絵本ナビスタイル トップ  >  絵本・本・よみきかせ   >   未来の今日の一冊 ~今週はどんな1週間?~   >   【今週の今日の一冊】秋の夜長に読みたい、大人の心に響く童話特集
未来の今日の一冊 ~今週はどんな1週間?~

【今週の今日の一冊】秋の夜長に読みたい、大人の心に響く童話特集

秋が深まり、夜の時間がゆったりと流れる季節。
今週は、忙しい日々で張りつめた心をそっとほどいてくれる、大人にこそおすすめしたい童話を集めました。
やさしく寄り添うお話から、心の奥に静かに問いを投げかける物語まで…美しい挿絵とともに、秋の夜長に味わってみませんか。

2025年10月6日から10月12日までの絵本「今日の一冊」をご紹介

10月6日 夜ごと月が聞かせてくれる、おとぎ話

月曜日は『愛蔵版 絵のない絵本』

愛蔵版 絵のない絵本

「この世界の生活は、月にとっては一つのおとぎ話にすぎません」 ひとりぼっちの若い絵かきのもとへ、夜ごと友だちの月が訪れて、空から見たことを聞かせます。月のまなざしが照らしだすのは、悲哀に満ちた地上の人びとの風景。旅を愛したアンデルセンの詩情あふれる名作を、絵本作家・松村真依子の柔らかな水彩絵で贈ります。

https://www.ehonnavi.net/ehon00.asp?no=174541
https://www.ehonnavi.net/ehon00.asp?no=174541

10月7日 ハン・ガンさんが描く涙をめぐる希望の物語

火曜日は『涙の箱』(2025年8月刊)

涙の箱

ある村に「涙つぼ」と呼ばれている子どもがいました。ある日、その子のもとへ、頭のてっぺんからつま先まで真っ黒なおじさんがやってきます。おじさんは「私は涙を集める人なんだ」と名乗り、大きな黒いカバンを開いて見せます。その中には黒いシルクの布に包まれた箱があり、大きさも形も様々な涙が宝石のように並んでいました。
「オレンジがかったこの涙は、とても腹が立ったときに流す涙……、灰色がかったこっちの涙は、嘘で流す涙……、薄紫色の涙は間違いを後悔したときに流す涙……」
他にも、濃い紫色の涙、赤黒い涙、ピンク色の涙……とたくさんの涙を持っているおじさん。しかし、このどれでもない、世界で最も美しい「純粋な涙」を探していて、その涙を「涙つぼ」とずっとからかわれてきた子どもが持っているのではないかと言います。その後おじさんの道連れである「青い明け方の鳥」に導かれて、子どもはおじさんが向かう目的地まで一緒に旅をすることに。旅を通して、おじさんが見せてくれたもの、出会わせてくれたものは、子どもにどんな変化をもたらしていくのでしょうか。

本作の魅力は数え切れないほどあります。
私たちが何気なく流している涙にこんなにも様々な種類があるというその豊かさに気づかせてくれること。
涙の色や自然の描写をはじめ、物語の中に鮮やかな色彩が満ちあふれていること。
小さな桃色の体に青い翼と尻尾をもつ「青い明け方の鳥」が魅力的で、子どもの旅に優しく寄り添う姿がホッとさせてくれる存在であること。
さらに、おじさんが持っている、キラキラ粉とピカピカ粉。真っ黒なおじさんと対比するように登場する真っ白なお爺さん。影の涙の存在……など童話らしい楽しさがあちこちに散りばめられています。

ノーベル文学賞作家・ハン・ガンさんが描く、涙をめぐるあたたかな希望の物語。やわらかく美しい文体は、ハン・ガンさんの作品を初めて読む方にもおすすめです。また、ハン・ガンさんご自身が長年のファンでいらしたというjunaidaさんの挿絵は、ハン・ガンさんの童話世界をさらに奥深く、神秘的に彩っています。物語を読んだ後にあらためて表紙を眺めるとまた新たに発見することがあるかもしれません。
涙を流すという行為が、いかに人の心を救い、浄化させるのか。そして、表面的な涙の有無だけでは測れない、人が心に抱える悲しみや希望について、深く考えるきっかけを与えてくれるあたたかな物語です。

