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絵本で伸ばそう!これからの子どもに求められる力

夏! 「探究力」を高めよう!

絵本には、子どもに働きかける様々な力が備わっています。絵本がきっかけで、新しいことにチャレンジする気持ちを持てたり、苦手なことに取り組もうと思えたりもします。子どもたちの世界を楽しく広げてくれる絵本は、子育て中のパパママにとっても、大きな味方になってくれること間違いなしです!

この連載では、とくに「これからの時代に必要とされる力」にフォーカスして、それぞれの力について「絵本でこんなふうにアプローチしてみては?」というご提案をしていきたいと思います。

子どもたちの中の「探究力」を高める絵本

夏休みも佳境に入ってまいりましたね。いかがおすごしでしょうか?

猛暑が続き、なかなか外で過ごすことも難しい時代となりましたが、せっかくの夏休みです。子どもたちと一緒に、なにか一つテーマを決めて過ごしてみてはいかがでしょうか? そこでおすすめしたいのが「探究」です。

「探究学習」という言葉はごぞんじでしょうか? 小学校の授業では、総合学習という呼ばれ方をされていますが、ただ単に調べ学習を行うのではなく、

・自分で課題を立て

・情報を集め

・整理、分析して

・まとめ、表現する

ということをできるようにするという学習内容だそうです。この学習は小学校から中学高校とさらに比重が高くなり、そのまま大学での学問・研究に直結していきます。受け身の学習ではなく、小さなころから主体的に学んでいく姿勢を身につけましょう、ということなんです。

小さなころから「探究」の姿勢を持っていることは後々の学習にとても有意義になってきます。ですので、ぜひこの夏休みに1つ何か探究テーマを決めて、いろいろな方向で調べ考えていく、ということにチャレンジしてみてはいかがでしょうか? 小学生でしたら、それこそ自由研究にもつながりますし、もっと小さな子にも「気になることに没頭して考え続ける」という経験は、その先のもっと大きな探究につながっていきます。

今回は、「探究のきっかけってどんなもの?」「取り組む姿勢って?」といった部分の参考となり、探究にアプローチしやすくなるような絵本をご紹介します。そこから、子どもたちの中にある「探究力」を高めていければと思います。

とっかかりは、「これなんだろう?」

「探究」するにはきっかけが必要ですよね。「知りたい、わかりたい!」という「これなに!?」という思いこそ、自分から探究していくことにつながります。そんな探究のきっかけってこれよ!というお話がこちらです。

頭を柔らかくして楽しむ絵本

これなんなん?

タヌキたちが暮らすポッカリ島には、時々、人間の道具が流れ着きます。
「これなんなん?」
拾って観察してみますが、タヌキたちには、使い道がさっぱり。
そんなときは、物知りな長老のところにききに行きます。
でも、長老だって、そんなものは見たことがありません。
知らないとは言えない長老は、ものをよく見て、長老なりに使い道を想像します。
そうやって、なんとかピンチを切り抜けていきますが、いよいよまったく使い道がわからないものが流れてきて…!?

登場するのは、Tシャツ、ホース、傘といった、見慣れた道具たち。
「これはこう使うものでしょ」という、“当たり前”を少しずらしてみると、身近なものにでも新しい発見がいっぱい。発想を広げ、頭を柔らかくして楽しむ一冊です。

海にうかぶポッカリ島には、タヌキたちが住んでいます。そして、ときどき変なものが流れつきます。タヌキたちは変なものを「これ なんなん?」と拾ってはあれこれ考えます。結局わからず、物知りなタヌキの長老のところへ持っていきます。

 

穴が4つあいているぺらぺらしたものは、「おなかが冷えないように身に着けるもの」

細くて長くてくねくねして穴があいたものは、「遠くの人とお話をする道具」

 

などなど、長老は「ポポン!」とわかったような答えを出します。そしてあるとき、長老ですらなかなか答えの出せないものが流れつき……というお話です。

先ほど流れ着いたものの正解、それぞれ人間の使う“Tシャツ ”と“ゴムホース”なんですが、「これなんなん?」とあれこれ考えては「自分たちだったらこう使うよ」と、適当ではありますが答えを導こうとしていきます。

タヌキたちが好奇心旺盛に考えていく姿はとってもユーモラス。ですが、そうしたとにかくあれこれ考えていく姿勢が、実はのちのちある真理につながっていくという、「探究のきっかけ」絵本です。

「探検」は探究だ!

探検の「探」と探究の「探」は、おなじ“探る”という言葉。あれこれ探っていくという点では探検も探究も同じものです。お次は「100円」をもって商店街を“探検”してみると……というお話です。

ふだんのおこづかいの見方が変わるかも!?

100円たんけん

コンビニで、おかしをおねだりしたら、「100円までよ」って言われた。
100円ショップに行ったら、なんでも100円だった。
じゃあ、よそのお店では、100円で何が買えるのかな?
ぼくとお母さんは、商店街をたんけんしてみることにした。
名付けて…100円たんけん!

