【編集長の新宿絵本日記】気をつかわせる秘密とは。 2020年9月9日『パンダ銭湯』
今朝の目覚めはちょっと悪い。
なぜなら昨日の夜、けっこうな秘密を抱えてしまったから。
ここ数か月続いた自粛期間のせいで、狭い我が家では息子との距離感がおかしくなり、オンラインで交わす友人とのおしゃべりを、彼は平気で続けるようになったのだ。麻痺しているのか、もともと平気な性質なのかわからないけれど、思春期だった頃の自分を思い返すと信じられない状態なのである。そして、彼は私が「えっ、そうだったの!?」と思うような話をスラスラとし、それが耳に入ってきてしまったのである。
「うーーーん……」
朝また思い出し、何分か悩んだ後、私はそれを飲み込んでしまうことに決めた。ごくん。終わり。
私は好奇心旺盛の上に地獄耳でその上おしゃべりなので、人の秘密は大好きなのである。聞いたそばから誰かに話したくなる困ったタイプ。だけど、そのくせ鈍感でもあるので、ふいに予想もしなかった角度から、誰かの秘密に直面してしまう事もしばしば。
そして、大抵それは私が見えていなかったその人の違う側面でもあったりするので、何だか気をつかってしまい……見なかったことにしてしまうのだ。例えば…兄の引き出しをあけるとチョコレートがぎっしり詰まっていた、とか。電車で見かけた怖い先生の顔がものすごい腑抜けていた、とか。できる同僚の机の上にあったメモの字が呪詛の様だった、とか。
あれ。こうして並べてみると、全然大したことない。 私が勝手に気をつかってきただけだったのかもしれない……?
パンダ銭湯
「パンダ以外の入店は、固くお断りしています」
世の中には知っちゃあいけない秘密もあるものです。
パンダのためのお風呂屋さん、パンダ銭湯もそうなのです。
だけど、やっぱり。のぞいてみちゃいましょう!
雰囲気はよく知っている銭湯と変わらないようです。
パンダのとうちゃんと息子は男湯で、かあちゃんは女湯ね。
さあ、入る前には服を脱いで。
……え、服を脱ぐの? 何を脱ぐの?
驚いていると、さらに積み重ねてきます。
……そこも!?
読者が息をのんで見守っている中で、親子は湯舟に浸かっていかにも気持ちよさそう~。もう驚きはないよね、と思っていると…。
絵本の中に広がっているのは、あなたの知らないパンダの世界。描いているのはtupera tuperaさん。いつもとイメージがちょっと違う(カラフルでもないし、しかけがあるわけでもない)ような気もするけれど、この遊びゴコロと凝りに凝った秘密の描き方はtupera tuperaさんの魅力そのもの。読み終われば、気持ちよーく「してやられ」ます。
おはなし会でも大人気だというこの絵本、子どもたちが嬉しそうに大きな声をあげて驚く様子が目に浮かんできます。一回読んだ後は、今度はじっくりと絵本の隅々まで楽しんでくださいね。また違った味わい方ができるはずです。それにしても秘密って楽しい。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
この絵本で晒されているパンダのあまりにも「本当の姿」に、私は大笑いした後、思わず気をつかって絵本をそっと本棚にしまうのである。
「こんな大きな秘密、子どもたちは知らな方がいい」
だけど本当にそうなのかな。案外本人たちは気にしていないのかもしれないし、知ってしまった方がより魅力が増してくるのかもしれない。
「うーーーん」
やっぱり秘密って難しい。そして私には扱いきれないので……結論も含めて、人の判断にまかせることにしよう。うん、ごくり。おしまい。
磯崎 園子(絵本ナビ編集長)
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