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絵本で伸ばそう!これからの子どもに求められる力

絵本で育む「時間感覚」と「数の概念」

絵本には、子どもに働きかける様々な力が備わっています。絵本がきっかけで、新しいことにチャレンジする気持ちを持てたり、苦手なことに取り組もうと思えたりもします。子どもたちの世界を楽しく広げてくれる絵本は、子育て中のパパママにとっても、大きな味方になってくれること間違いなしです!

この連載では、とくに「これからの時代に必要とされる力」にフォーカスして、それぞれの力について「絵本でこんなふうにアプローチしてみては?」というご提案をしていきたいと思います。

時計とかず

春も近づき、子どもたちの新学期の準備も迫りくる季節にもなりました。

4月からは新しい学年になりますね。特に「新一年生」となるお子さんをお持ちのパパママは、いろいろな心配があると思います。中でも「うちの子、ちゃんと時間通りに学校に行けるのかしら?」「時間割通り行動できるのかしら?」という心配は上位にくるのではないでしょうか。

 

決まった時間に学校に行くためには、逆算して何にどのくらい時間がかかるのか予測して行動する必要がありますよね。ですが、親が「早くして」と言わないと自分からはなかなか動いてくれません。我が家でも「時計見て! 動いて!」と朝は声を張り上げっぱなしです。

 

また、小学校だけでなくとも集団生活が始まると「数の概念」が日常生活で大事になってきます。クラスで並ぶために順番を把握したり、みんなに物を配る時何個ずつかを考えたり、給食を配膳するにも何をどのくらい盛るのか量を調節する必要もあります。

 

「時計を読む」「数をかぞえる」という勉強は小学1年生でしっかり勉強しますし、計算ができる必要はないのですが、「時間」を意識する、だいたいの「数」の大きさを把握しておく、ということは集団生活でより大切になってきます。

ということで今回は、春からの新生活に活用できるよう、子どもたちが「時間を意識」し「数の概念」をつかむことに効果的な絵本をご紹介していきたいと思います。

時間感覚を意識する

まずは、時間感覚を伝えてくれる絵本です。

時計について知ったり時計を読む手助けをしてくれたりする絵本には、名作の『とけいのほん①、②』(まついのりこ さく 福音館書店)がありますよね。この絵本にお世話になって時計がよめるようになったお子さんも多いのではないでしょうか? そして、時計が読めるようになり、「時間」という存在を知った子どもたちに、さらに読んでほしいのがこの絵本です。

時間の長さと時間軸

チックタック じかんってなあに?

一秒、一分、一時間といった時間の長さや過去、現在、未来であらわされる時間軸について、優しい語り口で教えてくれる絵本。

時間って、目には見えませんしずっと前からやってきてこの先もずっと続いていく感覚って冷静に考えれば難しい概念ですよね。そんな時間感覚を、この絵本ではとてもていねいにわかりやすく教えてくれます。

例えば、「1びょうかんは、まりをつく、えほんをぱらっとめくるくらい」、

「1ぷんかんは、まちかどから、つぎのまちかどまで、とことこあるいていくくらい」、「1じかんのあいだには、つみきで大きなまちをくみたてることができます」

など、この時間は何をやるくらいの間なのかを具体的に示して、時間のそれぞれの感覚を伝えてくれます。

そして、1日はどのくらいか、1週間、1か月、1年はどのくらいか、そして時間は、赤ちゃんだった時から大きくなったその先もずっと続いていき、止まることもおしまいになることもないということを、絵本全体で語ってくれます。

この絵本は1960年にアメリカで生まれた絵本です。もう60年以上前ですよね! 原作者のグレイクさんがこの絵本を考えたきっかけは、母親として子どもたちに“時間”のことを教える難しさを感じたことだったそうです。私の子どもたちも、1時間ってどのくらいか、昨日や明日が前なのか後なのか、小さなころはいつも混乱していました。「時間」はいつも私たちの生活に当たり前にあって生活に不可欠なものなのに、その不思議さを子どもたちに伝えることは、今も昔も難しいということを知りしみじみとしてしまいました。

