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絵本で伸ばそう!これからの子どもに求められる力

絵本で学ぼう 行事で結ぶ「家族力」!

絵本には、子どもに働きかける様々な力が備わっています。絵本がきっかけで、新しいことにチャレンジする気持ちを持てたり、苦手なことに取り組もうと思えたりもします。子どもたちの世界を楽しく広げてくれる絵本は、子育て中のパパママにとっても、大きな味方になってくれること間違いなしです!

この連載では、とくに「これからの時代に必要とされる力」にフォーカスして、それぞれの力について「絵本でこんなふうにアプローチしてみては?」というご提案をしていきたいと思います。

「五節句」を中心に、家族で読みたい行事の絵本!

2024年が始まりましたね。大掃除や年賀状、おせちの用意など、新しい年を迎える準備をみなさまそれぞれ行われたことと思いますが、今回は新年を迎え、改めて「行事」について考えたいと思います。

 

まず、行事がなぜ「家族の力」に結びつくと思いますか? それは、「行事に取り組むためには、家族の和が必須!」ということからです。いきなり何を言ってるんだという感じですが、先日子どもの幼稚園で、しめ縄作りに参加してきました。そこで日本の年中行事についても話を伺いましたが、「行事を滞りなく行うには、相談し合える家族でなければいけない」という話を聞いたんですね。

考えてみれば、行事の準備はこまごまあり、年末だけでも大掃除に適した日、正月飾りを飾る日があり、そしてお節を準備し年越しそばを作り……などなど、真面目にこなすためには話し合いながら逆算して予定を考え、家族手分けして行う必要があります。なんの相談もなく協力し合う姿勢もなければ空中分解しますよね。ですので、行事を大切に行うにはまず「家族の和」が必要となってきます。

 

ということで、日本の行事には伝統的な面もありますが、今回は、社会の最小単位「家族」を運営していくために、古くから行事とどう向き合ってきたのか、行事によって家族はどう結びつくのか、ということをテーマに絵本をご紹介していきたいと思います。

お正月~人日(じんじつ)の節句

ここからは、日本の行事の核となる「五節句」を中心に行事の絵本をご紹介したいと思います。節句とは「季節の節目となる日」のことを指し、古来より、季節の変わり目に無病息災・豊作・子孫繁栄などを願って、お供えものをしたり邪気を払ったりしてきました。

お正月は、現在では「五節句」には含まれていませんが、かつては節句として数えられており、一年の初め、新しい年を迎えるお祝いとして「お正月」の絵本からご紹介していきます。

それぞれの形に込められた人々の想いとは

しめかざり

お正月、家々の玄関に飾られた"しめかざり"を、みなさんもきっと見たことがあるでしょう。どんな形だったか、覚えていますか?地域地域でちがうのはもちろん、作り手や飾る場所によってもしめかざりの形はさまざまで、日本全国には鶴や亀、蛇、馬、柄杓や俵など、驚くほどいろいろな形のしめかざりがあります。基本的にワラだけで作られるしめかざりの造形の美しさを見ながら、そこに込められた人々の想いをたどります。

お正月の前に、家の門や玄関に飾る“しめかざり”。しめ縄ともいいますが、これは「年神さま」というお正月の神さまをお迎えする目印となります。この絵本は、そんな“しめかざり”の作られ方や、日本各地のしめかざりの種類などを紹介しています。

しめ縄やしめかざりを飾ることで「ここは神聖な場所ですよ」と魔除けを行い結界をはる意味があります。大そうじをして清めた場所に、しめかざりを飾り「ここは年神さまにふさわしい場所ですよ」とお伝えすることができるのです。

絵本には、しめかざりの基本「ゴボウジメ」のつくり方も載っています。稲わらさえ手に入れば家庭で作ることもできるので、機会があったらぜひチャレンジしてみてください。子どもでもできるのですが、わらをなう人締める人と二人で協力して作る必要があり、こうしたところでも、行事は人が協力して作るものなのだなということが感じられます。

