「自分の意志をつらぬく力」、絵本でどう伸ばす?
絵本には、子どもに働きかける様々な力が備わっています。絵本がきっかけで、新しいことにチャレンジする気持ちを持てたり、苦手なことに取り組もうと思えたりもします。子どもたちの世界を楽しく広げてくれる絵本は、子育て中のパパママにとっても、大きな味方になってくれること間違いなしです!
この連載では、とくに「これからの時代に必要とされる力」にフォーカスして、それぞれの力について「絵本でこんなふうにアプローチしてみては?」というご提案をしていきたいと思います。
自分の意志をつらぬく力をもとう
連載第3回のテーマは、「自分の意志をつらぬく力」。
今日のおやつは何にするか、どんな習い事をするか……。今の子どもは、生活の中でたくさんのことを選ばなければいけません。
2,3歳のころは、「あれがイヤだ、これがイヤだ」といっていた子どもたちも、集団生活に慣れてくる年齢になると、だんだんと周りの目を気にし始めます。お友達のことや周りの大人を意識するようになることは、決して悪いことではありません。ですが、人の気持ちに敏感な子ほど、「みんながやっているから、これにしよう」「お友達にいやな思いをさせたくないから、私はこれでいいわ」など、自分の気持ちを抑えがちです。そうした行動が当たり前になってしまうと、いつしか「あれ? 本当はどうしたいんだっけ?」と自分の気持ちがわからなくなってしまうことも。この選択肢の多い時代では、「こうしたい」「これがほしい」と、自分がやりたいことをはっきり示せることは、人生を突き進めていく大きなカギとなります。
今回は、そうした「自分の意志をつらぬく力」の大切さを感じ取れる絵本をご紹介したいと思います。
みんなとちがってもいい!
“我が道”を突き進む男の子
ウエズレーは夏休みの自由研究で一念発起。新種の作物を育て、新しい文字や数の数え方を考案、自分だけの特別な文明を創り出す。
周りの子どもと全然ちがう、いっぷう変わった男の子、ウエズレーが主人公の物語です。ウエズレーは、周りの子どもたちの好きなものに興味がなく、いわゆる“我が道”を突き進む男の子です。そのおかげか、ウエズレーに友だちはいません。でも、それでへこたれることもなく、ある日「自分だけの文明をつくる」ことを決意するのです。
この物語のすばらしさは、ウエズレーがありのままの自分をつらぬき続けることで、周囲の人々との関係が変化していく過程が描かれていることです。ウエズレーは、自分だけの世界を作り上げるだけでなく、その世界にちゃんと人を招き入れます。最後には、自分の道を突き詰めていったウエズレーの周りには、多くの仲間が生まれていたのです。
ウエズレーの姿に子どもたちは、ありのままの自分をつらぬき通す強い気持ち、自分たちとは違う人を受け入れることの豊かさ、楽しさを学ぶでしょう。
親としては、ウエズレーのパパママのように、「心配しつつもありのままの我が子を受け入れる」ことを心がけねば、と深く思わされます。
突き進む勇気のすばらしさ
ドングリたちの旅の目的は……?
「ドーン!グラグラグラ」。海の向こうの島が、赤い火をふきました。それをみたトチノミたろうは、ドングリたちによびかけます。「ぼくらのたびをはじめよう!」と。すると、あっちの森からもこっちの森からも、数えきれないほどのドングリがあつまり、歌いながら進みはじめます。おそいかかるリスをはねのけ、雪山や砂の丘を越え、海を渡って、ついに、島にたどりついたとき、ドングリたちは…。
『新幹線のたび』のコマヤスカンの、渾身の物語絵本! 何百ものドングリたちの、山あり谷ありの大冒険スペクタクル! その一心不乱な姿は、個性豊かでどこかユーモラス。見ているだけで、あっという間に時間がたってしまうほど、すみずみまで描きこまれています。誰の心にも、希望と勇気がそっと芽を出すようなラストから、あなたは何を感じるでしょうか?
この絵本では、ドングリたちが、“ある目的”を果たすための長い長い旅が描かれています。出発してから旅が終わるまでは、一年以上の時が経過します。その間、リスに食べられたり雪に埋もれてしまったり、多くのドングリたちが脱落してしまう、過酷な旅なのです。
物語の最後、ドングリたちが旅を続けた理由がわかります。絵本を読みながら、「どうしてこんな旅を続けたのかな?」と、話し合ってみてください。「どうしてもやり遂げなければいけないことがある」ときの勇気とはどういったことなのかを、感じとることができるでしょう。
将来、子どもたちにそういったことが訪れたときには、「ドングリードングラー!」とかけ声をかけながら、乗り越えてほしいなと思います。
大好きなものは、ゆずらない!
カミラの体が、ある朝とつぜんしまもように!
ほんとうは好きなのに、みんながリマ豆を嫌いなので、
食べたいのを我慢しているカミラは、まわりにどう思われているのか気にしてばかり。
そんなカミラの体が、ある朝とつぜんしまもように!