子どもにとっても大人にとっても「時間」というものは平等に与えられるものであり、意識していないとあっという間に過ぎさってしまうものです。その不思議さと大切さを、この絵本は考えさせてくれます。

そして、毎日は「時間」とともにある、ということを、まだ時計が読めない小さな子でも楽しくわかる絵本に、こちらがあります。

幼稚園のスケジュールと一緒に、時間を学ぼう

アニメおさるのジョージ とけいえほん いま なんじ?

おさるのジョージの時計絵本が登場!
なかよしのアリーと一緒に、幼稚園に遊びに行くジョージ。幼稚園では、時間にあわせてお話を聞いた り、砂遊びをしたり、お昼ご飯を食べたりします。最後は、友だちと一緒に大きなお城もつくって、幼稚園での一日を存分に楽しみます。

おなじみ、おさるのジョージが、なかよしのアリーにくっついて幼稚園に行きます。7時は出かける時間、8時は幼稚園バスが来る時間、9時は幼稚園に着く時間などなど、わかりやすい幼稚園のスケジュールとともに、付属の時計の針を動かして一日の時間感覚を得られる絵本です。

ジョージが移動するのと一緒に、時計の針をぐるぐるとまわして時計に親しめ、長い針と短い針の意味も理解していくことができますよ。

時間と生活は密着している

時間感覚のことを考えた次は、毎日の生活と時間は切っても切れない関係だということを如実に感じられるこの絵本を。

チキチキチキチキいそいでいそいで

コウくんがみつけた古い腕時計がチキチキチキチキすごい早さで動きだすと、みんなの胸もチキチキ鳴りだして、街は大さわぎに!

コウくんは物置で古い腕時計を見つけ、ねじをまくと腕にはめました。時計はコッチリポッチリ動き始め、コウくんの胸もいっしょにコッチリポッチリ鳴り出しました。そしてコッチリポッチリと一日は終わります。

しかし次の日、腕時計は昨日と違ってチキチキチキチキと早い音を立てて動いています。コウくんの胸も一緒にチキチキチキチキとなり出し、コウくんは、

「たいへんだ!」

とチキチキチキチキ急いで飛び起き、大急ぎで学校の準備をしだしました。時計を見たママの胸もチキチキチキチキと鳴り出し、

「おとうさーん、はやく おきてくださーい」

と叫びました。お父さんの胸もチキチキチキチキと鳴りだし、一家そろって急いで動き出します。それを見た犬も、となりのチエちゃんも、向こう隣のおばさんも、人から人へ胸から胸へ、チキチキチキチキいそいでいそいで、どんどん伝わりみんなあわてて動き出します。チキチキチキチキいそいで一日を終えたみんなは……?というお話です。

最近、タイムパフォーマンス=タイパなどとも言いますが、時計の音がチキチキチキチキ急ぎ始めると、みんなもこぞってチキチキチキチキ急ぎ始めてしまいます。私たちは時間とともに生活していますが、時間を「自分のために」使うことができるのか、それとも時間に操られてしまうのか、ユーモラスなお話にのせながら、なかなか深遠なテーマを考えさせられる絵本です。

学校と時間

時間の意識が学校生活でどのように大切なのかを知るには、まず小学校生活をリアルに考えていきましょう。

小学1年生の1日、1年、6年間

小学校の生活

「小学校って、どんなところ?」「小学校では、何をするの?」…新しく小学生になる子どもの、疑問と不安、ワクワクに答える生活絵本。小学1年生の1日、1年、小学校6年間の生活が、オールカラーのイラストでわかる。人気絵本作家・はまのゆかのイラスト。

小学生になると、なぜ時間を意識する必要があるかというと、やはり時間割による学習が始まるからですよね。そして、そのための教材の準備をして決まった時間までに登校しなければならないですし、帰ってきてからも宿題をする時間も考えなければいけません。