はかりうりしているお肉屋さんで、100円ぶんのお肉を買ってみよう。
魚屋さんに100円で買えるものはある?
1800円のケーキ、100円ぶんならどのくらい?
八百屋さんは? お寿司屋さんは? パンやさんは?

子どもたちにとって身近なねだん「100円」で買えるものをくらべてみながら、
お金のやくわりや、もののねうちについて、考えるきっかけをくれる絵本。
読めば、ふだんのおこづかいの見方がちょっと変わるかも!?
親子で楽しめる、はじめてのお金絵本です。

主人公のぼくは、コンビニで100円分のおかしを買ってもらいました。次に100円ショップに行ったら、なんでもかんでも全部100円! ぼくはお店で

「おきゃくさんは ひとつ ひとつ、そのねだんに みあっているか どうか かんがえて ものを かっている。」

ということに気づきます。そこで、「100円」でどんな品物と交換できるか探検が始まります。そして、お肉屋さん、お魚屋さん、八百屋さんなどなど、いろいろなお店で100円分の品物を分けてもらうのですが、お肉でも牛肉100円分と豚肉100円分は量が違う、100円パーキングでも20分100円のところと60分100円のところがある、など、いろいろな商品は、その値段に見合った価値があるのか判断されて値段がつけられている、ということに気がついていくのです。

作者の中川ひろたかさんは、この本について「この絵本も一つの商品ですから、当然、値段がついています。この絵本が、値段に見合っている内容かどうか。それは、お客さんの判断にゆだねられています。きびしい~!」と述べられていますが、いろいろなものを調べて比べて考えられるこの絵本、探究のきっかけ、方法がわかる、お値段に見合う価値を持った読み応えたっぷりの絵本ですよ。

探究心の盛り上げ方

子どもがなにかに興味をもって夢中になる瞬間ってたくさんありますよね。それを繰り返していくことで探究する姿勢・力も自然と鍛えられていきます。小さな子どもの探求心、どうやって盛り上げてあげればいいのかな?と、ひとつ参考になる絵本がこちらです。

「さすがね!」って言われたい!

くまたのびっくりだいさくせん

くまの男の子くまたは、ママをびっくりさせて「くーちゃん、さすがね!」と言われたい!
ママのお気に入りのカップを花とダンゴムシで飾ったり、冷蔵庫のたまごにお絵かきしたり。
でも、ママは全然驚いてくれなくて……。
ママを喜ばせるために頑張る、くまたの子ども心が可愛い!
親子の愛が伝わる絵本。

くまたは、ちょっとやんちゃなくまの男の子。ママには注意されてばかり。ですが、「くーちゃん、さすがね!」と言われたくてママの顔を石で作ってみたら、とってもほめられて、くまたはうれしくなります。もっとママをびっくりさせようと、ママのカップにはっぱとダンゴムシを入れてみたり、冷蔵庫の卵に顔を描いてみたり、ママの帽子をセミのぬけがらだらけにしたり、ちょっと「さすがねー」と思わせたい方向があらぬところに行きつつありますが、ママはどこまでいってもノーリアクション。くまたは、なんとかびっくりさせようと、さらなる闘志を燃やして……。

くまたは「ママをびっくりさせたい」一念で、一生懸命考えぬきます。そして、驚くのはそれに対するママの態度。私でしたら「セミのぬけがら帽子」の時点でブチ切れ必至ですが、くまたのママは全く動じず、そのまま帽子をかぶって出かけてしまいますし、何をされても華麗にスルー。肝の座り具合が違いますよね。そんなママの態度に、くまたはさらに奮起して、どんどん「ママびっくり作戦」に没頭していってしまうのです。

子どものタイプによっても違うとは思いますが、ほめて持ち上げてが合うタイプもいれば、くまたは、あえて反応しないことで闘志を燃やすタイプ。ママはわが子をわかっているからこそ、あえての無反応だったのでしょうか。くまたのいたずら内容は、なかなか黙っていることが難しいレベルでしたが、子どもの“夢中”を応援できるママ、とってもかっこいいですし憧れです。

探究の基本姿勢 “没頭”

先ほどご紹介した絵本のくまたちゃんもそうですが、何かに夢中になる経験こそ、その先の探求心につながりますよね。そして、夢中の先には、その世界に入り込んでしまう“ゾーン”・”没頭”の世界があります。そんな深い深い「没頭」を描いた絵本をご紹介します。

美しき イマーシブ(没入型)絵本

じっとみるの

ビー玉、ゼリー、つぼみのなか……入ってみたらどんなだろう?ずっと手元に置いて、何度も見返したくなる。たちばなはるかが描く、美しき【イマーシブ(没入型)絵本】。

絵本の女の子は、対象をしずかにじっと見ます。そうすると、見つめた先のものに入り込むことができるのです。

きらきらしたビー玉、すきとおったソーダ水、虹色のシャボン玉。大好きな美しいものを見つめ続けて、その世界に自分も没頭、没入していく様が、美しい絵で見事に表現されています。

子どもたちの夢中になる力、没頭する力って、ものすごいものがありますよね。美しいもの、気になるもの、大好きなものに対して時間を忘れて見つめ続け、その世界に入り込むことで子どもたちの内面にまでその世界が広がり、どんどん想像が広がっていき、さらにその対象の不可思議さを知りたい、知ろうとする気持ちが芽生えていきます。

見つめ続け没頭していく、それがさらなる想像に飛躍していく、そうした姿勢が「探究心」の基本の姿勢であることを、美しい絵で感じ取らせてくれる絵本です。

試行錯誤しながら探究しよう!

