【編集長の新宿絵本日記】一周まわって……!? 2020年3月12日 『ウォッシュバーンさんがいえからでない13のりゆう』
「節約のために毎日自炊をしようかと思う」
そう言って、どうしても作りたいレシピのためにその日のうちにフードプロセッサーを買いに行く同僚。
なんか、ブレている。
雨でも雪でもどんと来いの立派な新品コートを着込んでくる友人。
「本当に寒くなった時に着ようと思ってたんだけど…」
すっかり春めいてきた今日この頃。見ればうっすら額に汗をかいている。このままじゃ今季陽の目を見ることがなくなるので着てきたのだと言う。
ブレている。
大いにブレている。
せっかくお化粧もしてお気に入りの服も着てきたのにと、撮影をしぶったくせにぶつくさ文句を言ってるのは……私。
ブレすぎである。
ウォッシュバーンさんがいえからでない13のりゆう
ドアの向こうから、なんだか暗い顔をしてこちらを見ている青年。彼がウォッシュバーンさん?家から出ない理由が13もあるの?なんて可哀そうでうしろ向きなタイトルなのでしょう……と言いたいところなのですが、なぜだかそんな気が全然しません。お話が始まる前から「なにかが起こる」期待をしてしまうのです。
ともかく、ウォッシュバーンさんはおうちから一歩も外に出ません。
彼は言うのです。
「だって、外に出たらドアにはさまれるかも…しれないじゃない。」
カラスにつつかれるかもしれないし、柿の実が落ちてくるかもしれないし。他にも理由が次々と。あらあら、とんでもなく心配性で慎重な性格なのでしょうか。いや、どうもどうやらそれだけじゃない様子。
「だって、外に出たらももたろうがやってきて」
……何を言い出したかと思ったら!
後半の展開に驚きあきれながらも、込み上げてくるのは愉快な笑い。いるいる、こんな人。いや、ウォッシュバーンさんはむしろ私!? だって、いいじゃない。こんな思い込みでも結果的には一歩前に踏み出しているんだから。気が付けば、なぜか彼の弁護をしちゃっているのは作者の思うつぼ?
中川ひろたかさんと高畠那生さんのコンビで生まれたこの絵本。シュールなようであたたかく、皮肉っぽいようで意外と前向き。そんな理屈はさておいて、声に出して読めば必ず笑っちゃう、読み聞かせにもぴったりな絵本ですよ!
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
何も言われてないのに、勝手にライバル心を燃やし、ひとり修行をはじめるのも、私。
「だって、笑って見てるかもしれないじゃない」
そんなの悔しい。より早く、より多く、より質の高いものを!結果を!仕事に打ち込んでいるうちに。
あれ?
一周まわって、ブレて……ない!?
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磯崎 園子(絵本ナビ編集長)
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