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絵本で伸ばそう!これからの子どもに求められる力

絵本で学ぶ「育てる力」(飼育・加工編)

絵本には、子どもに働きかける様々な力が備わっています。絵本がきっかけで、新しいことにチャレンジする気持ちを持てたり、苦手なことに取り組もうと思えたりもします。子どもたちの世界を楽しく広げてくれる絵本は、子育て中のパパママにとっても、大きな味方になってくれること間違いなしです!

この連載では、とくに「これからの時代に必要とされる力」にフォーカスして、それぞれの力について「絵本でこんなふうにアプローチしてみては?」というご提案をしていきたいと思います。

食べ物を育て、工夫して食べるということ

食べるということは、命に直結する行動です。私たち人間もこれまでの歴史で、「どうやって食料を得ていくか」を考えることが生活の大前提だったと思います。特に日本は多種多様な生き物を、毒を抜いたり発酵させたりあらゆる工夫をして食べてきた文化があります。

ですが、現代では食への意識が希薄になってきたように感じます。いつでもどこでも好きなものを食べられる生活はとても便利ですが、「この食べ物の栄養はなにかな? どうやって作られているのかな?」という関心も薄くなっている気がします。

 

食べることは毎日行われることです。そうした日々の生活をぼんやり過ごしてしまうことは非常にもったいないと思います。ちょっとした機会に知識を得ることで、そこから「どうやって育つんだろう、どう食べ物に変身するんだろう」と想像していくことは、さらなる探求へとつながりますし、そうした刺激が毎日あるだけでも子どもの日々の探究心や解像度って変わってくると思うんですよね。

 

ということで、「手でものを作る力」として以前に「育てる力(栽培編)」をお送りいたしましたが、今回はさらに「飼育・加工」というところまで範囲を広げ、食べ物を育て、工夫し食べるということがどういうことなのか、知識を伝えて興味を引き出してくれる絵本をご紹介していきたいと思います。

おいしいお肉は、どうやって届けられている?

お肉はどこからやってくる?

ぶたにく

お米や野菜は、どうやって育つかを知っている。でも、ぶた肉がどうやって食卓へあがるのかは知らない。鹿児島のある豚舎を追った、ドキュメンタリー写真絵本。小学校中学年~おとなまで。

みんなが食べているおいしい“ぶたにく”。豚のお肉ということは分かりますが、いったいどうやって育てられ食べるまでに何が行われているのか、具体的なイメージを持つことがむずかしいですよね。この絵本では、“ぶたにく”となる豚たちが子豚として生まれ育っていき、どう豚肉にされていくかを写真でたどっていきます。

舞台は、鹿児島の福祉施設ゆうかり学園。ここでは、鹿児島の特産・黒豚を飼育し食肉加工まで一貫して行っています。まずは、母豚が出産するシーンから始まります。写真なので非常にリアルに豚の出産が写し出されます。1回の出産で10匹前後が生まれ、兄弟仲よく育っていきます。近隣の住宅の残飯が子豚たちのえさ。たくさん食べ人間に甘えたりもしながらどんどん大きくなり10か月ほど経ったとき、豚たちはと場(豚を食肉にする施設)に連れていかれます。120㎏あった体から手足や内臓を取り除くとお肉は70㎏ほどになります。そしてまた、母豚は子豚を生み、肉が絶やされないよう豚たちが育てられていきます。

食肉現場の過程を写真で見せていく絵本なので、画面から伝わるリアルさが、ときに強く響きすぎてしまうこともあります。個人的見解ですが、お子さんには小学生以上になってから読んだほうが、内容を消化しやすいかなと思います。ですが、私たち親世代も家畜と身近に接する機会があった人は少なくなっていると思われますので、まず親が読んでみてお子さんに知識を伝えてあげるという方法もあります。

作者の大西さんが文中で述べていた「身近な食べ物なのに、生き物としての豚を僕たちはほとんど知らずに食べていた。」という言葉から、私たちは毎日生き物を食べて暮らしている、ということについて考えさせられる1冊です。

牛乳の作られ方

多くの子どもたちの身近な飲み物・牛乳。牛乳が牛のお乳であることはみんな知っている当たり前のことなのですが、私たちがおいしい牛乳を飲むために、酪農家さんたちがどんな仕事をしているのか、その過程はご存じでしょうか? そんな牧場のお仕事を伝えてくれる絵本がこちら。

牛乳ができるまで

たいせつなぎゅうにゅう

私たちがいつも飲んでいる牛乳は、どうやって作られているのでしょう。
人気写真家のキッチンミノルさんが、北海道・別海町のたんぽぽ牧場を泊まり込みで取材。
「牛乳ができるまで」をダイナミックな写真とあたたかなまなざしで伝えます。

