【編集長の気になる1冊】「あ!」でも「お!」でもなく…「え?」『ルラルさんのだいくしごと』
「絶対に無駄遣いをしちゃダメよ。」
しつこいくらいに念押しをしているのは、息子がまだ小学校低学年の頃の時のバザーの話。初めておこずかいとして、お金を渡して送りだしたのです。
きっといらないものを沢山買ってしまうに違いない。買いすぎて、足りない分を誰かに借りてしまうかもしれない。もっと欲しいからと、またもらいに来るかもしれない。そうしたら何と言って叱ろうか…なんて事をぐるぐる考えていると。
「はい、これ。ママのぶん。」
え?
なんと息子は私の分のジュースしか買っていない。そんなこと、ある? 一度もらったらそれは自分の分としてめいっぱい活用することしか考えてなかった私の子ども時代とは何か違う。お釣りまで…。これは想定外です。念押しばかりしていた自分が恥ずかしくなります。いったい、どんな気持ちでいるのか、私の方が想像しなくてはいけません。
「寝坊した!」
布団からガバッと起き、大急ぎで顔洗って着替えをして、息子を叩き起こし、無理やり服を着せ、口に中にパンを突っ込み、そのままかごに乗せ、全身全霊で自転車をこぎ、汗だくになって自転車を留め、ぎりぎりだーっと走り込んでみると…正面玄関のドアが閉まっている。
え?
どうやら今日はお休みらしい…。声も出ません。これはもっと遡って息子が保育園時代の頃に通っていたスイミングスクールの話。これだって想定外です。私の努力はどうなるの? そんなの知りませんよね。
ひと息、ふた息ついたあと、やっと言います。
「どっか遊びにいこっか。」
こんな風に「え?」には、なかなか味わい深い出来事が多いのです。
ルラルさんも…
ルラルさんのえほん(8) ルラルさんのだいくしごと
広いお庭のある家に住むルラルさんの暮らしは、いつもなんだか楽しそう。お料理をしたり、自転車でお出かけをしたり、本を読んだり、時にはバイオリンを弾いてみたり。
そんなルラルさん、実は大工仕事の腕前もなかなかのものなのです。のこぎりやトンカチ、カンナにドライバーなど、自分用の大工道具も充実していて、いすやテーブルだって、さささっとつくってしまいます。今日の大工仕事は、屋根の修理です。雨漏りをしないよう、ルラルさんはじっくり調べ、丁寧にひびを埋めていきます。さすがです。
ところが。
…「え?」
ルラルさんが屋根から降りようとすると、思わぬことが起き…。
屋根の修理はさっさと終わらせて、今日はこの後、パンを焼いてお風呂の掃除をするつもりだったルラルさんの計画はあっさりと崩れてしまい、結局一日仕事になってしまいます。もちろん、原因は庭の仲間のあの子たち!? でも仕方ないですよね、だってあんなに楽しそうにしているんですから。あんなにワクワクしている後ろ姿はなかなか見られるものではありません。
それよりも、ルラルさんが見つけた時間は何にも代え難く…素敵なのです。
「とっても たのしかったなぁ」とみんな。
「それは よかったね。」とルラルさん。
なんでもないけれど、とびっきり豊かな一日。ルラルさんも良かったね。
「ルラルさんのえほん」シリーズ、第8作目のお話です。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
この子たちが最高なのは、最初からルラルさんの家の前を「終点」として出発しているってこと。まったくもって計画的だったってこと。林の向こうから帰ってくるみんなの姿を見ながら、ルラルさんはどんな事を思ったのでしょうね。
「まいった、まいった。」
想定外って、結構嬉しい気持ちになるものです。
楽しくて、深くて、心がのびのびする!「ルラルさんのえほん」シリーズ
磯崎 園子(絵本ナビ編集長)
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