(秋山朋恵  絵本ナビ編集部)

https://www.ehonnavi.net/ehon00.asp?no=272699

読者の声より

junaidaさんの美しい装画に惹かれ、手に取りました。
すると、まさかのノーベル賞文学賞作家ハン・ガンさんの作品で、驚きました。
ハン・ガンさんの作品を読むのは、『そっと静かに』と『すべての、白いものたちの』に続いて3作目です。
「涙」をテーマにした大人のための童話。
美しい文章でとても読みやすいので、初めてハン・ガンさんの作品を読む方にもぴったりかもと思いました。
(クッチーナママさん 50代・ママ 女の子21歳、女の子18歳、男の子15歳)

10月8日 「祈りも呪いも、うらおもてだよ」

水曜日は『へそまがりの魔女』

へそまがりの魔女

呪いをかけられたら最後、誰も逃れることはできないーー。
そう恐れられている年老いた魔女が、人里はなれた暗い森の中に住んでいました。
ある日、魔女の家のドアをたたいたのは、ひとりの娘。
「どうかここにおいてください。どんな仕事もしますから。」
その頃、王様の世継ぎが生まれないために激しい戦乱が続いていた国内には、捨てられた子どもたちがあふれていたのです。娘もその一人でした。

人ぎらいのため、娘の願いをそっけなく突っぱねる魔女。しかし相棒であるねずみのはからいで、しぶしぶと娘を家に入れ一緒に暮らすことになりました。
たきぎ集め、ニワトリの世話、畑しごと、重い水汲みは川と家とを一日に何往復も。たくさんの仕事にも文句ひとつ言わず、懸命に働く娘。それなのに魔女は変わらずそっけない態度で、彼女にねぎらいや感謝の言葉ひとつもかけません。それでも、娘は平気でした。

ある夜のこと。遅くなっても、娘が家に戻りません。
心配のあまり妖力を失いかけた魔女をよそに、帰ってくるなり、おいしそうな木イチゴを見つけたので全部とってきたのだと得意げな娘を、魔女は強く叱りつけます。そして語りかけました。
「いいかい。良いことの裏には、悪いこともくっついてくる。
ふたつはうらおもてにできているんだ。
良いことばかりを手にするわけにはいかないんだよ」
娘はべそをかきながらも、初めて胸があたたかくなるのを感じたのですーー。

魔女には、信じた人たちに裏切られ、誰にも心を許さないと決めた過去がありました。一方ひどい仕打ちばかりを受けて育ってきた娘は、人の優しさに触れたことがありませんでした。
それぞれに孤独を抱えたふたりがゆっくりと心を通わせていく時間は、暗い部屋に灯りがともるようにじんわりとあたたかく読者の胸を打ちます。
安東みきえさんが、独特の世界観で生きていく上で大切な道標を込めた物語。絵を担当したのは牧野千穂さん。モノトーンに差し色の赤のみというごく少ない色どりの繊細な鉛筆画は、私たちを物語世界の奥深くへと誘ってくれます。文章とイラストが見事に調和した本作、シックで洗練された装丁も魅力的です。

国王に待ちに待った王子が生まれ、町の人々は喜びの大騒ぎ。
その様子を目にした魔女は、明日はいよいよ仕事だと嬉しそうに、そして目を鋭く光らせて言うのです。
「魔女のしごとといえばそりゃ決まってるだろう。……王子に呪いをあたえるんだよ」
娘はぞっとしながらも、魔女に言われた通り「呪い」の準備を手伝うのですが……。
固唾をのんで見守りながらも、どこかで魔女を信じたいと思うのは魔女が「へそまがり」だから。そして、そばに娘がいるから。
ーー祈りも呪いも、うらおもてだよ
魔女の言葉をひもときながら、最後までじっくりとふたりの物語をたどってみてください。

(竹原雅子  絵本ナビライター)

読者の声より

小さくてかわいらしい絵本だなと思い、読んでみました。呪いの意味に驚き…。タイトルどおり、本当にへそまがりですが、心優しい素敵な魔女。心あたたまるお話でした。絵も魅力的でひきこまれました。素敵な絵本なので、子どもだけでなく、大人へのプレゼントにもよさそうです。
(あんじゅじゅさん 50代・その他の方)

10月9日 町のみんなにめばえた気持ちは?

