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絵本で伸ばそう!これからの子どもに求められる力

困難を乗りこえる「発想力」、絵本でどう伸ばす? 

絵本には、子どもに働きかける様々な力が備わっています。絵本がきっかけで、新しいことにチャレンジする気持ちを持てたり、苦手なことに取り組もうと思えたりもします。子どもたちの世界を楽しく広げてくれる絵本は、子育て中のパパママにとっても、大きな味方になってくれること間違いなしです!

この連載では、とくに「これからの時代に必要とされる力」にフォーカスして、それぞれの力について「絵本でこんなふうにアプローチしてみては?」というご提案をしていきたいと思います。

困難に直面したときに必要な「発想力」とは?

連載第2回のテーマは、困難を乗りこえる「発想力」。

子どもたちは、大人よりも経験が少ない分失敗も多いです。失敗して悲しんでいたり泣いていたりする姿を見ると、どうしても手助けしてしまいたくなりますよね。一方で、度が過ぎてしまうと「過保護」となってしまうのでは?という不安もあります。最近では、子どもの心配をし過ぎ、先回りして問題を取り除いてしまう親のことを、ヘリコプターペアレントと言うそうです。こうした親の行為は、子どもが様々な力を身に付けるチャンスを奪ってしまい、自分に自信が持てない子となってしまう危険性もあるとのこと。

現代は、子どものときからさまざまな選択肢があり、自分で選び決断しなければいけない機会が多くあります。我が子に辛い思いはさせたくない、けれども、生きている以上、困難をすべてはさけられないし、いつまでも親が助けてあげるわけにはいかない……。だからこそ、子どもが自分自身を助けられる「発想力」を身に着けてほしい! 

そこで、「どんな大変なことが起きたって、考え方ひとつで乗りこえられる」という疑似体験ができる絵本をご紹介したいと思います。

発想力で大逆転できる絵本

運がよかったり悪かったり。次は何が待っている?

よかったねネッドくん

パーティーに出かけたネッドくん。運がよかったり悪かったり、スリルが連続の大冒険。アメリカで爆発的な人気をよんだ絵本です。

主人公のネッドくんに、「運のいいこと」と「運の悪いこと」が交互に起こり、ページをめくるたびに、ハラハラドキドキする絵本です。それも、起きるできごとが荒唐無稽な面白さなので、子どもたちは「ワー」「ギャー」と興奮しっぱなしです。

飛行機が爆発したり、サメにおそわれたり、トラに出会ったり、普通だったらそこで「おしまいだ」と思うシチュエーションが何度も出てきます。でも、この絵本から学べることは、どんなときにも大逆転が待っているというところ。

お子さんの性格もそれぞれあり、度胸のある子もいれば、大変慎重で、新しい場所、新しい遊び、初めて食べるものなどに警戒して「これをしたら危ないことが起きるのでは」としり込みするタイプの子もいると思います。我が子も後者のタイプで、親としては気をもむことも多いです。

そこで、この絵本を読み、その後、いろいろな最悪のパターンをどうやって変えられるか言い合う「ごっこ」をしてみました。親が、「どろぼうが家に入ってきたら?」など問いかけをして、子どもにはそこから助かる方法を考えてもらいます。子どもは、「セコムさんに来てもらう」や「警察の人に来てもらう」など答えます。さらに、「でも、来てもらう間に盗まれちゃうかもよ」などこちらが言うと、「玄関にニセの貯金箱を置いておとりにする」「音の出るおもちゃでおどかして、その隙に逃げて助けを呼ぶ」など、なかなか変化球も考えてきます。

そんなやりとりをして親子で遊んでみることで、不安になったとき、「悪いことばっかりではないかも?」と考える習慣が少し身に付いたようです。親にとっても、いろいろなことをポジティブに捉えるきっかけになりました。

同じく、大逆転の発想をする絵本に『まくらのせんにん そこのあなたの巻』があります。

こちらは、水戸黄門一行を連想する「まくら、しきぶとん、かけぶとん」からなる、まくらのせんにんたちが旅するほのぼのとした絵本です。しかし、この絵本では、まくらのせんにんたちが大ピンチに陥ります。そして、ある発想でピンチを脱するのですが、この方法が、まさか!なんです。読み手も参加する形の絵本なので、まるで自分のことのように、ピンチを見事にひっくり返す体験ができます。この絵本は、絵本の作りとしても考え方を大きくひっくり返した本です。どんなときにも柔軟に考えることの大切さも伝わりますよ。

