【編集長の気になる1冊】その夢、起こしていい?
「はぁ~たすかったあ! ありがとう」
朝起こしただけで、たまにこうして心から感謝されることがある。なんでもタイミングがバッチリだったという。ほんのり汗ばんだ顔で続きます。
「マグマが、マグマが… 。」
聞けば、ものすごい噴火が起き、そこら中がマグマだらけになり、逃げようとするんだけどものすごい暑くて。それで、教室で恐ろしいことが起きて… … 。ここで一旦黙り込む。なに? 気になる。
「いや、それは言えない」
すごい否定されたので、これ以上は聞かないことにしよう。きっと口に出すのも憚ることが起きたのでしょう。そして、結果的にその恐ろしい事から救い出したのが私、という訳です。息子が小学生だった頃、もちろん夢の話です。となれば、当然こういう日もくる訳で……
「なんで、なんで今起こしちゃったのーー!!あーーーあ…」
まあ、これは聞かなくてもなんとなくわかるでしょう。好きなキャラクター総出演の中に自分が混ざっていた、とか。美味しいものを食べる瞬間だった、とか。こういう楽しい夢は大体単純なものです。やっぱり、子どもの夢っていうのは「悪夢と憧れの紙一重」っていうのが聞いてて面白いよなあ、と勝手な事を思うのです。
肝心なのは、どこで起こすのか。だって、息子がもしこんな夢を見ていたとしたら…起こしちゃ悪いよねえ。
ねるじかん
「さあ ねるじかんですよ」
毎日やってくる夜のこの時間。お部屋を暗くして、同じお布団に入っていても、なんだか様子は全く違う二人がいます。どうにか息子に早く寝て欲しいと思っている母親と、まだまだ遊んでいたくてぱっちり目が開いている息子。この場合、大抵「はやくねなさいよ」と言っている方が先に寝てしまうのです。そうすると……?
「ぐにゅううううう」
あれ、なんかへん!
「もこもこ~」「うねうね~」「ねとねと~」「ぐにゅぐにゅ~」
何かが始まってる?
壁がゆがんで、溶けだして、窓の外には…さかな!
「はいはい、窓のカーテンもあいてたね」
どうやらお母さんには見えないみたい。そう、男の子だけの「よるのじかん」の始まりです。外にはさかな、ポストが歩き出し、恐竜が迷子になって……ビー玉が空に浮かんでる! いつもの景色の様で、全然違う。なんて綺麗、なんて壮大なのでしょう。どんどん広がる夜の世界、僕だけの時間。だけど…もうなんだか眠くなってきちゃった…。
寝たいような、寝たくないような。夜の世界って怖いような、でものぞいてみたいような。子どもたちに毎日訪れる、そんな曖昧な時間。だけど、子どもたちには逞しい想像力があるのです。昼間に存分に遊べば遊ぶほど、夜の世界が豊かになっていき、すんなりそこへ入っていけるのかもしれません。作者の鈴木のりたけさんは、その圧倒的な画力でユーモラスで不思議で素敵な世界を描き出し、忘れかけていたであろう大人にも見せてくれるのです。(あのおもちゃがこんなところに!時計が…新幹線が…!?)
これは邪魔をしちゃいけませんよね。ああ、こんな夢。いつか見たことあったなあ…ムニャムニャ。さあ、今夜も一緒に絵本を読みながら、先に寝ちゃったのはどっちでしょう。起きたらあなたの「ねるじかん」教えてね。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
息子の夢の話を聞きながら、絵本を読みながら、だけど私だって負けないくらい色んな夢を見てきたぞ、と思う。大きな月、砂漠の中の檻、体の一部を運ぶベルトコンベア(!?)、水中都市…それから、それから… …
「寝ちゃダメ!!」
まぶたを指でぐーーーっと広げられて気がつく。あれ、寝てた?
母親は息子より早く寝ることは許されないのです…はあ。
だったら早く寝てください。
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磯崎 園子(絵本ナビ編集長)
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