木曜日は『どろぼうジャンボリ』

どろぼうジャンボリ

ある町に住む風変りなどろぼう、ジャンボリ。顔を見られないよう、いつもごみ箱をかぶっているジャンボリの盗むもの、それはいったいなんでしょう?

答えは「てがみのたね」。みんなの家のごみ箱にひっそりと捨てられたそれらは、誰かに手紙を出そうと何度も書いた下書きや、出すのをやめてしまったもの。そこには、みんなの「はだかんぼうの きもち」がつづられているのだと、ジャンボリは思うのです。たっぷりじっくり味わったあと、心に残った言葉を胸に、ぐっすりと昼すぎまで眠るのです。

けれどある日、事件は起こります。町から「てがみのたね」がきえてしまったのです。一枚たりとも見つからないのです。町には「おてがみ禁止令」の立て看板。新しい町長が町の人から手紙をもらえないのだと怒って出した命令なのです。なんてこと!!

「いけない いけない。このままじゃ いけない」

しぼんだ心をひきずりながら町を出ていったジャンボリのある行動が、町の人の心に小さな火をつけます。それは……。

町に起こった奇跡を絵童話として、3つのお話でユーモアたっぷりに綴られたこの物語。手がけられたのは、国内外で注目を集める絵本作家阿部結さん。小さなコマ割りの絵から、隅々まで見応えたっぷり見開きの絵、カラフルな手紙や町の人の表情まで。豊かで丁寧な表現は、小さな子どもたちから大人まで夢中にさせてくれます。

「てがみのたね」、なんてあたたかな言葉でしょう。誰かにとっての大切な気持ちは、こんな風にさり気なくどこかに存在し、本人でさえ気づかなかったとしても、かみしめている人がいるのかもしれないのです。自然に芽生えてくる気持ちや言葉を一方的に禁じてしまった時、世界はどうなってしまうのでしょう。それぞれの視点や立場から、みんなが考え続けていけるといいですよね。

(磯崎園子  絵本ナビ編集長)

読者の声より

どろぼうジャンボリが盗んでいるものにまず、引き込まれました。
人が手紙を書いている姿って、なんてすてきなんでしょう。
言葉にしたい気持ちがうまく表せない、でも伝えたい。そんなもどかしさがまた、いいんです。
手紙もらったら本当にうれしいですし。
この本を読んだら、誰かに手紙を書きたくなります。
(maaruさん 40代・ママ 女の子11歳、女の子9歳)

https://www.ehonnavi.net/specialcontents/contents.asp?id=3045 町のみんなにめばえた気持ちは?『どろぼうジャンボリ』【NEXTプラチナブック】

10月10日 一生に、たった一度でいいから…

金曜日は『ひとつのねがい』

ひとつのねがい

『泣いた赤おに』や『むく鳥のゆめ』『りゅうの目のなみだ』など、数々の名作童話を生み出した浜田廣介さんの知られざる名作がこのたび絵本に。ページを開く前からどんなお話なのかワクワク感が募ります。

主役として登場するのは、ある町はずれに立っている一本のがい灯です。がい灯はもう年をとってよぼよぼでしたが、長い間「ひとつのねがい」を持ち続けていました。それは、「一生に、たった一度だけでいい、星のようなあかりぐらいになってみたい」という強い思い。ああ、だれかひとことぐらいは、おれをじっと見て、こいつは、まるで星みたい…と言ってくれたらなあ…。

しかし、秋も終わりに近づくと、がい灯のランプの光は、いよいよさびしくみすぼらしくなっていきます。さびしい小路の角でがい灯が出会うのは、こがねむしや白い蛾などちっぽけなものだけ。しかもちっぽけな虫の目にさえ全く星のようには見えないと言われたがい灯は、一気にどん底に突き落とされるのです。その失望の中で、がい灯の心に静かに湧きあがってきた思いと、光の輝きの変化とは…?

