【編集長の気になる1冊】色と感情がつながる瞬間。『あおくんときいろちゃん』
「ああ、嬉しい!」
今、体の中からあふれでるこの気持ち。
どう表したらいいのかな。
どうやったら伝わるのかな。
「とても悲しい…」
どうしようもなく涙が出てくるこの気持ち。
誰かにわかってもらえる事があるのかな。
言葉がまだまだ足らない子どもたち。
でも心の中には、とっても繊細で豊かな感情を持ち合わせているものです。
特に新しい気持ちに出会った時、まわりの人に伝えたくなるのは大人と一緒。
でも、どうやって表現したらいいのでしょう。
手足や全身を使ってみる?
歌ってみる?
…走り出してみる?
きっと、どれも効果的。
上手にダンスして見せてくれたりしたら、みんなが感動してしまいますよね。
では、そういう表現が苦手な子はどうしたらいい?
例えば、こんなのはどうでしょう。
「感情を色で例えてみる」
どういうことかと言うと…
あおくんときいろちゃん
ふぞろいで、まるで紙をちぎったかのような青と黄色の「まる」。
それがこの絵本の主人公です。
目も顔も手足もないけれど、ただの青と黄色の「まる」は、確かにストーリーの中を生き生きと動き回り、感情をあらわにし、涙を流すのです。
この不思議な絵本が、レオ・レオニが自らの孫のために作ったという、世界中で愛され続ける絵本『あおくんときいろちゃん』。とっても実験的な絵本の様にも見えるけど、これが小さな子どもたちに大人気。子どもたちの想像力というのは、大人が思っている以上にずっと柔軟で自由なのだと改めて気づかされます。
おはなしは、あおくんの紹介から始まります。
あおくんのおうちには、パパとママ。
お友だちもたくさんいて、みんなそれぞれとっても美しい色をしています。
でも、一番の仲良しはきいろちゃん。
ある日、お留守番を頼まれたあおくんだけれど、どうしてもきいろちゃんに会いたくて、遊びに出かけてしまいます。そうして出会ったふたりは、嬉しくて嬉しくて「みどり」になってしまうのです。そのまま家に帰ると、あおくんの家でもきいろちゃんの家でも「うちのこじゃない」と言われてしまい、大粒の涙を流すのですが……。
物語の終盤になってくると、いつの間にかふたりに感情移入をしている自分に驚きます。表情は見えなくとも、その悲しみや喜びをはっきりと感じとることができるのです。これが色の持つ力でしょうか。おはなしから刺激される想像力でしょうか。嬉しすぎて色が重なり、全く違う「みどり」になるという現象は、何年経ってもずっと心に残る出来事となっていくでしょう。
年齢を超えて、味わってもらいたい絵本です。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
お互いを思う喜びで色が重なり、悲しみで色の涙を流す。ちぎっただけの紙きれに、こんな感動してしまうことがあるなんて。大人だって、その揺り動かされる感情に驚きます。
この絵本は、作者のレオ・レオニが孫たちにお話をせがまれた時に偶然生まれたものだそう。手もとにあった紙に色をつけて、次々に登場人物をつくりだしながら、孫たちもレオニ自身も夢中になっていったのだとか。
遊びながら、感情と色をつなげる経験をしてみる。その記憶が、子どもたちの表現の可能性を広げていってくれるのかもしれませんね。
感性と想像力を刺激してくれる「色の絵本」
磯崎 園子(絵本ナビ編集長)
この記事が気に入ったらいいね!しよう ※最近の情報をお届けします |