【編集長の気になる1冊】その出会いは彼のもの。『みちとなつ』
小さい頃から人見知り。知らない子たちの輪に入れないのはもちろん、町でクラスメイトを見つけても、物かげにさっと隠れてなかったことにしてしまう。みんなと楽しく遊ぶには、それなりに時間をかけてきた。
その性質はしっかりと息子にも引き継がれ。それでも私とどこか違うのは、彼が最初から一人で遊ぶことが多かったからか。夏休みに祖父母の家に預ければ、「退屈だ」と言って文句を言っているのは初日だけ。公園に行けば、いつの間にか遊びの輪に入れてもらっていたり、同じ歳くらいの子と走り回っていたりする。そして、滞在中の数日間は毎日飽きずに公園に遊びに行く。
聞けば、約束は何もしていないと言う。名前だって知らないことも。おそらく彼らを結びつけているものは「遊ぶ時間」だけなのだろう。それでも私は尊敬してしまう。息子にとっての「気の合う友だち」を、ちゃんと自分で見つけているのだ。その瞬間を見ることができないのは残念だけれど、それはきっと彼らだけのもの。短かい期間だったとしても、きっと通じ合うものがあって……
みちとなつ
大きな町のマンションに、お母さんと二人で暮らす女の子、みち。海辺の小さな町に、大家族で暮らす女の子、なつ。
遠く離れた二つの町、環境も生活も性格だって違うみちとなつ。二人は、まだ出会ってはいません。お互いのことを知りもしないのです。
だけど、二人には共通の趣味があります。みちはハート型の石を集め、なつは丸くなったガラスの欠片をひろいます。そして、その趣味が二人を結びつけるきっかけとなり……。
この広い世界の中で、自分とは全然違う場所で暮らす知らない誰か。その誰かと出会うことなんて、想像もつかないけれど。気の合う友だちになれるなんて奇跡のようだけれど。でも、二人の物語を読んでいると、「もしかしたら……」と心が浮き立ってくるのです。いつかきっと私にも。
広くて青い空と海を背景に、二人の少女の出会いを爽やかに描き出すこの絵本。どんな性格の子にも、世界が広がるこの瞬間が訪れますように!
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
「ああ、私もいつか。」
そんな風に夢を見ることは、大人になった私にだって自由なこと。まだ見ぬ「気の合う友だち」が、世界中のどこかにいるのかもしれない。出会った瞬間に、また一つ世界が広がっていくのかもしれない。
絵本にも息子にも。私が背中を押される思いがするのである。
出会いはいろいろ……
磯崎 園子(絵本ナビ編集長)
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