読み終わった後、しばらくお話から抜けられず、余韻が残る中で考えてしまいました。「自分のつとめを一心にとげようとする強さ」と「ねがいを持ち続けることの尊さ」を静かに読む者に訴えながら、「幸福」というものがどこからくるのか語りかけてくるようです。

「一つの願い」は1919年に作られたお話だそうですが、しまだ・しほさんのさし絵がその時代の情景を味わい深く醸し出していて、さらにお話の世界をぐっと引き立てています。2013年は廣介生誕120年を迎える節目の年だそう。この機会に、初めて絵本になった廣介童話の一作にぜひ触れてみませんか。

(秋山朋恵  絵本ナビ編集部)

https://www.ehonnavi.net/ehon00.asp?no=91616

読者の声より

挿し絵のレトロな感じに惹かれて、私自身が読みたくなった作品です。
「ひとつのねがい」とはだれのねがいだろう?と本を開いてみると、主役はまさかの「がい灯」!子どもたちにはむずかしいかなと思いましたが、小学生の姉たちはもちろん、年中さんの末っ子も今年一番集中して聞いていました。
だれもが気にもとめないような、光の弱くなったがい灯のたったひとつのねがいは、星のようにかがやくこと。
夜になってもまぶしい光が広がっていて、星のかがやきにも気づかないような都会っ子が、見たこともない「がい灯」の淡い光や、ねがいがかなった時のよろこびを真剣に汲み取ろうとしている。
最後にがい灯は倒れてしまうのだけれど、この時がい灯はどんな気持ちだったのかなと議論が生まれる。幸せな気持ちだったのかな。せっかくねがいがかなったのに、倒れてしまってかなしいかな。もう倒れてしまったから、気持ちはないんじゃないかな。。。
絵本っていいもんだなと実感させてくれる一冊です。
(正本さんさん 30代・ママ 女の子8歳、女の子7歳、女の子4歳、男の子1歳)

10月11日 孤独だったイタチが野ネズミと出会って……

土曜日は『イタチと野ネズミのはなし』(2025年7月刊)

イタチと野ネズミのはなし

ひねくれ者のイタチが、スープ作りの好きな野ネズミと出会う。大切なものができること。それを失うこと。森の中での命とは。

10月12日 「ねがい」とは、希望? 欲望? それとも祈り?

日曜日は『ねがいの木』

ねがいの木

宿題をしようとおばさんの家にやってきたわたし。庭の大きな木を描くために雨がやむのを待っていると、おばさんがお話をしてくれました。
それは、ねがいをかなえてくれる「ねがいの木」のお話。木は、ある時は町をつくり、ある時は恋をかなえ、ある時は戦争をおこすのでした――。
「ねがい」とは、希望でしょうか、欲望でしょうか、それとも祈りでしょうか。
1982年の雑誌「日本児童文学」に掲載の作品を、世界中にさまざまな争いが起きている今、お届けします。

読者の声より

町中に立つ一本の大木を見て、時々思うことがあります。
この木は何を見てきたんだろうと。
この街が昔は何もない草原だったことを知っています。
この街が戦争を経験したことも知っています。
その中で立ち続けてきた木に、人々が願い事をしたって不思議ではありません。
「ねがいの木」は、そんな木に託した詩情ある物語だとおもいます。
木のそばに暮らし始めた若者に出会いがあって、家庭ができました。
家族ができました。
戦争があって、死があって、再会があって、歴史は刻まれていくのです。
願い事がかなったり、かなわなかったり、様々なドラマがありそうですが、生きているからこそ感じられる奇跡を味わいました。
(ヒラP21さん 70代以上・その他の方 )

いかがでしたか。
一日の終わりに温かいお茶とともにひと息つく時間が取れたなら……ゆっくり童話の世界を旅してみませんか。
 

選書・文:秋山朋恵(絵本ナビ副編集長)

掲載されている情報は公開当時のものです。
絵本ナビ編集部
Don`t copy text!