【編集長の新宿絵本日記】つながれる瞬間はきっとある。2020年3月7日『ほら、ここにいるよ』
「今日は誰とも会わなかったな」
シーンとしたオフィスを後にして、とぼとぼ歩く早め時間の帰り道。
急ぐ理由もなければ、深刻な考えごともない。
そんな恵まれた日は、家にたどり着く前にふと空を見上げることがある。
遠くで光りだそうとしている星を眺めながら、なんとなく思うのは父のこと。
胸をはった生き方も、正しい道を歩んでいる気もしていない。
だけど、心の中でつぶやくのです。
「ここにいるよ」
普段思い出すのは、遠くひとりで暮らす母のこと。
会いにいかなくちゃ、もっと話を聞いてあげなくちゃ。
明日、朝電話をしてみよう。
もっと頻繁に思い出すのは一緒に暮らす息子のこと。
このままでいいのだろうか。
やってあげられる事があるんじゃないだろうか。
もっとそばにいなくては、もっと近くにいかなくては。
もっと、もっと……気が付けば、いつもあせっている。
そんな時に父はあらわれない。
この地球にぽつんとひとりきり。
そう感じる時にこそ、声が聞こえてくるのです。
「だいじょうぶ、ここにいるよ」
ほら、ここにいるよ このちきゅうで くらすためのメモ
「やあ! このほしへようこそ」
広い宇宙にぽっかりと浮かんでいるこの大きな星。
それがぼくらの住んでいる“ちきゅう”。
このちきゅうには、見るものも、やる事も、いっぱいある。
陸があれば、海もある。空だって。
そして、たくさんの“にんげん”がいる。
にんげんは、色もかたちも大きさもそれぞれ。
“どうぶつ”なんて、もっと色んなかたちや大きさがあるよね。
言葉があるし、昼や夜がある。時間もね。
なんて素晴らしい世界なんだろう!
でも、ぼくらだって全てがわかっているわけじゃない。
まだまだできることがたくさんある。
だからこそ……
世界的絵本作家オリヴァー・ジェファーズが、誕生したばかりの息子に向けてつくられたというこの絵本。自分たちの生きていくこの場所を、ずっと離れた宇宙からの視点で、壮大に、そしてポップに描きだすことで、ここにいる奇跡、不思議さを感じることができます。日本の子どもたちのためにこの絵本を翻訳してくれているのはtupera tupera。オリヴァーの魅力的な世界にぴったりとはまる書き文字にも注目です。
「このちきゅうで とほうにくれているかもしれない すべてのきみたちへ」
絵本の中には、きっと進むべき道へのヒントが隠されているはず。迷った時には何度でも読み直してもらいたい一冊です。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
この世界に生まれきたばかりの赤ちゃん。
居場所を見つけられなくて不安を抱えている子どもたち。
考えごとで頭がはちきれそうになっている大人たち。
この先、一回も出会うことはないかもしれないけれど。
直接力になれることはないかもしれないけど。
でも、なんだか大きな声をあげてみたくなる。
「私は、ここにいるよ!」
つながれる瞬間があるかもしれないから。
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磯崎 園子(絵本ナビ編集長)
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