そしてお次は、お正月とは「縁起を担いで運を良くしたい!」という人々の思いのかたまりということがとてもよく伝わる絵本です。

新年が良い年になりますように

開運えほん

はなちゃんは新年を前に、門松やお飾りを飾りました。すると除夜の鐘とともに、年神様がやってきたのです。でも、大人には、見えないみたい…。はなちゃんは、年神様と一緒におせちやお雑煮を食べ、初詣に行って、縁起物を買って、初夢を見ます。ところが夢に魑魅魍魎が現れて…!? 新年が良い年になるよう、日本のお正月には様々な「開運の願い」がこめられています。そのいわれを知り、一緒にやってみたくなる絵本です。

この絵本には、新しい年に年神さまをお迎えして良い運をいただきたいという「開運」の秘訣がてんこもりです。かどまつは、年神さまを待っていることの目印、かがみもちは年神さまへのお供え、お節料理で開運する食べ物を食べ、初詣で今度は地域の守り神さまに開運を祈るという、お正月の開運知識をコンプリートすることができます。

かがみもちは、年神さまへのお供えとともに、家に来た年神さまが座る場所でもあるのですが、そんなところもしっかり描かれていて、隅から隅まで、家族総出で開運を願える絵本です。

また、最近、お正月を知るのにとっても最適なすてきな絵本が出たのでご紹介させてください。その名もずばり、 『おせち』(文・絵 内田有美 料理・満留邦子 監修・三浦康子 福音館書店)「こどものとも年中向き 2024年1月号」です。

おせち(こどものとも年中向き)

 

作: 文・絵: 内田 有美
料理:満留 邦子
監修:三浦康子
出版社: 福音館書店

 

この絵本はリアルタッチの絵で黒豆や伊達まきにはどんな願いが込められているか、そして一の重や二の重などのお重の説明まで、知りたいことがみっちり詰まっています。私の周りの小さな子のいるご家庭で大人気。実際にも売り切れ続出という月刊絵本です。

この絵本を読んだ後、子どもと一緒に「数の子は、子どもがいっぱい生まれますようにって意味だよね」などとお節の準備をするのも楽しいですよ。

そしてお正月から続いては、五節句の一つ「人日の節句」です。これは1月7日の七草がゆの日なんですが、皆さま、この日が五節句だとは知ってましたか? 私はお正月のつながりと思いこみ、息子の幼稚園でようやく知りました(焦)。

 

人日の節句の起源は古代の中国にあり、7種類の野菜の汁物を食べていたそうです。それが日本に伝わり、奈良時代にはお正月に若菜を食べる風習があり、平安時代になると「七草粥」を食べて無病息災を祈る行事の原型が出来上がりました。そんな七草がゆにまつわるお話です。

おばあちゃんと一緒に、七草がゆを知ろう

おばあちゃんのななくさがゆ

1月7日は七草の日。きりちゃんは、おばあちゃんといっしょに七草がゆを作ることになりました。この日に七草がゆを食べると、1年間、健康にくらせるんだって――。おばあちゃんから行事の「いわれ」を教わりながら、おいしい七草がゆを作ります。巻末には、料理研究家・堀江ひろ子先生による七草がゆのレシピつき。

きりちゃんは、おばあちゃんに七草について教わりました。一月七日に七草がゆを食べると一年間健康で暮らせると言われているのです。おばあちゃんは、きりちゃんたちを連れて野原に七草を探しに出かけ、見つけた七草でおばあちゃんと一緒におかゆを炊きます。年長者からこうして風習を受け継いでいくことが伝わりますね。

お節料理も七草がゆも、子どもにとってはそこまで好むものではないかもしれません。ですが、自分の子どもの頃を思い出しても、「くわいは“芽が出る”から出世するんだぞ」などと意味を伝えられると、なんだか特別感を持ちながら食べた記憶があります。子どもは、こうした意味合いを知ったり自分で準備したりすると、「やってみよう食べてみよう」となることが多いと思います。なぜこれを用意するのか、どんな意味合いがあるのか、ぜひご家族で一緒にやってみてください。

上巳(じょうし)の節句・ひなまつり

次に、三月三日、上巳の節句(桃の節句)がきます。

桃の節句は、女の子の幸せや成長を願う行事で、おひなさまを飾って、ひしもち、あられ、桃の花などをお供えします。おひなさまは、元々人の代わりに厄を負ってもらい川に流した「流しびな」が由来だそうです。

