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絵本で伸ばそう!これからの子どもに求められる力

もじもじしたっていいじゃない!「 恥ずかしがり」力

絵本には、子どもに働きかける様々な力が備わっています。絵本がきっかけで、新しいことにチャレンジする気持ちを持てたり、苦手なことに取り組もうと思えたりもします。子どもたちの世界を楽しく広げてくれる絵本は、子育て中のパパママにとっても、大きな味方になってくれること間違いなしです!

この連載では、とくに「これからの時代に必要とされる力」にフォーカスして、それぞれの力について「絵本でこんなふうにアプローチしてみては?」というご提案をしていきたいと思います。

「恥ずかしい」も、成長のあかし!

最近まで暑さも長引き「小さい秋どこいった!?」と騒いでましたのに、いきなり秋が来ましたね! 秋は運動会や音楽発表会などなど行事の多い季節。運動会で活躍したりパパママの前で力をふるって見せるのがうれしかったりする機会でもありますが、人前に出ることやいつもと違ったことすることが恥ずかしい、こわい……という子もけっこうたくさんいて、2学期は調子がイマイチになってしまうことが多いのも事実です。

 

親としては楽しんで参加してくれればそれでいいんですけどね。あまりに緊張して青ざめていると、こっちも「最後まで持つかしら~」とハラハラ気をもんでしまいます。気楽にいろいろ楽しんで飛び込んでしまえばいいのにと思うかもしれませんが、どんな子の中にもいろいろな「もじもじ、もじりんこ」の種はひそんでおりますし、はずかしがりやさんが「恥ずかしい」と思うことって、社会性が発達しているという成長のあかしでもあります。

 

人前に出て緊張する、あがってしまうのは、その子がほかの人々の存在を意識しているからですし、「できるかな? できないかな?」と自分の力量を捉えようとすることでもあります。それに、はずかしがりやさんはこわがりやさん。こわがりな子は、とっても慎重ですし想像力が豊かという面もあります。

 

ということで、はずかしがりやさんって悪くないよ、むしろいいことたくさんあるよ!という視点で、もじもじするってどういうきもち? どう見守ってあげたらいい? ということを考えられる絵本をご紹介したいと思います。

はずかしがりやさんって、こんな子

まずは、はずかしがりやさんの日常を描いた絵本をご紹介します。

こぶくんの勇気に拍手!

もじもじこぶくん

恥ずかしがりやのこぶたのこぶくんは、アイスクリームを買いにゆきますが、もじもじしていてなかなか注文ができません。そこへ、ほかのお客さんがどんどん割り込んできてしまうので、こぶくんは、もっともっとどうしていいかわからなくなってしまいます。でも、偶然みつけた誰かさんのために勇気が出てきて… こぶくんの勇気に拍手したくなる作品です。

こぶたのこぶくんは、とってもはずかしがりや。一人で「いちごあじが いいなー チョコあじも いいなー」と考え考え、アイスクリームを買いに出かけます。ですが、

「いらっしゃいませ。どの おあじに いたしましょう」

と聞かれたとたん、下を向いてもじもじもじもじ。何も言えないこぶくんを抜いて、後から来たお客さんたちがどんどんアイスクリームを買っていき、こぶくんはしゅーんとうなだれてしまいます。そのとき、

 

「いちごあじの くださーい」

 

と、小さな小さな声が聞こえました。ありのありいちゃんの声です。ありいちゃんは小さすぎるから声も小さすぎて何度も注文しているのに声が届かないのです。ぽろんとなみだをこぼすありいちゃんを見て、こぶくんはもじもじが止まり、勇気をもってありいちゃんとアイスクリームの注文を試みるのです。

おうちでは話せても、知らない大人とお話しするのは緊張しますよね。どんどん抜かされしょんぼりしてしまったこぶくんですが、はずかしがりやさんは周りを注意深く観察する力が優れています。そして自分より困っている人を見ると助けようとする優しさがあります。ですので、こぶくんは泣いているありいちゃんに気づき、助けようと決意した瞬間もじもじがぴたっと止まったのです。

