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あなたが「今」好きな絵本3冊は、なんですか?

【vol.4】やっぱり世界は繋がっている<パントマイムのお兄さん・金子しんぺいさん>

 

あなたが「今」好きな絵本3冊はなんですか?

ふいにこんな質問を投げてみたとしたら、どんな答えが返ってくるのでしょう。
この質問を投げかける相手の条件は「絵本の読者」。絵本ナビ編集長・磯崎による連載企画。

絵本を通して「今」が見えてくる

第4回目は子どもの心を掴むプロの登場です。その職業は……?

「連載へよせて」全文はこちら>>

お話を聞くのは…

 

金子しんぺい(かねこしんぺい)さん

 

1988年東京生まれ。パントマイムを清水きよし氏に師事。こころの動きを身体の動きで描く《パントマイムのお兄さん》として活動。年齢・言葉を超えるパフォーマンスは子どもから大人までを魅了する。パントマイム1人舞台『Moon,moon,moon!』の上演、大道芸、パナソニックCM「衣類スチーマーシワ画面篇」・ Web CM 電気自動車「日産リーフ」に出演など活動は多岐にわたる。

小中高の教員免許を持っていることも活かし、保育者向けに「こころとからだを育てるあそび!パントマイム」講演会も行うなど、身体表現の教育分野にも精力的に取り組んでいる。『ギア-GEAR-』East Versionのマイムパートで出演。「あおぞらワッペン」「おむすびひろば」のパントマイム担当。

第4回に登場してくださったのは、「パントマイムのお兄さん」の金子しんぺいさん。金子さんは、パントマイムの舞台で活躍されている他に、新沢としひこさん率いるアスク・ミュージック内のユニット「あおぞらワッペン」の一員としてファミリーコンサートを行ったり、全国の幼稚園・保育園を訪れる活動もされています。さらに、「おむすびひろば」というユニットでは、パントマイムと絵本のパフォーマンスをされているという多才ぶり。そんな金子さんと磯崎の出会いのきっかけは、とても身近なところだったのです。

やっぱり世界は繋がっている

―― 今日はよろしくお願いします。金子さんのパフォーマンスを初めて拝見したのは、2016年に行われた1人舞台『Moon, moon, moon ! 』でした。パントマイムの舞台というものを殆ど観たことがなかったので、本当に感動してしまいました。

 

そうでしたか? お会いしたのはもっと前でしたよね。

 

―― そうですね。そのずっと前から、瀬戸口(絵本ナビスタッフ)から金子さんの話は聞いていましたし、もちろん「おむすびひろば」の活動のことも、結婚するということも。

※実は「おむすびひろば」というのは、金子しんぺいさんと、絵本ナビスタッフであり、絵本専門士として絵本の読み聞かせ活動もしている瀬戸口あゆみとのユニット。公私共にパートナーであり、2020年には長女も誕生しました。
 

『おでこはめえほん(1)けっこんしき』(作・鈴木のりたけ ブロンズ新社)を使ったパフォーマンス

―― その後「おむすびひろば」のイベントも沢山見て。絵本をパントマイムで表現するという試みには興味津々でしたし、何しろ1人舞台のときとのギャップが大きくて。でも、そんな中で印象に残っていたのが、金子さんがアドリブで小さな子どもたちに絵本を読み聞かせていたときの様子。自然に読んでいるだけなのに、子どもたちの食いつき方がすごい。それで、もしかしたら絵本とパントマイム、何か共通するものが見えているのかもしれない……と、お話を聞いてみたくなったんです。

 

ああ、それは嬉しいな。というのも「子ども達に喜んでもらうパフォーマンスをするのが天職なんだ」と、ここ1~2年でやっと思えるようになったんです。自分のメッセージというのは、舞台の上で表現するものだという信念が僕の中にあって。放っておくと、とても真面目な作品、パントマイムになっていってしまう。でも、自分で言うのもおかしいかもしれませんが、僕には子ども達の注意を惹きつける才能があるみたいなんです(笑)。

例えば、自分が舞台に登場しただけでも、子どもたちがわははと笑って喜んでくれる。第一印象で「この人は面白い人だ」と思ってもらえる。理屈や技術とはまた違うので上手く説明はできないのですが、どうやらそれは僕の持って生まれたもので、自分でも認めてあげようと。

 

―― ここ1~2年で、というのが意外です。金子さんにとって、この1年というのは激動の期間だったかと思います。何より、娘さんの誕生が2020年の3月でしたよね?

