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絵本で伸ばそう!これからの子どもに求められる力

入学・入園・新学年、子どもの成長を祝おう!

絵本には、子どもに働きかける様々な力が備わっています。絵本がきっかけで、新しいことにチャレンジする気持ちを持てたり、苦手なことに取り組もうと思えたりもします。子どもたちの世界を楽しく広げてくれる絵本は、子育て中のパパママにとっても、大きな味方になってくれること間違いなしです!

この連載では、とくに「これからの時代に必要とされる力」にフォーカスして、それぞれの力について「絵本でこんなふうにアプローチしてみては?」というご提案をしていきたいと思います。

成長を「祝う」こと

子どもたちの新しい生活が始まる4月。もう入園・入学式も終わり、新しいクラスでの生活が始まっていると思います。

年度の始めは子どもたちの成長の節目として式典もあり、とても喜ばしい気持ちもある反面「新しい環境でやっていけるのかしら?」「小学校に行き渋らないかしら?」とパパママの不安も募ると思います。

 

ですが、ここでパパママが不安そうな気持ちを表すのは禁物らしいのです。新しい場所・環境・知らない友だち、子どもたちも緊張している毎日。神経を張り巡らせている中、パパママたちの不安が子どもたちにも伝わってしまうと、子どもたちの不安も増幅されて、学校や園が「こわいところなんだ」とネガティブイメージを持つことがあるのだそうです。

 

本来、成長や旅立ちは、みんなで「おめでとう」と祝うもの。最近は、「小1の壁」ですとか小学校生活の最初が上手くいかないと行き渋りにつながるですとか、情報も多い分心配も募りがちですが、始まったからにはどーんと「大きくなったね、楽しんでいこうね!」と構えてあげることも大切なのかなと思います。

 

ですので、今回は子どもたちの成長をお祝いしつつ、これから先の未来を親子で楽しみにできるような絵本を読んで、子どもたちの成長をポジティブに祝いましょう!

成長の喜びを、わかちあおう

「きみは宝物」と伝える本

6さいのきみへ

きみが6才になるまでに、いろいろなことがあったね。
泣いてばかりだったきみ、好き嫌いがひどかったきみ、ボタンがなかなかはめられなかったきみ…でも、今は、とても素敵な6才。パパもママもきみのことが誇らしくて、まぶしい。卒園・入学おめでとう!!
…という気持ちを大切なお子様に伝える絵本ができました。
文章は、ベストセラー『子どもへのまなざし』著者の精神科医、佐々木正美さん。絵は、『魔女の宅急便』『魔法使いハウルと火の悪魔』などのイラストで人気の佐竹美保さん。
巻末には、佐々木正美さんからの、おとうさん、おかあさんへのあたたかいメッセージが入っています。育ちのシーンごとのアドバイスもありますので、お子様が小さい方でも、成長を見通しながら、楽しく読んでいただくことができます。
かわいらしい男の子の成長シーンをわが子に重ね合わせてしみじみと6年間を振り返ることもできます。

この絵本は、“6さい”という、未就学児という幼稚園・保育園児から就学して学校に通う時期を迎えた子どもとパパママへのお祝いと成長の喜びを描いた絵本です。

「せかいじゅうで いちばんの ねがお。」

と、赤ちゃん時代を描き、

「きみのなかでは かんのむしや へんなむしが いつもあばれていて、」

と、イヤイヤ期の大変な時期を語り、

「いつのまにか くつも はけるように なったね。」

と成長をつづっていきます。

生まれてから6歳までは、子どもの成長の中でも怒濤のごとき期間ですよね。何もできない赤ちゃん時代からそろって入学式に出られるまでになったこの6年を振り返るだけでもぐっときますが、さらにこの絵本の主人公は子どもの中でも「なかなか手こずるなあ」というタイプの子。

 

絵本の文を手がける佐々木正美さんは、子育てに思い悩むパパママたちへ乳幼児期の育児の大切さを伝える『子どもへのまなざし』(福音館書店)という著書でも有名な児童精神科医です。絵本のあとがきで、この子について「気が散りやすく、衝動性がめだち、落ち着きなく、よく動きます。けれどもこの姿こそが、子どもらしい子どもなのです。」と述べています。そして、こういった特徴が未来への種であり「これらの種を、変にいじくり回さないで、徐々に開花していくのを見守ることが、育児の本質」と説かれています。

 