はずかしがりやさんだからこそ困っている人に気づけた、はずかしがりやさんに拍手の絵本です。

ちょっとずつでいいんだよ

はずかしがりやさんは人前に出ることが苦手ですが、そういった機会をすべて避けるわけにもいきません。ちょーっとずつでいいので慣れる練習も必要です。そうした、自分に自信をつけていくためのアプローチ法を描いた絵本をご紹介します。

「やったら できるねんなあ!」

はずかしがりやの バナナくん

はずかしがりやのバナナくんは、学校で行われる「歌の発表会」の練習が嫌いです。バナナくんは、顔を隠してしまって歌えません。「ああ いやんなっちゃうな」としょげていると、近所のくしカツのおじさんがやってきて言いました。「みられてると おもうから ハズカシイ。まわりは みんな イモとか カボチャやと おもたら ええんや」。くしカツのおじさんのもとで、歌の練習がはじまりました。▼何日かたって、発表会の日になりました。バナナくん、最初はハズカシイという気持ちがありましたが、「みんな いしころ いしころ」と心の中で唱えたあと、ついに歌い出します。「バーババ バーババ バナバナバー」。どんどん調子が出てきたバナナくんは、とうとう皮を全部脱いで、音楽室を飛び出しました。「くしカツさんも いっしょに うたお!」とくしカツさんを誘いましたが、驚くことに……。▼最後のどんでん返しが最高の絵本。



 

バナナくんはとってもはずかしがりや。ですので、学校で歌の発表会があることが嫌でたまりません。練習の時から「はい、つぎは バナナくん」と言われても「ハズカシー」と皮で顔をかくして「うわー よう うたわん」と帰ってしまうくらいです。

しょげているところに、くしカツのおじさんがやってきます。「きみきみ、もっと じしん もたな」と、なんやかんや励まされ、発表会の日なんとか舞台に立ちます。

「ハズカシなー」と思いつつ、皮からちょっと顔を出しました。そしてもうちょっとだけ顔を出し、ついには歌いだすことができました。歌い始めるとけっこう調子が出てきてついにはすぽーんと皮を脱ぎすててしまい、「うわー、やったら できるねんなあ!」というお話です。

バナナくんは、こうしたスモールステップでだんだんと人前に慣れていきましたが、お次は「れんこんくん」の場合も見てみましょう。

れんこんくんの「いいところ」って?

はずかしがりやのれんこんくん

池のれんこんくんは、とってもはずかしがりやさん。なぜって、からだに穴があるからなんだって。それを聞いた魚たちは、れんこんくんのいいところを考えはじめます。とんぼやカエルも一緒にいろいろ言い合ううちに、いいところがいろいろ出てきました! すると…。

れんこんくんは、ものすごーくはずかしがりや。なぜかというと「からだに あなが あいている」ことがはずかしいと思っているのです。「ぼくだって あなだらけだよ」と魚とりあみくんがなぐさめますが、れんこんくんは暗ーく「でもでも」言うばかりで魚とりあみくんもあきれ顔。池のみんなは、れんこんくんのいいところを見つけてあげようとしますが、れんこんくんはおとなしすぎて目立ったところがみつかりません。

「ほうら、やっぱり…… ぼくに いいところなんて、ひとつも ないんだ……」

と、れんこんくんはますます暗ーくなっていきますが、そのときどじょうさんが

「そうだ。どろを たいせつにして かきまわしたり しないところ」

という、れんこんくんのいいところをひとつ見つけました。そしたらみんな、おとなしいれんこんくんは、うるさくしないし人の悪口も言わないし、といいところをたくさん見つけることができたのです。

目立った特技や分かりやすくいいところがあるって、うらやましいですよね。おとなしい人は一見いいところが目立たないのですが、れんこんくんのような、人に迷惑をかけず静かに周囲を支えることって、大人になるとぐーっとその重要性が理解できます。

ちょっぴり自信をつけたれんこんくん。まあ、だからと言ってすぐにはずかしがりが変わるわけではありません。それがれんこんくんの本質ですから。でも、自分の「いいところ」を知ったれんこんくんは、ちょっとずつ今までとちがった明るさがにじみでてくるのです。

