【編集長の新宿絵本日記】ルピナスさんが来ていた……!? 2019年4月2日
「これ、なんていう花?」
実家に帰ると玄関に見慣れない鉢。
割と立派な大きさの割に、芽を出してるのはなんだか雑草みたいなちっぽけな葉っぱ。
「なんだったけな?」
そのまま忘れていて、半年後。
少し立派になって、小さなツボミがついている。
あれ、もうすぐ花が咲くのかな?
「これ、なんていう花かわかった?」
「ルピナスって言うみたい。野菜を売りにきたおばあさんがね、空いてる鉢を見てヒョイっと土に指で穴を開けてタネをまいて、ちょっと植えといたからって。そのまま帰っていっちゃったの。」
え、ルピナスって。あのルピナス?
ってことは。
そのおばあさんってもしや……
ルピナスさん??
ルピナスさん
海をみおろす丘の上にある、小さな家に住んでいるのはルピナスさん。ルピナスさんは小さなおばあさんですが、昔からおばあさんだったわけではありません。
子どもの頃のルピナスさんのお気に入りの場所は、おじいさんの仕事場。夜になると、ルピナスさんはおじいさんから遠い国々のお話をしてもらい、終わるとルピナスさんは必ず言いました。
「大きくなったら、わたしもとおいくににいく。
そして、おばあさんになったら、海のそばの町にすむことにする」
大人になって働きはじめたルピナスさんは、世界中を旅してまわり、そのあと海辺の小さな家に住み、おじいさんとの約束を果たします。でも、おじいさんとの約束には3つ目があったのです。
「世の中を、もっとうつくしくするために、なにかしてもらいたい」
いまでも、それほど悪くないのに。いったい何をすればいいのでしょう。痛めた背中の調子が悪くなり、寝て過ごすことも多くなっていたルピナスさんでしたが、春になるとお散歩ができるようになるまで回復します。そして丘の上に立った時にルピナスさんが見たものは……?
青、紫、ピンクの花を咲かせる華やかな「ルピナス」のイメージと、一人の女性の生き方を重ねて描きながら、「生きる」ということの意味を美しくしなやかに語りかけてくれるこの絵本。その目的を果たすためには何をしたらいいのか、そう考えていくだけで道はおのずと開け、前へと進む力がわいてくるのです。
道がわからなくなり立ち止まってしまう瞬間というのは、誰にでも訪れます。そんな時にふと思い出す絵本があるというのは幸せなことです。私の場合は、どうやら『ルピナスさん』のようです。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
国をこえて、時をこえて。一人で住む母のこの家の玄関に華を添えに来てくれたのかもしれない。そんな風に想像するだけで、ゾクゾクする。
綺麗に咲いてくれるといいな。
美しい絵で楽しむバーバラ・クーニーの絵本の世界
磯崎 園子(絵本ナビ編集長)
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