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絵本ナビ編集長の気になる1冊

【編集長の気になる1冊】どうにも目がそらせなくて。『みたら みられた』

 

どきっ。

 

あかちゃんがこっちを見ている。
他の誰でもない、私の顔を見ている。

 

まっすぐと、ひとつの迷いも感じられない。
あまりにも無垢なその強い視線に、私はたじろぎ一歩引いてしまいそうになる。

 

いけない、このままでは負けてしまう。
そらしてしまいそうになるのをぐっと堪え、私もあかちゃんの目を必死で見返す。
そうして、熱いけれど静かな「無」の数秒間が流れていく。

 

……いったい、これは何の勝負?

 

子どもの頃、見も知らぬあかちゃんに対して、幾度となく繰り返してきた「にらみ合い」。だけど勝負は大概あっけなく終わる。ママやパパの声かけで、なんの未練も残さずに、赤ちゃんの方からぱっと視線をそらしてしまうのだ。当たり前の話である。

 

末っ子で、あまり縁のなかったあかちゃんが「未知の生きもの」に見えていたせいなのか。あるいは本能的な「負けず嫌い」のせいなのか。これが、私にとってのコミュニケーションだったのである。

 

それがガラッと変わったのは、小学校高学年の頃。我が家に子犬がやってきて、新たな「未知の生きもの」と深く触れ合っているうちに、「意味」や「言いたいこと」などない視線というものがあるのだと、理解していく。……だけどなんだろう。さっきから感じるこの違和感。どこかから感じる強い視線。

 

はっ、見られてる!

みたら みられた

みたら みられた

いつもの散歩道、ふと見上げた視線の先にいたのは野良猫。
じっと見ていると、向こうもこちらを振り向き……目が合った。

広い野原で草を食べる牛たち。
気が付くと……自分がかこまれている! べろん。

草かげに見つけたカマキリ、柿の実をかじるネズミ。
高い木の上に見えている可愛い顔、 雪だるまのような姿のあの子も。

「みたら」
「みられた!」

なんて迫力のある目、なんて緊張感のある空気。こちらがそっと見て楽しんでいたつもりが、ふと目があってしまう。じっと見られてしまう。嬉しいような、くすぐったいような。ドキッとするけど、何かが通じ合ったような喜びもあり。

大好きな生きものたちとのささやかなコミュニケーションを、大胆に切りとり、高揚感あふれる一冊の絵本にしてしまったのは、木版画で作品を生み出す絵本作家竹上妙さん。竹上さんご自身が、かつて長野で牛にかこまれたときの衝撃をきっかけに「見たら見られた」というテーマでの作品づくりに取り組まれてきたのだそう。その集大成とも言えるこの絵本では、ダイナミックで迫力があるけれど、どこかユーモラスな表情をした動物たちの魅力が存分に味わえます。鮮やかだけれど、風合いのある色味もとっても素敵。

……あ、見られてる!

表紙を見るたびに、ハッとしてしまうのです。

 

(磯崎園子  絵本ナビ編集長)

大人になれば、その視線の尊さを感じられるようになって、私だけの緊張感を、笑いながら思い出したりするもするんだけど。この絵本を読んだ後、なんだかちょっと照れくさくなる。どうにも目をそらすことが出来なくなっている、幼い頃の自分と対面しているみたいだからかな。

 

目が合うって、奥深い。

 

この表紙の牛の視線の奥に潜んでいるものだって、まだ私は何もわかっていないみたいなのです。

磯崎 園子(絵本ナビ編集長)

掲載されている情報は公開当時のものです。
絵本ナビ編集部
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