はずかしがりやさんの、いいところ

はずかしがりやさんって、そのせいで大変なときもありますが、先ほどのれんこんくんのように、いいところがたくさんあります。なかでもその「慎重さ」は、生活においてとっても大切なものです。慎重だからこそ、危ないところには近寄らないので信頼できますし、想像力が豊かだからこそ先のことへの対処も可能です。

ですが、想像しすぎて不安が高じ、がんじがらめになっちゃうところが玉に傷。そんな子には、この絵本で逆に「こうしなければ大丈夫!」という安心を与えてあげましょう。

危険を先に想定できる

おうちでヒヤッ でない、あけない、のぼらない 子どもの身をまもるための本

ベランダからの転落、風呂場での転倒、不審者の訪問……。
タイトルの「でない」は、家の外やベランダ、ピンポーンに出ない、「あけない」は玄関、風呂場、ベランダなどのドアを開けない、「のぼらない」は家具や浴槽などに登らない、という注意喚起です。
巻末には、クイズで家の中の危ないポイントや「やっていいこと、いけないこと」などを扱います。
子どもの安全が専門の著者が子どもの「やりたい」心理を踏まえ、危機をどう教え、守らせるかを教える絵本。親向け解説も。

「でない、あけない、のぼらない」とは、おうちの中でのお約束のこと。知らない人のピンポンに「でない」、窓を「あけない」、窓の近くで「のぼらない」、そのほかにも熱いポットや電子レンジの使い方など、家の中にもいろいろ注意しなければいけないことがたくさんあります。この絵本は物語形式で、親目線からでも「あっ、ありそう!」と思われるヒヤリハット事例を出しながら、子どもたちにも「なんで危ないのかな?」と考えさせる視点で描かれています。

お話では、はずかしがりやさんとは逆の、ちょっとうっかりさんの目線で日常の危険を示していますが、はずかしがりやさんは「どうしていいかわからない」、「この先何が起こるんだろう……」という不安からもじもじしたり怖がったりが起こります。ですので、順を追って「こうしたら危ない」のメカニズムが分かれば逆に「こうすれば怖くない」が理解できます。はずかしがりやさんは先の見通しさえつけば、ちょっとずつ進むことができます。そして、「危ないよ」ということをみんなにも論理立てて伝えることもできます。

この絵本は「子どもの身をまもるための本」シリーズの1冊で、シリーズ内ではほかにも身近な危険をたくさん示してくれます。はずかしがりやさんに「より安全に楽しく生活するには?」を伝えてくれるハウツー絵本です。

自分に優しくしていいんだよ

こちらも、はずかしがりやさんのための、ある種の思考法ハウツー絵本です。

はずかしがりやさんのはずかしがりの根本には、物事に対して「こうしなければいけないんじゃないか?」などと適当にやることができないストイックさがあったりします。だからこそ、自分の力が不安になってもじもじしちゃうんです。それは、物事の精度を高めたり追求心につながったりとってもよい面なのですが、反面すっごく疲れます。ですので、このヨシタケさん流思考法で自分に優しくする考え方も身につけてみましょう。

ヨシタケ式心を緩める絵本!

あつかったら ぬげばいい

「ヘトヘトにつかれたら」
「ふとっちゃったら」
「だれもわかってくれなかったら」
「せかいがかわってしまったら」…。

2コマごとに展開する老若男女の疑問に、ユーモラスで痛快な答えが待っている。

大人も子どもも楽しめる、ヨシタケ式心を緩める絵本が登場!
大切な人への贈り物や、お守りのように側に置きたい1冊です。

「あつかったら」→「ぬげばいい」

「ヘトヘトにつかれたら」→「はもみがかずにそのままねればいい」

「はなしあいてがほしかったら」→「みかんにかおをかけばいい」

などなど、決して難しく考えず起きたことにはできる範囲で思った通りに対処していきましょうよ、というヨシタケさん流の考え方がゆるく繰り返し描かれています。

ヨシタケさん自身も幼少期から「はずかしがりやで人見知りで心配性」というご性格だったそうですが、そこから紡ぎあげられたこの思考法。求められたことを「完璧にこなさきゃいけないんじゃないか、成功しなきゃいけないんじゃないか」とドキドキしてしまうはずかしがりやさんの心を「あ、これでいいんだ」と、この絵本でほっと解きほぐしてみてください。