 

幸いなことに出産に立ち会うことは出来たんです。でも、生まれてからの方が大変でした。緊急事態宣言が出て、全ての仕事がなくなって。さらに家族で話し合って、一ヵ月くらいは僕だけ離れて暮らすことにしました。まだあの頃はコロナについてわからないことが多すぎましたよね。

 

―― 大変な経験です。

 

仕事もなく家族にも会えない。その中でずっと家にいる状態というのは辛かったです。何か自分に出来ることはないか、そんなことばかり考えていました。(※このときに金子さんが発起人としてスタートさせたのがニジノエールという活動でした>>>)ただ、所属する事務所には撮影スタジオがあったので、動画やリモートで少しずつ配信イベントを始めていって。そんな中、PLAY! PARK(プレイパーク※)の方が声をかけてくださったんです。遊具のスペースが空いているのでパフォーマンスをする場所として使えるのではないかと企画してくださって。

※美術館と子どもの遊び場を中心とする複合文化施設「PLAY!」内にある子どものための屋内広場。

―― 確かにパントマイムなら飛沫もないですし!

 

それこそパントマイムを職業にしていたからこそのお話で、「僕に出番が来た!」と。嬉しかったですね。月に一回くらいの公演だったんですけど、精神的な心の支えになってくれました。その後、コロナに対するガイドラインが作られて、幼稚園と保育園の先生方が求めてくださったこともあり、コンサートも少しずつ再開できるようになってきました。子どもたちの発するパワーを感じながら、それを自分のエネルギーにして、また子どもたちに還元していく。そういうやり取りが好きなんだと改めて感じています。

 

―― 今では家族も一緒に過ごすこともできるようになって。そんな金子さんに、ここで質問です。

あなたが「今」好きな絵本3冊は、なんですか?

1冊目は林明子さんの『はじめてのおつかい』(作・筒井 頼子 絵・林 明子 福音館書店)です。とても有名な絵本だと思うんですけど、僕は読んだことがなくて。ちょうど台所で洗い物をしていたのかな。妻が娘に読みきかせをしているのが聞こえてきて。聞いているうちに泣いてしまったんです、僕。

筒井頼子さんと林明子さんの黄金コンビによる絵本

はじめてのおつかい

みいちゃんはママに頼まれて牛乳を買いに出かけます。自転車にベルを鳴らされてどきんとしたり、坂道で転んでしまったり、ひとりで歩く道は緊張の連続です。坂をあがると、お店につきました。お店にはだれもいません。みいちゃんは深呼吸をして、「ぎゅうにゅうください」と言いました。でも、小さな声しかでません。お店の人は、小さいみいちゃんには気がつかないみたい……。小さな女の子の心の動きを鮮やかに描いた絵本です。

―― 耳で聞いていただけですよね。どこで泣いたんですか!?

 

多分、主人公の女の子みいちゃんと同じ気持ちになってしまっていたんでしょうね。「みいちゃんは きゅうに ほっとして、ぽろんと ひとつ、がまんしていた なみだが おっこってしまいました。」という場面で、もう一緒に。それから、無事に牛乳を買ってからの帰り道、坂の下で赤ちゃんを抱っこして、お母さんが手を振って待ってくれている場面でも。

https://www.ehonnavi.net/ehon00.asp?no=190

―― それはもう……完全に読んでもらっている子どもと同じ心境ですね(笑)。

 

ほっとしたということもあるでしょうし、一方で、子どもって親の目の届かないところで、こんな風に一人でちゃんと成長していくんだという感動もあって。

 

―― 確かに、5歳のみいちゃんにとっては、一人でのおつかいなんて大冒険ですよね。その心境が繊細に丁寧に描かれているからこそ、大人になった今読んでも、いつのまにか自分の子どもの頃の不安や緊張の気持ちが呼び起こされてしまう。

 

すっかり入り込んでしまいました。その後、絵を見ながらしっかりと読み直していると、驚いたことがあったんです。最後、お母さんのところに駆けよる場面で、みいちゃんの顔が描かれていない。後ろ姿なので表情が見えないんです。それで僕は、ここでみいちゃんは泣いていると思って読んでいた。ところが妻は、絶対に笑っているはずだって言うんです。

確かにこの場面、みいちゃんの表情は見えません

―― 本当だ! ほっとしたときに泣いてしまうのか、笑うのか。読む人によって想像するみいちゃんの表情が違うんですね。

 