あきらめない気持ちを伝える絵本

夢にむかって歩き続ける大切さ

ホームランを打ったことのない君に

試合でちっとも打てないぼくは、野球部出身の仙吉に出会う。彼はけがをしても野球への情熱を失っていなかった。
ぼくもいつかホームランを打つ。あきらめずにがんばろうと誓うのだった…。
夢にむかって歩き続けることの大切さを、野球が大好きな少年と野球を愛し続ける青年の交流を通してえがく。

子どもたちは幼稚園や保育園など集団生活を送る中で、だんだんと他の子と自分をくらべるようになってきます。自分よりも体操の上手な子、字を書くのが上手な子、お友達に優しい子など、みんな様々な個性、ちがいがあります。知らず知らずに出来ない自分に傷つくことだってあるでしょう。そんなときにこそ、この絵本。内容的には少し対象年齢が高いかもしれませんが、親が解説し、話し合いながら読んでみるとよいでしょう。

 

ホームランというのは、いきなり打てるものではありません。今すばらしい活躍をしている人だって、コツコツと積み上げてきたものがあるのです。将来大きな目標をもったときに、目の前の階段を一つずつのぼっていくことに意味があり、そしてのぼることをあきらめない事が大切なんだということを丁寧に伝えてくれる絵本です。

 

それは親にとっても非常に勉強になるでしょう。例え我が子がもどかしく見えたときでも、それは子どもの人生であり、親は見守ることしかできません。子どもが自分の力で努力をする姿を見守る覚悟、その大切さを、この絵本はおしえてくれます。

考え方ひとつで毎日を楽しくできる絵本

面白い1日は、アイディア次第!

ピッツァぼうや

雨がふって、外にあそびにいけないピートはご機嫌ななめ。そんなピートをみて、おとうさんはあるアイディアを思いつきます。それがどんなに楽しかったかは、この表紙をみれば、一目瞭然!

雨が降って外に出てあそべない、そんなピートくんのつまらない一日が、お父さんのちょっとした工夫で、あっという間に楽しい一日になる絵本です。

今年の春先から続くコロナの影響で、今も子どもたちの遊べる場所が限られていますよね。特に自粛中は、家庭内で生活するしかなく、子どもたちをどう発散させるか、頭の痛い日々でした。しかし、大人にとってはひたすら続く同じ毎日であっても、子どもにとっては一日一日が貴重な時間。そんな中、この絵本でのお父さんの工夫は大変参考になりました。

子どもに一日中ぴったりくっついているわけにはいきませんが、この絵本を元に、毎日が楽しくなる、ちょっとした工夫を親子で一緒に考えてみてはいかがでしょうか? 「ピッツァぼうや」では、ピートくんはピッツァになってしまいましたが、親子でひたすらいろいろなものになりきって生活するだけでも、一日の感じ方が違って見えてきますよ。

また、ひと工夫であっという間に楽しくなってしまう絵本には、『だるまちゃんとてんぐちゃん』もあります。

とても有名な絵本ですが、現在のような状況になると、このような「ひと工夫」の大切さが親子ともども強く響いてきます。それに、子どもは、他の子が持っている物が気になるし、欲しくなってしまうこともよくありますよね。与えてしまうことは簡単だけれども、どこまで与えてよいか迷うことも多いと思います。そのようなとき、だるまちゃんのように、「あきらめない、欲しいものは工夫して作る」という考え方はこれからの時代にふさわしいのではないでしょうか? 欲しいものを、ただあきらめるというよりも、身の回りの物を使ってどう生み出していくか、そうやって生み出したもののすばらしさを感じ取れる絵本です。

失敗を楽しむことができる絵本

でこちゃん

髪を切りすぎてどこにも行きたくないって思ったことありませんか? だれもが一度は経験している……そんな出来事を、ユーモアたっぷりに描いた作品です。
日曜日、お母さんに髪の毛を切ってもらったてこちゃん。おでこをみて「てこちゃんがでこちゃんになった」とみんなに笑われ、おでこが大嫌いになってしまいます。

ねこのニャゴやお兄ちゃんに、おでこが気にならなくなる方法を教えてもらいますが、どれもうまくいきません。「朝になってもおでこのままだったらどうしよう」と心配するてこちゃん。明日は幼稚園に行く日なのです。