はずかしさの向こうには……

最後に、はずかしがりやさんが思い切って行動したことで起きた、大成功の物語をご紹介します。

アマンディーナ

アマンディーナは小さな犬ですが、いろいろなことができます。ある日、舞台に出て、自分のできることをみんなに見てもらうことにしました。必要なものを全て自分でつくり、練習を重ね、いよいよ舞台の幕開けです。ところが……

小さな犬のアマンディーナは、いろいろなことができる才能の持ち主ですがはずかしがりやでいつもひとりぼっちだったため、誰もそのことを知りません。しかし、ふと「もう はずかしがるのは やめよう」と思います。そして、舞台の上でみんなにできることを見てもらおうと劇場を借りて準備を始めました。こまごまとした準備を終え町のみんなに招待状を出しあちこちにポスターを貼り、準備万端臨みますが……。

なぜアマンディーナが「もう はずかしがるのは やめよう」と思ったのかは分かりません。ですが、どんなにはずかしがりやさんでも、ひとりぼっちでいたいわけではないと思います。自分を誰かに認めてもらいたいと思うことは皆が願うことではないでしょうか?

アマンディーナの挑戦はけっして順調ではなく紆余曲折な展開をみせます。ですが、ご安心を! さいご、アマンディーナはこのまちの誰よりも幸せな気分になります。それはアマンディーナが思い切って一歩踏み出したからです。そして一歩踏み出せたのは、「自分はどうしたいんだろう?」と、自身の気持ちをじっくりじっくり考え続けたからです。きっかけは、いつどう訪れるか分かりません。しかし、どんなにはずかしがりやさんでも自分が強く願ったことに向かってはいつか一歩を踏み出せる、そしてそれは素敵な何かに絶対につながる、そういったことを明るく高らかに伝えてくれる絵本です。

さいごに

はずかしがりやさんの、人に見られている場面で何かをすることを恐れてしまう点は「社交不安」という症状でもありますので、無理は禁物です。ですが、そういった場面をすべて避けて生きていくわけにもいきません。ちょっとずつちょっとずつ、無理のない範囲で慣れていったり時には緊張をゆるめる別のことをしたりしながら、ゆっくり経験を積み重ねていくのを繰り返すしかありません。

 

かくいう私の息子も極度のはずかしがりやさん。人前では真っ青、初めての場所ではぴきーんと固まります。ですが、実は私も元々はずかしがりや。集団の中でいかに目立たず空気と化すかが得意中の得意といったかんじの子ども時代でした。なにがきっかけで一歩前に進めたかは忘れてしまいましたが、何かしら「これがやりたい、何とかしたい」というアマンディーナ的な熱意が突破口であったことは確かです。なので、息子が初めての習い事などで“もじもじもじりんこ”しても、一歩踏み出すきっかけを見出すには見守るしかないよなと感じています。それに、はずかしがりやさんの慎重さとストイックさは自分を磨く大きな武器でもあると思います。わが子も「恥ずかしさ」を自覚しているからこそ、「自分は今なにがどのくらいできないか」けっこう考え考えじりじりじりじりこっそりこっそり準備したりする面もあります。

 

今回ご紹介した絵本によって、そんなはずかしがりやさんの良い面も認めつつ、いずれ来る「はじめの一歩」に向けて自信をつけさせてあげられるような、そんなきっかけにつながることを願っております。

徳永真紀(とくながまき)


児童書専門出版社にて絵本、読み物、紙芝居などの編集を行う。現在はフリーランスの児童書編集者。児童書制作グループ「らいおん」の一員として“らいおんbooks”という絵本レーベルの活動も行っている。7歳と5歳の男児の母。

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