絵本初受賞!『海のアトリエ』がBunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞
「一人で選んでいいというこの贅沢な文学賞に、これ以上なくふさわしい、贅沢な絵本だと思う。」
2021年9月3日に発表された、第31回Bunkamuraドゥマゴ文学賞(株式会社 東急文化村主催)に絵本『海のアトリエ』が選ばれました。同賞は、毎年交代するひとりの選考委員によって選ばれ、今年の選考委員は作家の江國香織さんです。
第31回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞
「おばあちゃん、この子はだれ?」
それは、おばあちゃんの部屋の壁にかざってある、女の子の絵。おばあちゃんの部屋がなんだか居心地がよくて、時々こうしておしゃべりをする。おばあちゃんは、「この子は、あたしよ」と言い、その絵を描いてくれた人の話を、私に話してくれた。
学校に行けなくなっていたあたしに、ひとりで遊びにおいでと誘ってくれたのは、海辺のアトリエで暮らす絵描きさん。その人は、海が見える部屋で描きかけの大きな絵に向かい、夢中で絵を描き続けるの。あたしがいることなんて、忘れちゃったみたい。だけど、ちっとも退屈しなかった。
見たことのないメニューが並ぶ食卓、外国の画集や写真集であふれる本棚、アトリエの隅に置かれたベッドで眠る夜、朝ごはんの後の海辺の散歩。
「心の中でつくった物語を、そのまま描いちゃえばいいのよ」
絵描きさんの横で、あたしも絵も描いた。そして、美術館に連れて行ったもらった後、お互いの顔を描くことになったの。
おばあちゃんが経験したのは、心が開放された宝物のような日々。ずっと覚えていたいと思った夏。その話を聞きながら「私も会いたい」と思ったのは、主人公の少女だけではなかったはずです。
自身の経験を重ね合わせながら、忘れがたい一つ一つの魅力的な場面を丁寧に美しく描き出しているのは、画家としても活躍をされている 堀川理万子さん。この特別な物語を絵本として味わえる贅沢。一人でも、親子でも。ゆっくりと堪能してみてください。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
Bunkamuraドゥマゴ文学賞とは?
パリの老舗カフェが主催する「ドゥマゴ賞」のユニークな精神を引き継ぎ、1990 年にBunkamuraが創設した文学賞。権威主義に陥らず、既成の概念にとらわれることなく、先進性と独創性のある、新しい文学の可能性を求めている。受賞作品は任期が1年の「ひとりの選考委員」によって選ばれる。
絵本の受賞は史上初! 今年度の選者は江國香織さん
今年度の選者は、作家の江國香織さん。選評では「一人で選んでいいというこの贅沢な文学賞に、これ以上なくふさわしい、贅沢な絵本だと思う。」とコメントをいただいています。絵本が本賞を受賞するのは初めてです。
『海のアトリエ』について
『海のアトリエ』(2021年5月刊行)は、タブロー画家として活躍する堀川理万子さんの絵本。舞台は昭和30年代の神奈川県の海辺のアトリエです。堀川さんが子どもの頃に出会った初めての「子どもを子ども扱いしない」大人である近所の絵描きさんとの思い出から生まれました。
おはなし
おばあちゃんの部屋には、女の子の絵がかざってあります。「この子はだれ?」って聞いてみたら、「この子は、あたしよ」って教えてくれました。おばあちゃんが話してくれたのは、少女時代に海辺のアトリエに暮らす絵描きさんと過ごした、特別な夏の日の思い出。いやなことがあって、学校にいけなくなっていたおばあちゃんは、その夏、絵描きさんに誘われて、海辺のアトリエで1週間を過ごすことになったのだそうです。
名前のわからない料理、食事のあとのしずかな読書時間、朝の不思議な体操、全身を使った創作活動……絵描きさんとの生活は、すべてが新鮮なことばかり。いつもとはちがう、自由で伸び伸びとした暮らしを送るうちに、しだいに少女の心は開放されていきます。
少女と一人の人間として付き合う絵描きさんの、適度な距離感が心に残る絵本。映画のシーンのような見応えのある場面の連続が豊かな時間をあたえてくれます。
原画展情報
丸善丸の内本店:2021年8月20日(金)~9月16日(木)
青山ブックセンター本店:2021年9月29日 (水) 〜10月12日 (火)
著者紹介
堀川理万子(ほりかわりまこ)
1965年東京都生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科修了。画家として絵画作品による個展を定期的に開きながら、絵本作家、イラストレーターとしても作品を発表している。おもな絵本に、『権大納言とおどるきのこ』、『くだものと木の実いっぱい絵本』、『おひなさまの平安生活えほん』、『けしごむぽん いぬがわん』、『びっくり まつぼっくり』(多田多恵子)、『氷河鼠の毛皮』(宮沢賢治)などがある。
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