そうした、時間に沿った生活っていったいどんなものなのか、子どもたちと一緒に読んでもらいたいのがこの絵本です。こちらは、リアルな小学生生活が描かれているので非常にイメージしやすくなっています。

特に「集団登校」の場面はとても参考になります。何時に上級生たちと集まって、分刻みで学校に向かう様子が描かれています。今の小学校は学校管理や防犯対策という面もあり、登校下校時間ががっちり決まっています。地域にもよると思いますが、うちの子の通う小学校は8:15~8:25の間に校舎内に入る決まりとなっており、それまでは校舎は閉まっています。遅刻の場合は親の付き添いが必須なので、この短い間に登校するには時間を予測して準備していかなければいけません。

この絵本では、小学一年生の一日だけでなく学校行事や学年が上がったらどうなるかまで網羅されているので、小学校生活の一連を親子で考えることに役立ちますよ。

数とはなにかを把握する

そして、子どもたちに「数ってこんなに身近なんだよ」と数との出合いの入門編の絵本に、こんな絵本があります。

数に親しむ、ひそかなベストセラー絵本

あかたろうの1・2・3の3・4・5 おにのこあかたろうのほん

あかたろうが外から帰ってくるとおかあさんがいません。おばあちゃんにはじまって、次から次へと電話でお母さんを追いかけます。

鬼の子のあかたろうが帰ると、おうちにおかあさんがいません。おばあちゃんのところかな?と思ったあかたろうは、

「よし、ぼく ひとりで でんわしちゃおう」

と考えて、おばあちゃんの家に電話をかけます。するとおばあちゃんは、おかあさんなら八百屋さんに寄ってるはずよ、と教えてくれます。あかたろうは八百屋さんにも電話をかけ、次々とおかあさんのいそうなところへ電話をかけていきますが……。

この絵本は発刊からかなり経っていて、あかたろうが使っている電話もダイヤル式の電話でとっても懐かしいのですが、子どもに数を知ってもらう最初の絵本として、現代にいたるまでひそかなベストセラーとなっています。なぜかといいますと、とってもよくできておりまして、まず「電話番号」のところで「123の456」などと数字の読み方を知ることができます。さらに、「にんじん1ぽん、たまねぎ2つ、じゃがいも3つ」などとおかあさんのお買い物をたどりながら数とは、物の量の大小を表すことを、段階を追って教えてくれるからなんです。

また、最近の絵本で「物の分け方」というわり算の概念が日常でとっても大事、ということが自然に理解できる絵本があります。

し烈な「分けっこ」!

わたしたちのケーキのわけかた

 わたしたちは5人きょうだい。だから、なんだって5で分けなくてはなりません。
 
 牛乳1本、ひとふくろのお菓子、りんごにチキン、せんぷうき、キックボードも、たった一人のおじさんも。
 ほしいものを手にするために、きょうだいそれぞれが知恵をしぼり、個数や体積、角度や時間をすばやく考慮しながら、言葉をつくしてアピールしたり、算数を駆使したり、道具を工夫したりして、毎日たくましくサバイバルしているのです!

 じっさいに5人きょうだいの次女だった作者の、子ども時代の体験から生まれた楽しい物語。シンプルな絵柄ながら、読むごとに、5人の性格のちがいや、随所にちりばめられた遊び心など、ユーモアのセンスが光る細かいディテールが見えてきます。

とびきり愉快で、読後にはふわりと幸せな余韻がのこる、韓国発の絵本です。

主人公は5人兄弟。ですので、なんでも5つに分けなければいけません。分けるのが簡単なものもあれば難しいものもあります。分けるものは食べ物だけではなく、一つの物を使うために時間も分けっこしなければいけませんし、扇風機の風を平等に浴びるために角度も計算しなければいけません。なんでも分けるのはなかなかにシビアであることがひしひしと伝わります。

