のプロジェクトはこれらの基本的な調査研究の第一歩として大きな意義があるのではと思います。今後の本プロジェクトの成果が、さらなる調査研究につながり、豊かな人生のために乳幼児期に本との関わりがどうあるべきか、という大きな問いを考える指針が出来ていくことを期待します。
【全国保育・幼児教育施設の絵本・本環境実態調査】
- 回答方法:保育・幼児教育施設にポプラ社DMにアンケート同封。FAXで返送もしくはウェブサイトで回答。
- 調査期間:2019年10月上旬から10月31日
- 調査対象:保育・幼児教育施設33,566園(うち回答は1,042園)
■ポプラ社
1947年に子どもの本の出版社としてスタート。今も‘子どもと昔子どもだったすべての人’にとって、良質の本を届けることで社会に貢献していくことを企業理念とし、赤ちゃん絵本の体験を促す「のびのび読み」等、読書推進活動にも力を入れています。
■東京大学Cedep(正式名称:東京大学大学院教育学研究科附属 発達保育実践政策学センター)
「すべての学問は保育につながる」を理念とし、保育施設の質向上に関わる学術研究を行い、そこで生み出される知見に基づき公益に貢献することを目的に生まれた、国立大学で初めての保育の学術研究センター
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