バームクーヘンではありません。バウムクーヘンです。
安心安全にこだわり、日本各地の選りすぐりの逸品を届けているお取り寄せ通販サイト「セコムの食」が手がけた単行本「おいしい理由」。スタッフが全国の産地を徹底的に取材する中で出会った1,500人の中から12名の生産者をクローズアップし、日本の食を支える真摯な商品づくりの様子や彼らの思いを丁寧につづった一冊です。
連載第3回目にご紹介するのは、兵庫県西宮市で洋菓子店を営む大隅稔雄さんのバウムクーヘン。本場ドイツで修業した大隅さんが焼き上げるバウムクーヘンは、日本に住むドイツ人が称賛するほど本格的な伝統の味。まるでバウムクーヘンそのものような、職人としての年輪を感じさせる大隅さんのお菓子づくりのストーリーを、ぜひ味わってみてください。
年輪に込められた職人の技
ドイツ語でバウムは「木」、クーヘンは「お菓子」。まるで一本の木のような姿をしたバウムクーヘンは、自然や緑をこよなく愛するドイツの人々から生まれた伝統菓子です。このお菓子の特徴はなんといっても切り口の年輪のような模様。生地をかけた棒状の芯を回しながら、専用のオーブンでじっくりと。生地を塗っては焼くことを繰り返し、数ミリほどの薄い層を何層にも重ねていくため、一本を焼きあげるのに約1時間かかるそうです。難しい火加減と向き合いながら生み出される独特の生地の食感と香りは、まさに職人技の結晶。バウムクーヘンをいただく時は甘くふくよかな味わいの奥にある職人さんたちの手仕事と、木の年輪のように重ねてきた自分の人生の歩みをかみしめる、そんなひそかな楽しみもご一緒にいかがですか。
(by 絵本ナビ編集部)
バームクーヘンではありません。
バウムクーヘンです。
DATA
パティシエ:大隅稔雄さん
兵庫県西宮市
日本におけるドイツ菓子職人の先駆者のひとりである大隅稔雄さんは、菓子作りの本場ドイツハンブルクでの修業で、現地の職人たちの菓子作りに対する真摯な姿勢や材料の選び方など、ドイツ菓子の製法を徹底して身に付けました。
バウムクーヘンの生産者、大隅稔雄さんと最初に電話で話をしたときのことは、今でも鮮明に覚えています。30分間、延々とバウムクーヘンについてレクチャーに近い話をされました。「お話は十分に分かりました。そのバウムクーヘンを試食用として一ホール送っていただけますか?」。やっとの思いで電話を切り、一体どんな商品が届くのかと待っていたところ、ソロバンの珠のような形をしたバウムクーヘンが届きました。軽やかに焼き上げられた小麦色で、ナイフで切り分けると、見事なまでの層をなした断面が現れ、年輪の幅の細さが、技術の高さを誇っているかのようでした。果たして食べてみると、ふくよかで上品な甘さと豊かなバターの香りが口中に広がるのです。大隅さんに、取材に伺いたい旨の連絡をしたところ、「お越しいただくのは結構ですが、おいしかったのですか?」と聞かれました。もちろんおいしかったです、と伝えると、満足そうな声で「ぜひ、いらしてください。お待ちしています」という返事がありました。
これまで数多くの生産者を取材してきたなかでも、大隅さんの職人としての頑固さは群を抜いています。ただしそれは、他人の意見を聞かないとか、周りを寄せつけない孤高な雰囲気とか、そういったものではありません。事実、大隅さんの工房は、若いスタッフが真剣にお菓子と向き合う姿でいっぱいです。大隅さんの職人としての頑固さは、手がける商品に対しての思いと同じくらいある、自分を育ててくれたマイスターたちやドイツ菓子そのものに対する敬意から生まれているのではないかと思います。
大隅さんは、最初からパティシエ(菓子職人)を志していたのではありません。料理人になろうと、生まれ育った関東から神戸に移り働いていたところ、手先の器用さを買われ、勤め先の指示でドイツに菓子職人としての修業に行くことになったのです。
大きなチャンスを得た大隅さんは、修業先で現地の職人たちが目を丸くするほど仕事に没頭しました。「日本人は、皆、キミと同じくらい働くのかい?」よくそう聞かれていたのだそうです。
ドイツの菓子職人は、他の国と比べても高い技術がある、と大隅さんは言います。フランスやイタリアなどに比べて土地が肥沃ではないドイツでは、入手できる食材にも限界があります。「たとえばね、同じように小麦粉を使ったお菓子を作ろうとしても、フランスの小麦とドイツの小麦では、のび方も違えば膨らみ方も違うんですよ。のびない小麦、膨らまない粉をどうやってふっくらした菓子に仕上げるか、フランスのパティシエがしなくてもいい努力を、ドイツのパティシエはやらなければならない」。その結果、高い技術が培われたのだというのです。大隅さんは、淡々と手を抜かずにドイツ菓子と向き合う彼らと出会い、多くを学べたことを誇りに思うのと同時に、彼らが作るドイツ菓子の製法をそのまま日本に持ち帰り、“本物のドイツ菓子”を日本の人たちに伝えることを、半ば使命のように感じたのかもしれません。修業を終えて帰国するときに、修業先のオーナーに、「どうしても帰るのか? この店をキミに任せてもいいのだよ」と言わせた大隅さんの仕事に、一切の手抜きがないのはそのためなのだと思います。