そんな、桃の節句のかわいいお話がこちら。

森に出かけたおひなさまたち

もりのひなまつり

森の近くの家の蔵に住んでいるねずみばあさんのところに、のねずみたちから「森のひなまつりをしたいので、おひなさまを森に連れてきて下さい」という手紙が届きました。そこで、ねずみばあさんはおひなさまといっしょに森に出かけました。森でおひなさまたちは、動物たちと歌ったり、踊ったり楽しく過ごしました。ところが、帰り道で、雪が降り始め、蔵に戻ったおひなさまたちは、すっかり汚れてしまっていました。さあ、大変!

小さな森近くの蔵の中に、ねずみばあさんが住んでいました。ある日の朝、ねずみばあさんのところに、のねずみ子ども会から手紙が届きます。

「ことし、わたしたち のねずみこどもかいは もりのひなまつりを したいとおもいまチュ‼ ねずみばあちゃん いっしょうのおねがいでチュ‼ おひなさまを もりへ つれてきてください。おねがいしまチュ‼」

そんなとってもかわいいお願いに、蔵の中のおひなさまたちも大乗り気。おひなさまたちは箱から出ると、ねずみばあさんと共に森へ向かいました。おひなさまたちがねずみの引く車に乗る様は、とってもきれいで華やか。ねずみたちは大喜びで、他の動物たちもやってきます。おひなさまたちは、のねずみの子どもたちが元気に育つよう、森の動物たちが幸せに過ごせるよう、祝い、舞い踊りました。そして、おひなさまたちは、人間のひなまつりに間に合うよう蔵の中へ急ぎ戻るのですが……。

おひなさまを目にすると、きれいで気高くて、なんだかドキドキしますよね。そんな晴れの日のお祝いを、のねずみたちだってしたくなるのも無理はありません。そして、おひなさまのお祝いが子どもたちの幸せと健康を願うものだという、ありがたい行事なのだということが伝わってきます。

端午(たんご)の節句・こどもの日

五月五日の端午の節句は、こどもの日ですね。端午の節句は、男の子の成長をお祝いする日で立身出世や健康を願います。こどもの日は戦後に決まった祝日で、「子どもの幸福をはかり母に感謝する日なのだそうです。こうした端午の節句は、こいのぼりに兜に菖蒲に柏もちと、用意するものがたくさん。そんな情報をふんだんに盛り込んだ絵本がこちら。

読んで学べる端午の節句

こいのぼりぐんぐんこどもの日!

こどもの日、体の弱いたつやがベッドからこいのぼりをながめていると、なんとたつやに話しかけてきました! こいのぼりののぼる君が連れて行ってくれたところは…!? 大好評の豆知識も付いた、読んで学べる1冊。

病気で寝ているたつやくんのところにこいのぼりが、やってきて大冒険をしていきますが、その時々で、こいのぼりの由来や、端午の節句になぜ菖蒲湯に入るのか、などなどを楽しく教えてくれます。そして、柏もちやこいのぼりのつくり方もくわしく掲載されていて、家庭で楽しく端午の節句を祝うヒントがたくさん詰まった絵本です。

七夕(しちせき)の節句・たなばた

たなばたは、毎年七月七日の夜に願い事を書いた短冊や飾りを笹の葉につるし、星にお祈りをする行事です。もともとは、神様を迎えて秋の豊作を祈り人々の厄を払うという意味がありました。

そんな、人々の七夕祭りの1ページを紡ぎあげた絵本が、こちらです。

七夕の夜、短冊の言葉たちは……

たなばたまつり

季節と行事のよみきかせ絵本。
もうすぐ七夕。町の皆は広場の笹に願いごとを書いた短冊を飾りました。
「たなばたまつり」の夜、短冊を離れた願いの言葉たちは空へと上っていって……。美しくて心あたたまるお話です。