5人兄弟の生活のし烈さがユーモラスに伝わりつつ、「分けっこ」というのが日常生活や社会でいかに重要か、そして、なんでも分ける「わり算」だけでなく、5人いることが「かけ算」にもなるんだよ、ということがあったかく伝わる、計算が身近に感じられる楽しい絵本です。

私たちの生活は算数に満ちている

最後に、題名からは逆に算数が怖くなりそうですが、子どもたちがめちゃめちゃ盛り上がり、私たちの生活と「算数」は非常に密接だと子どもたちが納得する絵本をご紹介します。

あらゆるものが算数の問題に!

算数の呪い

「たいていのことは、算数の問題として考えられますよ」先生の言葉で、何もかもが算数に化けてしまった女の子のとんでもない一日。

ある月曜日の朝、フィボナッチ先生は

「みなさん、たいていのことは、算数の問題としてかんがえられるんですよ」

と言いました。すると次の日の火曜日が算数の問題だらけになってしまったのです。

7時15分に起きると、さっそく問題ができました。

服を着るのに10分、朝ごはんを食べるのに15分、歯を磨くのに1分かかります。さて、

 

①  バスは8:00にきますが、まにあいますか?

②  1時間は何分ありますか?

③  1つの口に歯は何本ありますか?

 

こんな調子で何を見てもぜんぶが算数の問題に見えてきます。

学校に行って、ケイシーがエリックの耳をひっぱっているのをみても「クラスには耳は何個ありますか?」という問題に見え、お昼ご飯の時間も社会や体育や図工の時間も全部算数の問題に化けてしまいます。フィボナッチ先生がかけた算数の呪いで主人公は算数ゾンビになりかけますが……というお話です

フィボナッチ先生の名前は800年前のイタリアの数学者で「フィボナッチ数列」を発見したことで有名な“レオナルド=フィボナッチ”からとられています。「たいていのことは算数の問題としてかんがえられるんですよ」という言葉通り、起きた瞬間から日常は算数に満ちあふれてしまいましたが、たしかに、なにをするにしても数や算数につなげようと思えばつながることに気づきます。

 

「算数」というと子どもたちはちょっと嫌がるかな?と思いきや、読み始めると全てが算数でしか考えられなくなる呪いにゲラゲラ笑い始め、読み終わると自分でも算数の問題をつくり出してしまうという、子どもたちと数や算数の距離が縮まる、面白くて画期的な絵本です。

さいごに

時間を意識して行動するって、日常生活の基本ではありますが大人でも難しいですよね。最近の子どもたちは本当に忙しいですし、小学校に上がると、こなさなければいけないこともたくさん。そして、生活には数の概念も必要になってきます。

 

ですが、早くから時計を読めたり計算ができたりするというよりも、どちらも日常生活では切っても切れない大事なものなだけに、生活上、「どう使って付き合っていくか」という部分を身につけていければと思っています。計算は、学校でしっかり勉強することができますが、それを日常に応用するには、毎日の中で時間感覚・数感覚を意識していくことが大切になります。何時に起きて準備をしたりお菓子を等分に分けたりを毎日の中で行うことで自然と感覚も身についていきます。

 

ただ、人生はスケジューリングだともいいますが、あんまり「いそいでいそいで」と日々を送るのも苦しくなってしまいますし、子どもには全てをチキチキチキチキ進めていくだけでなく「ボーッと」する時間も絶対に必要です。

 

時間や数に振り回されるのではなく、自分のリズムで使いこなせるよう、今回の絵本をご参考に、「時間も数も、自分らしく生活するためのツールにしよう」と、親子で楽しくイメージしていってみてください。

徳永真紀(とくながまき)


児童書専門出版社にて絵本、読み物、紙芝居などの編集を行う。現在はフリーランスの児童書編集者。児童書制作グループ「らいおん」の一員として“らいおんbooks”という絵本レーベルの活動も行っている。7歳と5歳の男児の母。

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