牧場の朝ははやく、太陽がのぼる午前4時30分には灯りがともり牛たちの朝ごはんが始まります。そしてえさを食べさせながら牛乳をしぼっていきます。しぼり終わった牛乳はミルクローリーというタンク車で牛乳や乳製品に加工する工場に送られます。


牛乳をしぼった後にも、たくさんの仕事があります。牛舎のそうじ、えさの牧草刈り、そうしている間に牛の出産があったりと目まぐるしく牧場の仕事は続きます。

この絵本も写真絵本なので、私たちの手元においしい牛乳が届くまでの忙しさがリアルに伝わってきます。農業、畜産、酪農など、命を扱う仕事は毎日がフル稼働です。そうして届けられた食べ物たちを私たちは口にしているということを折に触れて思い出すことができる、親子で楽しく酪農の仕事を学べる絵本です。

海の中でも育てて食べる

養殖とは、魚や貝、海藻など海の生き物を人工的に繁殖させること。おにぎりには欠かせない子どもたちが大好きな“のり”も、養殖されています。そんな、のりの育てられ方を知ることのできる絵本がこちらです。

一枚の海苔でも、自然の恵みと、人の手間によってできている

のりができるまで

おにぎりや海苔巻など、子どもたちにも身近な食材の海苔ですが、どこでどのように作られているか、あまり知る機会がありません。本書では、海苔養殖の現場を取材。海苔漁師さんが種のついた網を海に張るところから、海の中で海苔が成長していく様子、船上での収穫作業、さらには、水揚げされた海苔が成型、乾燥され、製品になるまでを、一連の写真で見ていきます。一枚の海苔でも、自然の恵みと、人の手間によってできていることがわかる絵本です。

のりは紅藻類という海藻の一種でシダ植物のように胞子によって繁殖します。のりの養殖は、のりの胞子が、のりのタネにあたる“殻胞子”を作るまで育て、殻胞子を網にくっつけて海に張り出します。そうするうちに網がどんどん黒くなりふさふさしてきます。そのふさふさがのりなのです。そうなると、船に乗って海まで出て網を外し、網からのりを採ります。このときののりは私たちがよく見るパリパリののりとは違い、どろどろです。ここからさらに加工して四角くして乾かしたものが、お店でよく見るのりになります。

日本は海に囲まれた島国という地理的特徴から海産物が豊富です。のりは奈良時代から朝廷への年貢として納められていたという記録もあり、江戸時代、のりが好物だった徳川家康に献上するため東京湾で養殖が始まったという古くからある食べ物です。

しかし現在、のりの養殖に危機が生じています。のりの養殖の最適水温は18℃から23℃くらいですが地球温暖化により水温が下がらなくなってきているのです。そのほかの海産物も海の汚染や乱獲などで危機に瀕しています。ですが、近年マグロやウナギの養殖に成功させるなど、おいしい海産物を食べるために日本はあらゆる手段を考えようとしています。これからも、おいしい食べ物を食べ続けるために私たちはどうしていったらよいか、日本人が古来から工夫して食べてきたのりの絵本を通じて、考えることができると思います。

 

この絵本は「しぜんにタッチ」というシリーズの1冊なのですが、このシリーズは身近な食べ物や生き物に焦点を当てているので、小さな子にも身近なふしぎを楽しく伝えてくれておすすめですよ。

長くおいしく食べる工夫

ここまでは、「育てて食べる」絵本でしたが、ここからは「加工」することで食べ物を長くおいしく食べてきた工夫にどんなものがあるのかみてみましょう。

まずは、子どもたちにも身近な「うめぼし」の絵本から。

ごはんの友「梅干しさん」のできるまで!

うめぼしさん

梅の花が散って、青い実がなって、ぎゅうぎゅうカメの中で漬けられて…。日本人の食卓には欠かせない、ごはんの友「梅干しさん」のできるまでを、描いた絵本。かんざわとしこさんのうたうような文と、ましませつこさんの美しい貼り絵が魅力です。表紙の元気いっぱいのうめぼしさんを見ていると、思わずつばがわいてきそうですよ!

おにぎりの具だったり病気のときにおかゆに入っていたり、おうちのどこかにいつもある“うめぼし”。そんなうめぼしさんが、梅の花だったころから梅の実になり、青い梅の実がもがれて漬けられて……と、どうやってうめぼし変身していくのかを、リズムよい文章にのせて伝えてくれる絵本です。

梅干しの加工方法には不思議がいっぱいです。まず、なぜ青い梅には毒(シアン化合物という天然毒素)があって食べられないのに、梅干しになると食べられるのか、それは塩漬けにすることで酵素が働き毒が分解されるからです。

(※絵本の梅は青梅が使われていますが、完熟した梅の実を使う場合は毒の危険性はありません。)

青い梅の実が赤くなるのも梅干しと一緒に漬ける赤しそのシソニンが梅のクエン酸に反応して赤くなるから。お弁当によく入れられるのもクエン酸が微生物の繁殖を抑え体内で食中毒菌が増えるのを阻止するからです。