子どもによって個性は様々ですが、6年の育児中に成長を見守りつつも時には「弓折れ矢尽きた……」という瞬間はどのご家庭にもあったと思います。でも、子どもがぐんぐん育っていく姿を見ることが親にとっての喜びでもあるんですよね。

「大切な相手と、喜びを分かち合うことが、人間にとっての最高の喜びなのです」と佐々木さんも述べられていますが、6歳を経て卒園し、入学するというこの大切な節目を、親子でぜひ喜び、尊びたいと素直に思える絵本です。

子どもを後押しする方法

子育て中、子どもに対して「ああしたらいいのに、こうしたらいいのに」とやきもきすることって日常茶飯事ですよね。あんまり口出ししすぎると「今、やろうと思ってたし!」とも言い返されてしまいます。

児童心理学の世界では、子どもが自ら動くようにするにはやっぱり「その気にさせること」が大事なようです。

その気にさせて、あとは自分から羽ばたいていってちょうだい! と子どもを後押しする気持ちになる絵本があります。

「その気」になるのが大事

その気になった!

ひとは、何かになりたくなったとき、「かたち」から入るのもいい。
そうしているうちに、気持ちも高揚していく。つまり、その気になる。
人間、いろいろなものになれる。まして子どもだったらなおのこと。

絵本では、いろいろな子どもたちが、野球の格好をすれば「野球をやるぞ」という気になり、エプロン・三角巾をつければ「お料理のことは まかせなさい」という気になり、戦国時代の武士の格好をすれば「いさましく たたかうぞ!」という気になっていきます。

こうした「形から入る」「お膳立てする」って、大人でも“その気になる”ために大事な要素ですよね。いつ、どんなときに“その気になる”かなんて、それぞれの子のタイミングなので、ぜんっぜん分かりませんけれども、親はひたすらその気にさせるために舞台をととのえ、外堀を埋め、さあ、あとはやる気になるのを待ちましょう! それが、親としてできる応援なのかな? とこの絵本を読むと改めて思います。いつその気になるのー! と思いつつ、気長に待ちましょう!

子どもの世界はどんどん広がる

子どもたちが新しい環境に入っていくとき、子ども本人だけでなくパパママも「どうなるかしら?」と不安になってしまうことってありますよね。

そんなとき、パパママから見える世界だけではない、いろんな世界を子どもは持っていて、その中でいろんな姿でがんばっていくことができるのだから! と明るい気持ちになる絵本があります。

なんにだってなれる…!

どれもみーんなアントニオ!

アントニオってすごいんだ。みためは ただの男の子なんだけど なんにだってなれる…  
子どもの自由なこころとからだを 生き生きとした文と絵でつづる。ボローニャ国際絵本原画展に入選した注目のイラストレーターの絵本。

アントニオという男の子がいます。ママとパパといるときは、二人の息子でわがままを言ったりします。でも、おばあちゃんといるときは孫になり、おばさんの子といるときはいとこになり、サッカーをするときはフォワードになり、学校に行けば生徒に、図書室に行けば本の虫になります。ほかにも、アントニオは水泳の習い事に行けば水泳選手に、楽しいお話を書いては作家になり、いろんな場所でいろんな姿を見せ、いろんな場所でいきいきと過ごしています。

パパママからは、まだまだちっちゃな子、と見えているかもしれません。ですが、子どもたちはいろんな世界にどんどん飛び込んでいきます。どれもみんな“その子”なのですが、子どもたちはしなやかに、いろんな世界を生きていくことができる、そんな力強さを信じさせてくれる絵本です。

支える存在が、きっといる

子どもが生まれて、「この子の人生はどうなるんだろう?」とパパママは未来を想像すると思います。どう成長してどんな大人になるのか、期待や心配はつきないですし、順序的には子どもの人生を最後まで見届けるのは難しくもあります。

ですが、その子の人生にはそっと寄り添い支えてくれる存在がきっとあります。

そうした希望と未来への祈りがつづられている絵本が、こちらです。

数に親しむ、ひそかなベストセラー絵本

あかり

一本のろうそくがともすやさしいあかりは、少女の心のよりどころだった。
やがて少女は大人になり、ろうそくは木箱の中で長い時間を過ごすようになり・・・。
詩情あふれる文章と美しく幻想的なイラストで描く感動作。