バウムクーヘンのバウムとは、ドイツ語で木、クーヘンはお菓子の意味で、バウムクーヘンはドイツ菓子組合の紋章にもなっているほどのドイツ菓子を代表する一品です。木の年輪をイメージさせる断面を作るため、材料を合わせた生地を、芯棒に塗っては焼き、塗っては焼くことを幾度も繰り返し、きれいな層を描いていくのです。
焼き上がったバウムクーヘンは、中心で盛り上がっている山の部分の軽やかな食感と、谷の部分のしっとりとした食感の違いを楽しむお菓子でもあるので、形が真っすぐのものは見たことがないと大隅さんは言います。
取材のとき、「バームクーヘンじゃないんだよ。バウムクーヘンだからね」と念を押された大隅さんのバウムクーヘンのおいしさの秘密は、マッセと呼ばれる生地にあります。マッセをこねるためだけにドイツから機械を取り寄せたほどですから、思い入れの強さが伝わってきます。
上質な小麦粉に高級で風味の良いバターをたっぷりと練り込み、ドイツでは必ず入れるというアラック酒などを合わせて作るマッセは、レシピはあるもののその日の温度や湿度などを細かく考慮しながら、最後は手でしっかりとかき混ぜることで、その日のベストな状態へと仕上げていきます。
マッセが完成したら、次は国内でもそう多くはないというバウムクーヘン専用のオーブンで焼き上げます。まず、芯棒にマッセをかけたあとに波型をした板を芯棒につけて小さな凸凹を作ります。それをベースに、オーブンに入れて焼いては取り出し、またマッセをかけることを繰り返し、約一時間をかけて焼き上げていくのです。ただし、ただ機械的に焼いていくわけではありません。何度となくかけるマッセは、一層として同じものはかけません。オーブンから出てきたときの焼き色や質感を見極めながら、生クリームを足したりマッセの温度を調節しながら、まるで積み木を積み上げていくように慎重にふくよかな風味の年輪を描いていくのです。
焼き上がったバウムクーヘンは、風味豊かです。決して派手さはないけれど、一層の幅が狭く、全体的にぎゅっと詰まっていて山の部分と谷の部分の食感の違いが楽しめるバウムクーヘンです。来日したドイツ人が、帰国するときに日本土産だといって、ここのバウムクーヘンを買いに来たのだそうですが、それも分かる気がします。場所は日本といえども、ここまで忠実に伝統の技を守り続けている職人は、わが国同様、ドイツでも少なくなってきているのかもしれません。
子は親の鏡、ということわざがありますが、商品もまた、子供同様に生産者の鏡といえます。わが子と同じように愛情を注いで作り上げた商品には、生産者の思いや食べる人に対する優しさが感じられるもの。このバウムクーヘンにもまた、大隅さんをそのまま写したような、おおらかで緻密であったかい魅力がいっぱいです。一日に作る量が限られているので、長いときには二カ月ほどお届け待ちとなることもありましたが、それでもキャンセルが出ることもなく、お客様から「とてもおいしい」という感想が届いたのも、このバウムクーヘンです。大隅さんは、この「おいしい!」の声を聞くためにパティシエを続けている生粋の職人です。
バウムクーヘンだけではなく、紅茶と一緒に味わいたいテークーヘンという焼き菓子や、一見なんの変哲もないクッキーでさえ、生地の仕込みから焼き上げまで三日をかけるパティシエは、そう多くはいません。自身のすべての原動力「おいしい」を聞くために、今日も大隅さんは強い信念を胸に、工房に立ち続けています。
こちらも人気のテークーヘン。紅茶とともに食べたいケーキです。
取材後記
大隅さんの店に足を運ぶたびに、ドイツ菓子に対する熱い思いを伺いました。そしてこの手間を惜しまぬ製法で作られたお菓子を、一人でも多くの方にお届けしたいと強く思うようになりました。生産者と気持ちを同じくできることが、どんなに大切なことかを大隅さんに教えていただきました。
バウムクーヘン スタンダード
税込3,672円 (税別3,400円) /送料込
(セコムの食)
カイザーテークーヘン 16個
税込5,367円 (税別4,970円) /送料込
(セコムの食)
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