それって、自分の経験を通して絵を見ているっていうことですよね。パントマイムと共通している部分があるな、と。パントマイムというのは、見る人が自分の経験を反映しながら楽しむものなんです。花を持っている場面があれば、自分の好きな花を想像する。カバンを持っていれば、それが重いものだと思い込む。だから0、1歳の小さな子にはなかなか通じませんよね。うちの娘もまだまだ反応してくれません(笑)。絵本の中にも、そういう余白の部分があるというのは大きな発見でした。

 

―― それは面白いですね……私も今、絵本の楽しみ方が一つ広がった気がします。
続いて2冊目の絵本を教えてください。

五味太郎さんの『まだまだ まだまだ』(作・五味 太郎 偕成社)です。先日、ETV特集で「五味太郎はいかが?」という番組が放送されていましたよね。かっこよかった……。

いったいどこまで行くのかな? 五味太郎2021年の新刊絵本

まだまだ まだまだ

「よーい、どん!」どうやらかけっこがはじまったようです。たのしいですね。みんなぶじにゴールして、とおもったら「ぼくはまだまだおわりません!」とひとりがとびだして……。
町のなかやビルのあいだ、畑の中や森のなか、かけっこはまだまだずっとつづきます。

https://www.ehonnavi.net/ehon/160072/%E3%81%BE%E3%81%A0%E3%81%BE%E3%81%A0%E3%81%BE%E3%81%A0%E3%81%BE%E3%81%A0/

五味さんが「子どものために書いたことなんてないよ」っておっしゃっていて。気が付いたらこんなメモをしていました。

 

「僕にも哲学がある、それをマイムにしたらいい」

 

大いに影響受けていますね(笑)。僕はまだ、子どもが喜ぶものを仕組みで作ろうとしている。こういう表情が好きだろうとか、こういう手の使い方をするとわかりやすい、とか。だけど、確かに自分の中から湧き上がるものというのがある。道具を使ったり、音楽を使って表現したくなるときがある。パントマイムではタブーとされているけれど、そこは自分をもっと信じていっていいんだと。なんだか救われたような気持ちになりました。

 

―― 『まだまだ まだまだ』の制作風景も撮影されていましたね。

男の子がゴールを過ぎても駆けていく、この街の場面。色々な人が出てきますよね。走っている男の子を見ているような、見ていないような。酔っ払って座り込んじゃっている人だとか、怒鳴っている工事現場のおじさんだとか。冷たいのかなって思うけど、でも実際には子どもたちの周りにはこんな大人がたくさんいる。自分は、そういう人たちを観察するのが好きなんだと改めて思いました。描き方が大人っぽいですよね、五味さんの絵本は。世の中には様々な人がいて、嫌なことを言ったりされたりということもあるけれど、お互いを認めるということがとても大事。人の痛みがわかる人になりたいし、娘にもそうなって欲しい。自分の中に強い想いがあるから、そんな読み方になっちゃったのかな。

「僕だったら、登場する人が、みんな男の子の方を向いている絵にしてしまうと思う」と金子さん

―― 言われてみれば、周辺にも色々なストーリーが見えてくるような……。金子さんは、演じているときもやっぱり子どもたちを「観察」している?

 

すごく見ています。全体の空気も見ますし、一人一人の行動に合わせて、この子とどのくらい目を合わせたらいいか、静かにしている子をいいタイミングで立たせることで場が盛り上がる、とか。そうやってコミュニケーションしながら、場の空気を作っていきます。

 

―― 子どもたちの心をあっという間に掴んでしまう秘密は、そこにありそうですね。家で娘さんに絵本を読むときはどうですか?

 

もちろん大勢と一人というのは全然違うけれど、どちらも共通して気を付けているのは、子どもの呼吸です。子どもが空気を吸って吐く。そのリズムを感じながら、自分から仕掛けてみたり、相手に合わせてみたり。僕が息を止めると、みんなが止める。息を吐くと、みんなも一緒に吐く。そうやって引っ張っていったりするんです。でも娘に対しては、合わせている感覚の方が多いですね。本人のペースを最大限に尊重してあげる。彼女の読み方に合わせてあげています。

ここで愛娘ちゃんも登場、彼女のペース優先です(笑)

―― それは、読み聞かせをされている方にも、家庭の中でも、とても参考になるお話です! だって、大人が自分のペースに合わせて読んでくれるなんて、楽しいに決まっていますよね。納得です。
では最後、3冊目の紹介をお願いします。

 

