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【編集長の新宿絵本日記】寝ている場合…なのである!? 2020年3月30日 『フレデリック』

 

まだ夕飯前だというのに、
息子が目の前でぐっすり寝ている。

 

「寝ている場合じゃないでしょ!」

 

言いかけて、ふと気づく。
ああそうか、今は寝ている場合なのである。

 

焦るのは親の方。
何かもっと効率的に出来ることがあるはず。
今だからこそ、やれることがあるはず。
長い休みが明けたとき、困らないようにしておかなければ。
気が気じゃない。

 

だけど目の前の彼は、実にぐっすりと寝ている。
見事なものです。見習いたいものです。
「なにもしない」ことが褒められるなんて経験は、かつてないはず。私だってない。

 

いや、まてよ。
彼は「なにもしていない」ように見えて、実は……?

フレデリック

フレデリック

小さな野ねずみたちが、とうもろこしや木の実、小麦やわらをせっせと集めて運んでいる。みんな昼も夜もはたらいている。

彼らの住んでいる家は牧場に沿った石垣の中。豊かだったその場所は、お百姓さんが引っ越してしまったので、納屋はかたむき、サイロはからっぽ。おまけに冬が近い。食べ物を蓄えなくてはならないのです。

ところが、フレデリックだけは別。
ひとりでじっとしています。

「フレデリック、どうして きみは はたらかないの?」

じっとして陽に当たり、牧場を見つめ、ほとんど半分寝ているみたい。だけど、彼のこたえはこう。

「こう見えたって、はたらいてるよ。」

寒くて暗い冬のために光をあつめ、色をあつめ、言葉をあつめているのだと言う。一体どういうことなのでしょう。

やがて冬がやってきて、楽しく過ごしていたのもつかの間、食べるものが尽き、からだは凍え、おしゃべりをする気にもならなくなった。その時、立ち上がったのはフレデリック。彼はみんなの前に立ち、口をひらき、話しだしたのは……。

レオ・レオ二の描く絵本の世界の住人たち、その多くは小さく愛らしいものたち。この名作『フレデリック』もそう。愛嬌だって抜群です。だけど立ち向かっている問題はいつも骨太、なかなか考えさせられるのです。

仲間たちで生きていこうとする時、目の前に立ちはだかった問題をどう解決していくのか。答えは一つのようで、一つではなく。思いもよらない方法があることを否定することなく。そこにこそ、芸術の可能性が秘められているのかもしれなくて……。

もちろん、そんな堅苦しいことを言わなくても。

「これは まほうかな?」

日本では谷川俊太郎さんの翻訳により、子どもたちが存分にその素晴らしい世界を味わえるようになっています。

(磯崎園子 絵本ナビ編集長)

https://www.ehonnavi.net/ehon/1188/%E3%83%95%E3%83%AC%E3%83%87%E3%83%AA%E3%83%83%E3%82%AF/

そういえば、私も子どもの頃「なにもしない」ことが大好きだった事を思い出す。

 

「なにもしない」ために、ソファーの裏側へまわり、誰も目につかないその場所でじっと座り、そのまま本当に「なにもしない」。ただ、ぼーっとする。だけど、それが何より大事な時間だったことは覚えている。

 

家の中でどう過ごすべきか。今、答えなんてないのです。
もし困っていなかったとしたら、そのまま放っておいてみるのも一つの経験なのかもしれません。

 

……でもねえ。とは言え、ですよね。
うーーむ、悩む日々なのです。

磯崎 園子(絵本ナビ編集長)

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