【編集長の新宿絵本日記】私はいったいどこにいる……? 2020年1月6日 『悪い本』
2020年、今年のわたしの目標は「悪口を言わない」こと。なんて目標。小学生じゃあるまいし。
だって、なんだか口の滑りがよくなってとめどなく溢れてくるんですもの、悪口が。
「愚痴と悪口はちがうんだよね。悪口は上手に面白く言わないとダメだよね。」なぞと同僚を前に堂々と語っていた年末の自分をふと思い出してしまったんですもの。これはよくない。
…でもさ。
悪口が上手になっていくのは果たして悪いこと?
下手な悪口より上手な悪口の方がいいんじゃないの?
そんなことばかり考えていると、本の中から「あれ」が誘ってくるのです。
「いつか あなたは わたしが ほしくなる」
「あなたにおしえてあげる」
「かならずかならず、じょうずにじょうずに……」
そう。実はすっかりそこの住人になりきっている私。それを見にきているのは……子どもの頃の私?
悪い本
その本を開くと、話しかけてくるのです。
「はじめまして、わたしは悪い本です」
そして、言うのです。
この世の中の悪いことを、この世の中で一番よく知っている、と。
あなたは、いつかわたしが欲しくなる、と。
とまどっているのは、本に登場する少女?
それともこの本を読んでいる私自身?
そんなのおかまいなしに、本はたたみかけてきます。
「いつか あなたは だれかを……」
「どこかで なにかを……」
「かならず かならず」
それは、どこか希望を感じさせるような振りをして。
とっても居心地の良い場所であるような振りをして。
でも、気が付けば二度と元には戻れない場所に来ているような錯覚を起こさせて。
それでいて、手を差しのべてくれているのかと思いきや。
……最後にしびれる一言を残して終わるのです。
くまのぬいぐるみ、綺麗な服を着たお人形、大きな目でじっとりと寄り添ってくるあの子たち。様々な姿をして目の前に現れるのは、小さな子どもたちがいつか出会うであろう「邪悪な気持ち」。その存在とどう向き合って生きていけばいいのか、その遠慮のない描き方は、成長にするにつれ、文章一つ一つが、絵の一つ一つが直接心に突き刺さってくるようです。そして「本当に怖い本」というのは、存在そのものが怖いのだと、本棚に収まっているそれを見ながら思うのです。
いつ読むのか、どうやって読むのか、受け入れるのか、受け入れないのか。読むたびに「意味合い」は全く変わっていくのでしょう。でも、それこそがやっぱり「絵本」の面白さの一つだと言えるのではないでしょうか。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
私はいったいどこにいる。
少女なのか、クマなのか。
はたまたお人形となってそこに鎮座しているのか。
悪口を言わないなんて、こんな公の場で宣言するくらいだからまあ……ね。
磯崎 園子(絵本ナビ編集長)
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