【編集長の絵本日記】自分を支えてくれているのは。2021年10月1日『きみはたいせつ』
離れていて、なかなか会えない。たまに会いに行ったとしても、ほとんど何も役に立たない。支えるだなんて程遠い。その大切な時間をつい無駄に過ごしてしまう。
ここのところの母と私の関係は、変えていかなければと思いつつ、ほとんど変わらないまま時間が過ぎていく。いつだって私に会いたがっているし、電話をすれば喜んでくれる。私の存在がなくてはならないのも知っている。では、私の方はどうなのか。
「とくに用事があるわけじゃないんだけど」
なんてことない短めの会話を交わし、電話を切ったあとに考える。もし……。
想像した途端に涙があふれ、あっという間に心が折れそうになる。体の中心が揺らぐのを感じる。そう、いてくれるだけで私の支えになっているのは間違いないのだ。その存在に助けられているのは、やっぱり私の方なのだ。
きみはたいせつ
自分がどうしようもなく小さく思える。
誰にも気にされていないんじゃないかと感じる。
そんなきみにこそ、伝えてあげたいのは。
「きみは たいせつだよ」
ってこと。なぜかっというとね……。
気づかれないほど小さな微生物も、やっかいものだと思われてる生き物も、足並みを揃えることのできない子や、助けを求めても気が付いてもらえない子も。
たとえ、きみが抱えきれないほど大変なことが起きたとしても、大切な人と信じられないほど遠く離れていたとしても、たまらなくさびしくなったとしても。
みんなひとりじゃない。この宇宙の中で、生命の進化の中で、そのすべてのつながりの中で生きているきみの存在には、意味がある。
素朴な可愛らしい絵で優しく語りかけてくれるのは、『おばあちゃんとバスにのって』(鈴木出版)でコールデコット賞オナーブックに選ばれ世界で注目されている絵本作家クリスチャン・ロビンソン。『きみはたいせつ』も世界8か国、6万部以上も出版されているそう。原書はYou MatterというBlack lives matterにも呼応するタイトルで、子どもたちも含め、誰も排除されない社会への願いがこめられています。
「どんなきみだって、たいせつ」
ゆっくりと、そして、くり返し。一緒に読み続けてあげてくださいね。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
いるだけで意味がある、それをわかってもらうのって難しい。直接言えば伝わるものでもない。けれどやっぱり、どうにか感じてもらいたい。母にも、そして息子にも。なぜなら、それこそ自分を支えてくれている言葉だから。
「きみはたいせつ」
誰にともなく声に出してみて、改めて思うのです。いい響きだな。
きみはひとりじゃないよ
磯崎 園子(絵本ナビ編集長)
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