新しいろうそくに火がつけられ、生まれて間もない女の子を照らします。このろうそくは女の子の幸せを願ってお母さんが作ったものです。それからというもの、女の子にとって大切な夜やつらい夜には女の子によりそい、やわらかな光で女の子を包んできました。女の子は成長し、様々な時にろうそくは点けられ小さくなっていきました。女の子は、あかりに守られ力づけられ、人生を進んでいったのです。

ろうそくと女の子の関係が、「大きなのっぽの古時計」のようで、人生を共に歩んでいく存在の心強さが胸に響く物語です。

子どもたちが成長するにつれ、様々な壁が立ちふさがり、岐路に立たされることがあるでしょう。そして、それを私たち親が助けることはできないかもしれません。ですがそんなとき、子どもたちを支え寄りそうものがあるはず、と、子どもたちを不安ではなく希望をもって送り出せる、そんな心持ちとなれる子どもの幸せを祈る絵本です。

歩み続ける子どもたちにエールを

子どもたちはどんどん成長していきます。さまざまな節目があり、それぞれいろいろな道へ歩み出していくと思います。そんな子どもたちの新しい人生にエールを送る絵本がこちらです。

新しい人生をふみだす人に贈る物語

きみの行く道

子どもから大人まで、新しい人生をふみだそうという人に贈るユーモアと冒険に満ちた物語。現代のマザーグースといわれるスース博士の、人生のヒントに満ちた作品。

「おめでとう。今日という日は、まったくきみのものです。きみのゆくての、あの大きな世界にむかっていざ、旅立ち!」

と、お祝いと旅立ちへのエールから始まるこの絵本。どうやって行く道を選び、行く道の中でどんなスランプが起こり、どう迷い悩みながら道を行くか、ユーモラスにシミュレーションしながら進んでいきます。それは人生そのものの道筋でもあるのですが、作者のドクター・スースは、

「きみの頭にはのうみそがたっぷり」

「きみのくつには足がぎっしり」

「きみなら、山だって動かせるんです!」

と、力強く子どもたちを鼓舞し続けます。

作者のドクター・スース(1904年~1991年)はアメリカの絵本作家・児童文学者・漫画家で、「ぞうのホートン」シリーズなどでも有名です。この絵本はドクター・スースが86歳(1990年)の時に発表した作品で、もう刊行から30年以上たちますが、そこに込められた、人生を突き進んでいく人々へのエールはまったく古びず、今も子どもたちの背中を後押ししてくれます。

昨今の時代の変化は非常に早く激しいもので、大人が自分たちの子ども時代を参考にして子どもたちにアドバイスすることはなかなか難しくなってきています。ですが、テクノロジーが進んだり求められる流行などが変わったりしても、「人生の進み方、選び方」の本質は変わらないことをこの本からは感じます。

細かいことを子どもたちに言っても意味はありませんが、人生を歩き続けることのすばらしさと大切さを、この本を読んで伝えられたらと思います。

さいごに

親の身になりますと、子供の成長はとても喜ばしいものなのはまちがいないのですが、「もうあの、よちよちむちむちの赤ちゃんじゃないんだ……」という寂しさだったり、自分の半生を振り返って「いろんな壁を乗り越えていくことができるのだろうか……」という不安だったりも抱えてしまいますよね。そして、そこは人間として生まれた以上避けては通れない部分なので、親としては、困難を乗り越えられるよういろいろな物を身につけさせてあげたいと思ってしまうのだと思います。

 

ですが、親があれこれ思って与える以上に、子どもたちは、新しく触れる世界や環境からの方こそ、多くのことを学び取ると思います。ですので、「うちの子大丈夫かな?」と思うことはあっても、成長して新しい世界に入っていくことは喜ばしいこと、成長過程においてとっても大切なことと、これらの絵本からぜひ再確認してみてください。

たしかに、新しい生活に入っていった当初は子どもたちの顔も体もガチガチだと思います。うちの子の入学式の写真は、顔が固まっていて式の入場も手と足が同時に出ちゃって「こりゃまいった」と思いましたが、いろいろな経験を経てたくましくなじんでいきました。

 

進級、進学、おめでとうございます。そして、パパママもおつかれさまです。ぜひ、親子で節目を祝い、絵本を読みながら、成長のめでたさを実感してみてください。

徳永真紀(とくながまき)


児童書専門出版社にて絵本、読み物、紙芝居などの編集を行う。現在はフリーランスの児童書編集者。児童書制作グループ「らいおん」の一員として“らいおんbooks”という絵本レーベルの活動も行っている。7歳と5歳の男児の母。

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