こうしてみると梅干しは化学技術の結晶ですが、私たちはそうした化学を古くから工夫を重ねて会得し、毒があったり腐りやすかったりした物も食べられるようにしてきたんですね。

発酵という保存のふしぎ

日本は温暖で湿度の高い気候のため乳酸菌や麴菌など、たくさんの微生物が住んでいます。その微生物たちが活躍し、みそにしょうゆにお漬物など数々の発酵食文化が生まれました。発酵食というのはすぐれもので、まず食べ物を腐らせないように塩漬けなどをする過程で、発酵をうながす微生物たちがふえていきます。その微生物たちが食べものに味や香りをつけおいしくさせ、なんと、ビタミンなどの栄養成分までつくり出し栄養価をアップさせてしまうのです。

ここでは、お漬物の中でももっとも有名な“ぬか漬け”の絵本をご紹介します。

主人公のぬかどこすけは、せともの屋さんの売れ残りのかめ。かめとは大きくて深めの水や食べ物などを入れるいれ物のこと。ある日ぬかどこすけは、ばあちゃんに買われます。すごいものを入れてもらおうと思っていたぬかどこすけですが、ばあちゃんは、なんだかくちゃくちゃしたものを詰めこんできます。それは“ぬかどこ”。ぬかどこすけはがっかり。くちゃくちゃは、だんだん匂いがしてくるし「くしゅくしゅっ」と気味悪い声もだしますが、ぬかどこの「ぬかどこねえさん」は野菜を包み込んではおいしく変身させ、ぬかどこすけも見直していきます。

しかし暑い夏がやってきて、ぬかどこねえさんは「いきが、できない……。ま、まぜて……」と苦しみ始めます。手が届かなくて混ぜてあげられないぬかどこすけは……。

というお話です。

この「息ができない」というのが、ぬかどこの特徴にかんする部分なのですが、お米を精米したときに出る粉・米ぬかに塩や水などを混ぜたものがぬかどこで、ぬかどこの中には微生物がたくさん生きています。なので、この微生物たちが生きていくためにかき混ぜて、ぬかどこに空気を入れて呼吸させてあげる必要があるんですね。入れるとありとあらゆる食べ物を栄養満点に変身させるぬかどこは、菌の姿が目に見えない分まるで魔法のようですが、そんな魔法は奈良時代頃には原型があったとされ江戸時代に今と同じようなぬか漬けができるようになったと言われています。

 

日本の気候は湿度が高く食べ物が腐りやすい気候でもあるのですが、そのおかげで多くの微生物たちが存在する発酵王国ともなりました。人々は発酵を利用しながら様々な食べ物をおいしく保存しながら栄養満点にしてきたんですね。

さいごに

食を意識するということは生きることの実感を得ることでもあると思います。世界的に食料不足になると常々言われていますが、現代では収穫前の作物や家畜が飼われている姿をモニター越しに見ることはあっても、そこからリアルな食材のイメージはわきませんよね。

我が家も食材を手に入れるのはスーパーマーケットが基本なので、そこより前の「生き物が食べものに加工される」段階を家族そろってなかなか想像しきれません。そんな状況の中、先日機会があり、梅干し作りに親子で挑戦してみました。

梅を一つずつ洗ってへたを取ってという手間もさることながら、とにかく塩漬けして数週間おいて3日間干して……とかける時間が長く、食べる形にするまでこんなに手間も時間もかかるとは……という印象でした。子どもたちも実際にやってみて面白がりながらも「こんなに面倒なのー!」と驚いていました。ですが、一度自分の手で体験してみるだけでも食べ物への解像度って上がっていくんですね。塩漬けして水分を抜くことで、なぜ腐りにくくなるのかだったり、これだけの手間暇がお店で買うと数百円ということにも疑問を持ったり、食べ物に対する意識が少し変わったことを感じました。

こうして自分の手でまずやってみるという体験は、五感を使うことで多くの情報を得ることができます。今の時代は生産と消費の現場が離れてしまって、食べ物以外でも生の情報を受け取ることはなかなか難しくありますが、絵本から知識を得たり興味を持ったりすると、また体験したときにより興味の幅が広がっていくと思います。毎日の食べ物を意識するだけでも、食べ物の裏側に広がる多くの背景を探求するきっかけになります。ぜひ、絵本から興味を広げ実際の体験の面白さを感じ取っていただけたらと思います。

徳永真紀(とくながまき)


児童書専門出版社にて絵本、読み物、紙芝居などの編集を行う。現在はフリーランスの児童書編集者。児童書制作グループ「らいおん」の一員として“らいおんbooks”という絵本レーベルの活動も行っている。7歳と5歳の男児の母。

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絵本ナビ編集部
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