七夕が近づき、みんなが短冊を書きに集まってきます。字が書けないたーくんはおねえちゃんの顔を書き、おじいちゃんと孫、受験生のお兄さん、毎日たくさんの人がやってきては短冊を笹につるしていきます。そして七夕まつりの夜に、短冊の願い事の言葉たちは夜の空にのぼり、星に届いていくのです。

たくさんの人々の願い、そしてそれが叶ってほしいという思いを、キラキラと光る星空に描き出した美しい絵本です。

ちなみに、なぜ短冊を笹に飾るのかは明確な由来はないそうですが、笹は生命力が高く邪気を払う植物として大事にされてきたからという説があります。

七夕の夜には短冊を用意し、家族それぞれ願いを伝えてみてはいかがでしょうか?

重陽(ちょうよう)の節句・おつきみ

五節句の最後は重陽の節句。九月九日に行われ菊の節句とも言われます。菊は邪気を払い長寿の妙薬といわれるため、厄を払い健康を願う行事とされています。ですが、いまいち影が薄い行事ですよね。秋は収穫の秋祭りや十五夜のお月見もあり、現在ではこれらと合わせて祝われることが多いのです。

そんなわけで、ここでは子どもたちにもなじみ深い「おつきみ」をテーマに、しかし、重陽の節句の命を尊び人々の健康を願う、という意味合いも伝わってくる絵本をご紹介します。

生きとし生けるものが、美しい満月をめでる観月祭の物語

つきみのまつり

羽尻利門氏が、美しい細密画で描く、家族で楽しむ日本の行事絵本第2弾。
十五夜の夜、神社のお祭りへ行くキッカとゲント。
山の頂上の境内では、月の神さまに感謝と祈りを捧げる観月祭が行われていて……。
人も動物もすべての生きとし生けるものが、美しい満月をめでる夜のお話。
本文中の各見開きには、絵本と関わりの深い言葉(4つの文字)が隠されています。文字探しもお楽しみください。

月見の祭り=観月祭とは、旧暦8月(現在の9月)の十五夜に全国各地の神社で行われる神事です。この絵本では、キッカちゃんとゲントくんが、ママに観月祭に連れて行ってもらいます。静かな夜、太鼓の音の響くなか神様に捧げる舞が舞われます。二人がぼんやりしていると、いつのまにか山の生き物たちも観月祭に参加していました。そして、大きな大きな月が、全ての生き物をやさしく照らしてくれるのでした。

一年の最後の節句として、命を尊び秋の実りに感謝する行事です。なかなか現代では秋の実りを実際に感じることは少なくなってきていますが、月を眺めながら、家族が生きる糧を得られていることを、健康で暮らせていることを思う日としてはいかがでしょうか?

さいごに

今回、日本の行事の核にある“節句”を中心に絵本をご紹介いたしましたが、節句の基本は、「厄を払い、家族・子どもの健康を祈る」ことなんですよね。昔は、それだけ無事に生きるということが稀で尊いことだったのだなということがわかります。

 

現代でも、生きているうえでは、ちょっとしたことで危険につながることってありますよね。私は子どもを育て始めてから日々それを痛感しております。子どもって「よくぞここまで生き延びた」と思うくらい突然に事故が起きますし、病気にもなります。私も、子どもが公園でバレーボール大の石を自分の頭上に振り投げたときは、頭が真っ白になりました……。

 

だからこそ、皆が無事でいられるよう、家族で助け合い目を配りあうことの大切さが身に沁みます。そして、自分の無事を祈って助けてくれる家族の大事さを定期的に確認し、互いの健康と無事を祈ることが行事の大切な意味合いなのかなと思いました。そして、家族の和があるからこそ、さらに大きな助け合いができ、人の社会は協力して生きてこれたのだと思います。

 

今回の絵本から、ぜひ行事に興味をもっていただき家族で取り組むことで、身近な人の大切さを感じ、毎日の無事に感謝するきっかけとしていただければと思います。

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徳永真紀(とくながまき)


児童書専門出版社にて絵本、読み物、紙芝居などの編集を行う。現在はフリーランスの児童書編集者。児童書制作グループ「らいおん」の一員として“らいおんbooks”という絵本レーベルの活動も行っている。7歳と5歳の男児の母。

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