【編集長の気になる1冊】例えそれが「うそ」だとわかっていても。
「わたし、魔法が使えるんだ」
また、はじまった。
いつもの帰り道。
ランドセルをしょって、坂道を登っていくたびに人数が減っていき、
同じ方向に家がある3、4人になった頃、その子の話がスタートする。
「見せてあげないけど、杖を持ってるの。
ひとふりすると、好きな服にあっという間に変身できるんだよ。」
「この鏡にはね、特別なちからがあってね。
ウソをつくと、すぐに見抜いちゃうんだよ。」
その日によって、テーマが違う。
ちょっと意地悪な気持ちも込めて、質問する。
「じゃあ、お父さんとお母さんはなんて言ってるの?」
すると、彼女はさらっとちゃんと答える。
「パパもママも魔法は使えるからね。
家は普通だけどね、魔法の国につながっているんだよ。」
そうなんだあ、魔法の国かあ……。
思わずうっとりしている自分にはっとする。
いやいやいや。でも、この子はなんでこんなに「うそ」をつくんだろう。
これ以上せめることもできず、いつもこのあたりで分かれ道がくる。
「ばいばーい、また明日ね!」
「今度、その鏡見せてね!」
コレットのにげたインコ
都会の真ん中で新しい生活がスタートするコレット。
「ふん!」「いーだ!」
怒っているのは、ペットがほしいのに飼ってもらえないから。
仕方なく、家のまわりを散歩してみようとそっと外に出てみると、男の子がふたりやってきて。
「なにしてんの?」
「ええと……あの……飼っていたインコがいなくなっちゃって」
子どもたちの不安定で繊細な世界でのやりとりを埋めてくれるのは、時にはこんな小さな「うそ」。
いなくなったのは、インコ。青くてほっぺは黄色。
名前はマリー・アントワネットで、ピルルルルルルって鳴いて。
みんなが心配して一緒に探してくれるから、
コレットの「うそ」はどんどん大きくふくらんでいき……。
日本でも絵本『アンナとわたりどり』『きょうは、おおかみ』などの作品で注目を集めるイザベル・アルスノーが初めて作・絵を手掛けたこの作品。コマ割りの表現で、テーマは「うそ」。痛みのともなうヒリヒリしたお話かと思えば、全然そんなことはありません。コレットの話がふくらめばふくらむほど、まわりの子どもたちが驚きと憧れの表情に変わっていくのが印象的。つまりこの絵本の中では「うそ=いけないこと」なんていう簡単な解釈をせず、その豊かな想像力によって、みんなの日常の景色を照らす「物語」へと昇華していく瞬間を描いているのです。
この絵本に添えられたキャッチコピー「うそつきはともだちのはじまり!?」の通り、時には「うそ」が新しいともだちを連れてきてくれることがあるってこと。世界の広がり方なんて、いろいろですよね。
大人がわかったつもりになって、閉じ込めてしまってはいけないのです。コレットが教えてくれますよ。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
結局、なんで「うそ」をついていたのかわからないまま、
気が付けば、その子は「普通の女の子」になっていた。
今でも思い出すのは、何を聞いても答えてくれたその話の中身。
もしかしたら本人だって忘れているかもしれない、どこにでもある魔法の話。
だけど私は、その子が魔法で変身する姿を何度も想像したりして。
きっとどこかで憧れていたんだと思う。
例えそれが「うそ」だとわかっていても。
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磯崎 園子(絵本ナビ編集長)
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