【大人が楽しむ絵本】ごめんなさい、が言えなくて…。『とりあえず ごめんなさい』
「ご、ご。ごめ、ごめんな……さい」
どうやら強情な性格の幼稚園児だったらしい私は、このひとことが言えずに廊下に立たされ、ずっと中に入れてもらえず、最終的に園長先生と一緒に教室へ入っていき、消え入るような声でつぶやいたというのがこの瞬間。
言えばすぐに終わるはずだった騒動。だけど単純に、どうしてあやまらなきゃいけないのか、全然理解できていなかったのだ。どうして怒られているのかも、あやまらないから許されない、という状況さえも理解できなくて、ただぼんやりと園庭を見ながら座り、なんなら時々友達に混ざって遊んでいたりして。そんな私を見るに見かねて、園長先生が声をかけてくれたというわけ。
この「ごめんなさいが言えない」問題は、その後もしばらく続く。先生にあやまれない、友だちとケンカしてもあやまれない、自分が失敗してもあやまれない。大きくなればなるほど、「それは私が全面的に悪い」ということも明確に見えてくる。そして、わかっていればいるほど、「ご…」の一言で硬直してしまうのだ。気がつけば一人孤立してしまっていることだってある。いや、決してそんなに悪い奴ってわけではないですよ。なんだか「ごめんなさい」って言うたびに、自分の体がどんどん小さくなっていく気がして怖かったのだ。
忘れられない「ごめんなさい」は、いくつかある。母が本当に大事にしていたものを、私がいつもぞんざいに扱うので注意されていたのに、ある日とうとう壊してしまったのだ。その時の母は、私がはっきりと「ごめんなさい」と言うまで許してはくれなかった。(あたりまえです)「ごめんなさい」を言うべきだったと、今でも後悔していることは、もっとある。あの時、すぐにきちんとあやまっていれば……。
だけど、どうだろう。今の私はどうだろう。
「あ、ごめんなさい、ごめんなさい」
ごめんなさいのオンパレード。一回じゃ足りず、二回重ねて言っている自分に躊躇もない。私が悪い、誰が悪い、考える前に口に出している。知らない人には、とりあえずごめんなさい。迷惑をかけている「かも」しれない人にも、とりあえずごめんなさい。しまいには「ごめんなさい」と言ってから、嫌なことを言ったりもする。ああ、いやだいやだ。こんな自分がいやだ。クセになっている「ごめんなさい」を言いそうになったら、口に手を当てて止めている始末。そして昔の私が、今の私に言ってくる。
「どうして悪いと思っていないのに、あやまるの?」
うーーん、だってさ……。
答えを出す前に、とりあえずこの絵本を読んでみる。
とりあえず ごめんなさい
植木屋さんなのに、床屋さん!?
それはちょっとコワイ……気がするよね。
とりあえず言っておきましょうよ。
「ごめんなさい」
運動会の国旗にまざって、せんたくもの!?
ドアがトンネルみたいにまっくろ!?
それだって、やっぱりあやまっておいた方がいいでしょ。
「ごめんなさい」
生まれつきこわい顔でごめんなさい、子沢山なのでごめんなさい、わかりにくくてごめんなさい……あれあれ、そんなにひょうひょうと、堂々と。本当にそれって悪いって思ってる? でも、とりあえずあやまっておいた方がいい状況ってあるよね。絶妙なタイミングで言われたら、なんか笑っちゃうことだってあるし。ほら、とりあえず。
「ごめんなさい」
うーん、それなら、まあ仕方ない。
だけど、こんなに絵本からあやまられてもねえ。
「とりあえず、ごめんなさい」
五味さんだって言っている(気がする)から……まいっか。
「とりあえず」シリーズ、面白いですよ。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
……あれ。とりあえずあやまるのって、思ったよりも悪くない? こんなにひょうひょうと、すんなりと、上手に言われたら。誰も嫌な気持ちになっていないじゃない。
「ごめんなさい」
強すぎると思っていた、この言葉。声に出したら、何かが変わってしまうと思っていたけれど。もう少し気楽に、もう少し柔らかく、もう少しリズミカルに。そして今の私だったら、もう少しだけ大事にしながら。言ってみようかな。いつもぐるぐるこんがらがっている頭の中を見せつけるようなコラムばかり読んでいただいて……
「なんか、ごめんなさいねー」
年をとるって、すごい事ですね。
五味太郎「とりあえず」シリーズ
磯崎 園子(いそざきそのこ)
「絵本ナビ」編集長として、おすすめ絵本の紹介、絵本ナビコンテンツページの企画制作・インタビューなどを行っている。大手書店の絵本担当という前職の経験と、自身の子育て経験を活かし、絵本ナビのサイト内だけではなく新聞・雑誌・インターネット等の各種メディアで「絵本」「親子」をキーワードとした情報を発信。
著書に『ママの心に寄りそう絵本たち』(自由国民社)がある。
文:磯崎 園子(絵本ナビ編集長)
イラスト:掛川 晶子
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