【編集長の絵本日記】私が見つけた「たいせつな時間」。2021年8月24日『すてきなひとりぼっち』
「ちょっとひとりにさせて」
息子の放った一言で、あっという間に居場所のなくなった私は、家の片隅の片隅のほんの小さなスペースに場所を用意され、そこで1日の大半を過ごすこととなった。私にしてみれば、一人で留守番をさせる事の多かった幼い息子との時間を取り戻そうと、同じ空間で過ごすのも悪くないと思っていたけれど。
とうに大人の入り口に立ちかけている息子にとって、私の存在を「いないつもり」でやり過ごすにも限界がきていたのだろう。そりゃそうだ。
だけどこれが悪くない。部屋にも満たない、居るだけでいっぱいになってしまうほどの狭い「場所」。そこで仕事とプライベートの時間を過ごす。おやつも好きな本も持ち込んで、そこから1日ほぼ動かない。なんか楽しい。あれ? この感じ。いつか見かけたような。そういえば……
すてきなひとりぼっち
「うまいじゃん」「すげえ」
そう言われて夢中で絵を描いていると、出来上がった頃にはみんなはもういない。一平くんは、こういうひとりぼっちには慣れている。
「うげっ」
雨の帰り道、誰も見ていないところで転んで、傘が折れて、水たまりで全身びしょびしょになる。そんなひとりぼっちにも慣れている。だけど、今日はちょっとつらい。だって、おかあさんが家の鍵を閉めたまま、どこかに出かけてしまったんだ。なんでだよぉ……。
思いきって街へ出た一平くん、だけどそこには出会いがあり、出来事があり、そして思わぬ時間の発見へとつながっていく。
「あっ!」
ふとしたことで手に入れた、一平くんのたいせつな時間。自分だけの空間。読んでいるみんなは、もう見つけているのでしょうか。なかがわちひろさんが描く繊細であたかな絵童話は、ひとりでこっそり読みたくなるような素敵な出来上がりです。そう、ひとりぼっちも悪くない。読んでいるあの子を、あたたかく見守ってあげてくださいね。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
「どこいった!?」
部屋にいるはずの息子がいない。気配はあるのに見当たらない。と、がさっと音のする方を振り向くと、ほんの少し足が飛び出している。見れば、壁とベッドの狭い隙間にはまって本を読んだまま寝てしまっている。そこは、当時まだ小学生だった彼にとっての「お気に入りの場所」だったのだ。
そこで過ごすひとりの時間。それは一体どんな時間だったのだろう。まわりが思っているよりも複雑で濃密な時間だったのかもしれないし、あるいは記憶にも残っていないのかもしれない。本人以外にはわからない。なにしろ彼は、私よりずっと「ひとりぼっちに慣れている」。
この本を読みながら、あらためて色々思い返す。それが今の私にとっての限りなく「たいせつな時間」であることは間違いないのです。
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磯崎 園子(絵本ナビ編集長)
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