主人公のカミラは、「あるもの」が大好きです。ですが、他の子はそれがきらい。それが大好きだと言い出せないカミラに、大変なことが起こってしまうおはなしです。
何かに対して「それってへんなの」「かっこわるい」と言ってしまうことは子どもにはよくありますよね。ただ、そういった言葉は、子どもの世界ではなかなかパワーがあり、そう言われてもなお「私はこれが好きなの!」と言い続けることは勇気のいることです。カミラもそれができず苦しみますが、「好きなものは好き!」と言うことで、自分を取り戻すことができます。
このおはなしは、「正直な気持ちをかくしてしまうことが、何を引き起こすか」、絵でわかりやすく伝えてくれます。テーマは深いですが、子どもたちにいろいろなことを考えさせてくれる作品です。特に「自分の好きなものは何か?」を考えるきっかけになるでしょう。そして、自分の好きなものだけでなく、相手の好きなものも大事にしてあげなくてはいけないことも伝えてくれます。
守らなきゃいけない本当のルールとは?
いつも静かな図書館にライオンが現れ、みんな大あわて。でもお行儀のいいライオンは、すぐにみんなと仲良しに。ところがある日…。深い感動を呼び世界中で話題の絵本。
ある日、図書館にライオンがやってきます。「しずかにできる、おぎょうぎのよいライオンなら、としょかんにきていいです」と言われ、ライオンはルールを守って図書館に過ごすようになりますが、どうしても大声を出さなくてはならなくなって……。
幼稚園、保育園など集団で生活するようになると、いろいろな「お約束」が出てきます。子どもたちは、大人が思っている以上に決められたルールを守ろうとがんばっています。ですが、時と場所によって、ルールが変わってくることがありますよね。日本では当たり前のルールでも、国が違えばがらりと変わることもあります。それに、そのルールが自分のやりたいことではないこともでてくるでしょう。
この絵本からは、ルールはなぜ守らなければならないか、そして、本当に守らなくてはいけないことは何か、ルールの裏側の本質に目を向けることを考えさせてくれます。さらに、この絵本のすばらしいところは、ある出来事のあと、ちゃんと“ルールの見直し”があるところ。四角四面にルールを守るのではなく、相手の事情をちゃんと考えて、改めてルールを決める姿が描かれています。
ご家庭でも、電車に乗るときやお出かけをする前などに、「なぜ、これを守らなければいけないとおもう?」と問いかけたり、「でも、どうしても守れないときってどんなときだと思う?」など話し合ってみてはいかがでしょうか?
「がまん」は、大事なもののために
おいしそうなケーキを目の前に、食べちゃいたいけれど、必死でそれを「がまん」するカメのかめぞうさんと鯉のこいたろうくんのお話です。
子どもたちが大きくなるにつれて、いろいろなことを「がまん」しなければならない状況が増えてくると思います。ただし、前に出てきた「ルール」の問題もそうですが、なんでもかんでもがまんすることが良い事だとは限りません。がまんすることで何を得ることができるか、そのがまんは、自分にとってどんな意味があるのかを考える必要があります。特に現代の教育では「思考力」が重視されていますが、がまんという行動に、どんな意味があるのか“自分の頭で”考えることは、大きくなるにつれて、とても重要になるでしょう。
かめぞうさんとこいたろうくんは、「大切なけろこさんを悲しませたくない」ことが“がまん”できた理由でしたが、それぞれの場面で「なぜ今“がまん”しなければいけないか」、行動する前にその本質を考えることの大切さ、そして、自分はどんな大事なことのためにがまんすればよいのかを考えさせてくれる絵本です。
さいごに
「ぼくは、こうしたい」「私はこれがやりたい」と自分の意志を主張するには、まずは「自分の好きってなんなのか」をつかんでいなければならないですよね。
まだ小さいうちは「何が好きか?」ということすら曖昧だと思います。我が家の幼稚園児兄弟も、新しい仮面ライダーが登場すればそっちに目移りし、お友達の間で何かが流行れば「あれ欲しい」という状況です。最近、リビングに大きめのホワイトボードを置いて、そこに「好きなもの表」なるものを書いてみました。「好きな食べ物」「好きなあそび」「好きなおもちゃ」「好きな絵本」などの項目を書いておいて、それぞれ気の向いたときに書いてもらっています。今のところ毎日のようにコロコロと好きなものが変わっていっていますが、その中で共通するものが出てきたり、その好きなものがどうしても欲しいとなった場合「じゃあ、どうすれば手に入るかな?」など話し合うきっかけともなっています。
ここで取り上げた絵本をきっかけにして、「あなたの好きな物ってなあに?」「その好きな物のためには、どうすればいい?」など話し合ってみてはいかがでしょうか? 子どもたちが、自分の好きなものについて考える機会が増えることは、「自分の意志をつらぬく力」につながっていくはずです。
徳永真紀(とくながまき)
児童書専門出版社にて絵本、読み物、紙芝居などの編集を行う。現在はフリーランスの児童書編集者。児童書制作グループ「らいおん」の一員として“らいおんbooks”という絵本レーベルの活動も行っている。6歳と3歳の男児の母。
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