最後に、探究の過程で不可欠な「試行錯誤」の経験にぴったりの、ふしぎなおもしろ絵本をご紹介します。

たったひとつの選択で、世界は一変する……

チョコかバニラか?

「チョコレートアイスにする? それともバニラ?」
たったひとつの選択で、世界は一変する……

アイスを食べてお腹が痛くなってしまった主人公のジミー。
トイレを借りようと偶然おとずれた研究所で、博士から3つの発明品を紹介される。
過去に戻れる「タイムマシン」、ひとの記憶を読みとれる「スクイッド」
そして、外の世界をスイッチひとつで絶滅させてしまう機械「キリトロン」。
さあ、君ならどの発明品を使ってみる?

ひとつひとつの選択が、物語を幸せな結末に、あるいは破滅へとみちびいていく。
読むたびに新たな物語が生まれる、アドベンチャー・ゲームブック!

この絵本は、めくって順番に読み進める普通の絵本とは全く違います。お話はコマ割りで漫画のようにならんでおり、コマはそれぞれ細い線でつながっています。そして、途中途中にある選択肢を選ぶことでお話の結末はすべて変わっていきます。その数なんと3856通り!

まず、最初に選ばなければいけない質問は「アイスクリームはチョコか、バニラか?」どちらかを選ぶことで別々のお話がスタートします。線をたどってページを飛び越えたり戻ったり、また改めて選択したり。そうすることで、ほのぼのとしたお話となったり人類の滅亡を止めるサスペンスドラマとなったり、ありとあらゆる方向のお話ができあがっていきます。なにせ3856通りなので、選ぶものをひとつ変えただけで毎回ちがうストーリーになり、夢中になって繰り返してしまいます。そうして「こんなストーリーにするには何を選べばいい?」「わたし、ハッピーエンドにしたい」など自分なりの読む目的も見つけることができるんです。

本当に斬新なつくりの絵本で、読み始める前にこの本独特のルールを理解しなければいけないため対象年齢は小学校高学年からとされており、絵本というよりはゲームブックとうたわれていますが、最近の子はゲームやiPadを使うことも多く、使われている言葉もそこまで難しいわけではないので、小学校低学年の子や私の周りでは年長さんくらいの子も楽しんでいます。

持ち運びもしやすいサイズなので、夏休みの移動中などでこの本で気軽に試行錯誤の練習をしてみてくだざい。ふだんの生活でも試行錯誤の思考練習につながりますし、探究力アップにもぴったりですよ。

さいごに

「探究」というとなんだか難しく感じますが、基本としては、興味をもって「知りたい」「やってみたい」と思ったことを、あれこれやってみたり調べてみたりして深めていくという流れかと思います。そうするためには、ちょっとしたことにも興味を持ったり夢中になったりできるようなきっかけや、すぐに「やってみよう」とできる姿勢を持ったりできるとよいですよね。

 

ちょうど子どもたちは現在夏休み中だと思います。我が家の子どもたちは数日間親元をはなれて習い事の夏合宿に行ってきたのですが、楽しかったこと、いつもとちがって不便だったことなど、いろんな気持ちを抱えて帰ってきました。「なんで合宿所のサラダはいつもしなしなだったのか」「日焼けをすると皮膚はどうなるのか」などいろんなちょっとした疑問も考えるようにもなりました。ふだんとちがった体験をすると、「おや?」「なんで?」と考えるよいきっかけになるなとしみじみいたしました。

夏休みは、ふだんとは違う生活や体験を多くする時期だと思います。大きな体験でなくてもいつもとちがうちょっとしたこと、例えば「100円たんけん」のような日常のふとした疑問を探ってみたりするのもいいですよね。そしてお休み中、時間を忘れて夢中になって没頭していき、自分から探究していく楽しさを子どもたちが感じ取っていけたらいいなと思います。そしてその楽しさが、あわよくば夏の自由研究にうまくつながれば言うことなしです(笑)。

自由研究のご参考に、こんな記事もあります。

今回ご紹介した絵本も、「探究」というと難しく感じますが、読んでみて「わたしもこんなことある!」「こんなことやってみたい!」と思うきっかけになったらよいなと思います。

徳永真紀(とくながまき)


児童書専門出版社にて絵本、読み物、紙芝居などの編集を行う。現在はフリーランスの児童書編集者。児童書制作グループ「らいおん」の一員として“らいおんbooks”という絵本レーベルの活動も行っている。7歳と5歳の男児の母。

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