『あさになったのでまどをあけますよ』(作・荒井 良二 偕成社)です。これは、自分の結婚式のときに引き出物として皆さんに配ったくらい好きな絵本です。

「ああ、今日もまた新しい一日がはじまる。」

あさになったので まどをあけますよ

新しい1日をむかえるために窓をあける子どもたち。なにげない日々の繰り返し、その中にこそある生きることの喜びを描いた絵本。

この絵本を思い出したのは、つい最近、「窓」というタイトルでパントマイムの作品を作ったからです。開けていれば繋がっているのに、閉めると隔たりができてしまう。そんな窓をキーワードにして、ある夫婦の変化していく関係性を物語にしました。その隔たりというのは、1年前だと理解できなかったはずなのに、今は連想することができる。窓というものが空気を遮断するものだという共通認識が増えている。見る人の経験によって、伝わる内容が変化していくんです。

 

 

3.11の後、荒井良二さんが東北を繰り返し訪れる中で、この絵本が生まれました

僕は絵本をあまり繰り返し読むタイプではないので、この絵本も久しぶりに読みました。すると「まどをあけますよ」という言葉が、自分の中で違う捉え方になっていて、そのこと自体にとても驚きました。だけど、やっぱり変わらずに感動してしまうんです。

―― どんなところに惹かれているのでしょう。

 

この絵本にもやっぱり色々な人が出てきますよね。色々な街があって、それぞれの生活がある。賑やかな場所もあれば、静かな場所もある。全然違うのに、みんなそれぞれが「ここが好き」という。俯瞰で見せてくれるからこそ、同じ空の下にいて、繋がっていると感じることができる。

―― 繋がることが否定されている状況のはずなのに。

 

そうですね。ああ、やっぱり世界は繋がっているんだと思えた。読んでいて、体の中を洗い流してくれるような気持ちになりますね。

https://www.ehonnavi.net/ehon/82040/%E3%81%82%E3%81%95%E3%81%AB%E3%81%AA%E3%81%A3%E3%81%9F%E3%81%AE%E3%81%A7%E3%81%BE%E3%81%A9%E3%82%92%E3%81%82%E3%81%91%E3%81%BE%E3%81%99%E3%82%88/

―― 今回登場した3冊の絵本。面白いのは、どれも金子さん自身が素直に感動しているという点ですね。体の芯まで味わっている。選ぶ作業はどうでしたか?

 

ただ3冊を選べと言われたら、力が入ってしまって大変だったと思うんです。カッコつけてしまうと言いますか。でも「今」というテーマがあったせいか、とても直感的に選ぶことが出来ました。並べてみたら、どれも大御所作家さんの絵本でしたね。みんなが好きな絵本。でも、純粋に自分のために選べた気がして楽しかったです。


―― 「おむすびひろば」では、絵本を題材にしたパフォーマンスをされていますが、絵本を読むようになったのは?

 

妻と出会ってからです。彼女が絵本を使ったパフォーマンスをしているのを見て、これは面白い素材だなあと。


―― パフォーマンスも含めた出会いだったんですね。だから毎回新鮮な気持ちで読むことができるのでしょうか。感想も常に体の感覚とつながっている。

自分から絵本を探しに行く、というのはあまりなくて。人に勧めてもらうのが好きなんです。他人の感覚を知るのも面白くて。家には沢山絵本がありますから、勧められるままに読んで、まんまと感動して泣くということもしょっちゅうです。

 

―― なんて贅沢な環境でしょう(笑)。絵本に対して、積極的な受け身。この先、娘さんと競うように絵本を味わう姿が想像できます。きっと、パフォーマンスの世界もどんどん広がっていくのでしょうね、楽しみです。今回は貴重なお話をありがとうございました!

最後に近況報告をお願いします。

 

はい。僕が所属するアスク・ミュージック主催のファミリーコンサートは、緊急事態宣言を受けて、5月16日に延期することになりました。この延期したコンサートをコロナ禍でもみんなが参加して楽しむことができる「みんなとつくる!あたらしいファミリーコンサート」として開催したいと思い、立ち上げたプロジェクトがこちらです。

 

https://camp-fire.jp/projects/view/333557

「みんなとつくる!あたらしいファミリーコンサート」


 5月16日(日)14:00開演(13:30開場)
 北沢タウンホール/東京都世田谷区北沢2丁目8-18

*会場のガイドラインに沿って開催する予定です。

新型コロナウイルスの感染者数がどのように変化していくかわからない状況ですが、北沢タウンホールでみなさまにお会いできることを信じて、準備を進めていきたいと思います。応援をよろしくお願いします!

取材・文 磯崎 園子(絵本ナビ編集長)

編集・看板イラスト 掛川 晶子

掲載されている情報は公開当時のものです。
絵本ナビ編集部
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