次の朝、だれよりも早くおきて鏡を見にいったてこちゃんのおでこは……やっぱり昨日のままでした。「こんなおでこじゃ幼稚園に行きたくない!」泣きだすてこちゃんに、お姉ちゃんはいいことを教えてくれました。

つちだ氏の絵がとにかく魅力的! 表紙にもインパクトのある、楽しくも心温まる一冊です。

髪の毛を切られ過ぎてしまった“てこちゃん”が、おでこ全開になってしまって“でこちゃん”と呼ばれるようになってしまって~という絵本です。でこちゃんは、みんなに笑われて、ぷんぷんしてしまいます。そして、幼稚園で笑われたらどうしようと悩みます。大人にとっては大したことがないことでも、子どもにとっては一大事ですし、「みんなに笑われる」と思うと、胸がしめつけられるくらい本人は悩みますよね。でこちゃんは、この失敗を(でこちゃんの失敗ではないんですけどね)、おねえちゃんのアドバイスで見事にのりこえます。

生きている以上、誰にでも失敗はあります。取り返しのつかない失敗だってあります。その場では非常に落ち込みますが、失敗に対して、どう考えるか、次どうするか、親子で考えるいいきっかけとなる絵本です。

そして、さまざまなことで機嫌を悪くしてしまった子どもに対してどんなアプローチをしてあげられるかな?とパパママにもいいヒントとなりますよ。

失敗からの発想の転換を描いた絵本には、ほかにもこんな作品が、あります。

とってもくいしんぼうなうさぎが、食べ過ぎてとんでもないことになるのですが、このうさぎは、とっても肝がすわっています。自分がした失敗に対して、焦らずたくさんの対策を考えつつ、最後には突拍子もないけれどすばらしいアイデアで失敗を克服するのです。

失敗が怖くてチャレンジしないよりも、「こんな絶体絶命の状態でも、方法は必ずあるよ」と明るく考えてチャレンジを楽しめた方が、きっと良い結果につながると思います。そのようなときに子どもを励ますことのできる一冊です。

緊張がこわくなくなる絵本

ピアノはっぴょうかい

今日はももちゃんの、はじめてのピアノはっぴょうかい。
舞台のそでで、緊張しながら出番を待っていると、こねずみが話しかけます。
「わたしたちも、はっぴょうかいしているの。みにおいでよ!」ちいさなドアの向こうには、サーカス・手品・バレエ、
ねずみたちが楽しそうにはっぴょうかいをしています。ももちゃんも楽しくなってきて......

発表会や参観日、運動会にスポーツの試合など、大きくなるにつれて、子どもたちが緊張してしまう場も多くなってきますよね。親としては「楽しんでやってくれれば、それでいいのよ」と思うのですが、不安でいっぱいの子どもにどう伝えたらよいのか……。

そのような機会の前に、この絵本はいかがでしょうか? はじめてのピアノはっぴょうかいに出ることになった、ももちゃんの絵本です。ももちゃんも、もちろん緊張しています。でも、緊張しているのはももちゃんだけではないことに気づきます。他に緊張している子を支えてあげることや、緊張していても、がんばってみんなの前に立つことで、すばらしい喜びが得られることなどが描かれています。

発表会や運動会など、子どもたちにとって、大事なときの前に、そっと読んで聞かせてあげてください。緊張してもだいじょうぶ、緊張することはわるいことじゃないよ、と子どもたちを支えてくれるかもしれません。

さいごに

今回ご紹介した絵本は、子どもたちに対してももちろんですが、何よりパパママに対して、「自分たちは、どう見守ることができるか」、読みながら考えるきっかけになると思います。大変な状況となったとき、気持ちを切り替えることは、大人でも難しいことだと思います。初めてのことは、誰だって不安でしり込みしてしまいます。ですが、今の時代は、困難の乗り越え方も多種多様です。どんなことでも、経験すればするほど子どもたちの糧になるはずです。

困難は、考え方ひとつでどんな形にも変えられる、そして、失敗してもいろいろな形で挽回できる、そういったことを、親子で読み聞かせをしながら話し合ってみてください。

そして、どの絵本も、とてもおもしろい内容なので、ぜひ親子で楽しんでみてくださいね。

徳永真紀(とくながまき)


児童書専門出版社にて絵本、読み物、紙芝居などの編集を行う。現在はフリーランスの児童書編集者。児童書制作グループ「らいおん」の一員として“らいおんbooks”という絵本レーベルの活動も行っている。6歳と3歳の男児の母。

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絵本ナビ編集部
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