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小児科医がADHDの特性をもつ子どもの視点で描いた『ひまりのすてき時間割』発売

特性をもつ子ども自身が毎日を変えていく物語

http://www.ehonnavi.net/ehon00.asp?no=172609

童心社さんから、『ひまりのすてき時間割』(井嶋敦子・作/丸山ゆき・絵)が2021年11月15日に刊行されました。

ひまりのすてき時間割

ひまりは、やりたいことがあると夢中で突っ走る元気な女の子。
じっとしていられなくて、わすれもの一番、ケアレスミス一番、ケンカっぱやいの一番だけど、明るくて、みんなから愛されていた。
ところが、六年生になった途端、まじめな担任・安部深雪先生とそりが合わず、しかられてばかり。
ついには、「ティッシュ万札事件」が起こった。
ひまりのポケットティッシュに、なぞの一万円札が入っていて、大さわぎになってしまったんだ!

親友の真由が心配していたら、ひまりはしだいに元気を取りもどした。
そして、「見て見て!」といいながら、ひまりがてわたしてくれたのが、「ひまりのすてき時間割」。
ひまりが、「すてき」を目指して試行錯誤する毎日をつづったノートだった。
ひまりはどんな思いを抱えているんだろう? 元気になった理由は何だろう? 朝のおまじない? ただいまのおまじない? 夜のおまじない? 真由が、気になって「ひまりのすてき時間割」を読み進めていくと……。


著者は、小児科医の井嶋敦子さん。医師ならでの専門的な知見を踏まえて、真摯に、前向きに、「ADHD」と向き合う一冊です。
本作は、「ADHDやASDはグラデーションのようにつながっている」といった多角的な見方に基づきながら、
向き合い方にもふれており、誰にとっても示唆に富む内容となっています。

著者は現役の小児科医。自身もADHD/ASDの特性を持つ

「主人公ひまりは、ADHDと自閉スペクトラム症(ASD)の特性を持っています。でも本文にも書いたように、これは障がいではなく性格・行動の特性と思いたいのです。もし本人も周囲も困っていなければ、治療なんてしなくていいんです。でも困っていることがあれば、発達特性を見てもらって対応すれば、あなたの明日が変わります。」(あとがきより)

この物語の著者・井嶋敦子さんは、現役の小児科医でもあります。そしてご自身にもADHDとASDの特性があることを自覚していると、あとがきに書かれています。主人公ひまりにモデルはありません。作者が愛情をこめて描き出した、自身の分身とでも言えるでしょう。

“最強のADHD”と診断された、ひまりの内面を鮮やかに描き出すしなやかな文体

この物語の魅力は、ADHD特性があると診断された(かかりつけ医の和子先生によれば、最強のADHD!)小学6年生のひまりの内面が、しなやかな文体で鮮やかに言語化されているという点です。一人称でつづられる「時間割」は、ひまりが自分の暮らしを見つめ直す目的のため、過去の行動記録でもあり、明日のための覚え書きでもあります。
ひまりの時間割は、時に心の動きそのままに改行なし、句読点少なめで言葉が暴走し、一気につづられることもあります。そんな自分を客観的に(作品中にも出てくるキーワードは「俯瞰」です)見て反省しつつも受け入れ認めて、自分を好きになっていく過程がていねいに描かれます。
読者は橋本ひまりという子どもの心の中の旅を共にした深い感動の余韻を味わうことでしょう。

『ひまりのすてき時間割』本文より ひまり自身が書いた「時間割」
『ひまりのすてき時間割』本文より ひまり自身が書いた「時間割」
『ひまりのすてき時間割』本文より 一気につづられたひまりの「時間割」

周囲の理解、友だちの存在……あなたができることは?

ひまりには、その存在を受け入れてくれる真由という友だちがいるので、幸せです。しかし現実の社会ではどうでしょうか。落ち着きがなく、待つことができずにすぐ行動し、集中するときは周囲が見えなくなる……クラスにひまりのような子がいたら。その子の変わった行動や言動につい、いらだちを感じたり、無視したり突き放すような態度をとったり、否定するような言葉を投げたりしたら……。
ひまりと深雪先生、緊張関係にあった二人の間の糸が、あることをきっかけにやわらかくほぐれていく場面を通して、読者はもし自分がひまりのような子に対したときにどう接するか、考えるきっかけとなるでしょう。

『ひまりのすてき時間割』本文より

「ハッタツショウガイ」かもしれないあなたへ

秋田県立医療療育センター小児科の医師・渡部泰弘先生(2022年開催の日本小児心身医学会学術集会大会長)は、執筆に際して井嶋さんがお世話になった方です。刊行に際して推薦の言葉をいただきました。

最近、新聞にもテレビにもネットにも、「ハッタツショウガイ」はあふれてる。だから誰もが知ってる言葉になった。
でも、その中身を誰もがきちんと分かってるかというと、だいぶ怪しいんじゃない? と私は思う。みんな「自分とは関係ない、川の向こう側の話」って思ってない?
実はそうじゃなくて、金手小6年1組の橋本ひまりのように、あなたの身近に意外といる。そして、もしかしてあなただってそうかもしれない。ただ気付いてないだけ。
それは特別な事じゃなくて、誰でも一人一人が違う、その違いがちょっと大きいだけ。その違いを「オマエハワタシトチガウ」なんて言わずに、ほんのちょっと気持ちを想像してあげて、ほんのちょっと工夫してあげたら、それでうまくいくんじゃない? そしたらみんなハッピーじゃない?
そんな事をひまりは伝えてくれているのかも知れないし、「ほら、私みんなと違ってちょっと変だけどハッピーだよ」というひまりの顔を見ていると、「あなたは他の人と違うからこそひまりなんだよ、それでいいんだよ」ってにっこり笑って伝えたくなる。
ひまりと出会った人がそんな事を感じてくれて、ちょっとだけ周りの人の気持ちを想像して、それが周りの人にもつながっていって…
そしていつの日か、「ハッタツショウガイ」なんて言葉を使わなくて済む世界になったらいいなぁ。

渡部泰弘(わたなべ・やすひろ)秋田県立医療療育センター小児科

書籍紹介

『ひまりのすてき時間割』
作:井嶋敦子
絵:丸山ゆき
定価:本体1300円+税10%
判型:四六判
ページ数:207ページ
ISBNコード:978-4-494-02075-1
発売日:2021年11月15日
対象:小学校高学年以上

著者プロフィール

作:井嶋敦子
新潟県生まれ。秋田市在住。小児科医。日本児童文学者協会会員。日本児童文芸家協会会員。「季節風」同人。小説に『ふしぎ日和』(主婦の友社)所収の「生まれたての笑顔」、紙芝居に『たべられないよ アレルギー』(童心社)がある。本作が単行本デビュー作となる。
 

絵:丸山ゆき
東京都生まれ。1991年よりイラストレーターとして活動を開始。JACA準入選。第115回ザ・チョイス展入選。書籍の装画に『二日月』(いとうみく・作/そうえん社)『神隠しの教室』(山本悦子・作/童心社)『AIロボット、ひと月貸します!』(木内南緒・著/岩崎書店)『あおぞらこども食堂はじまります!』(いとうみく・作/ポプラ社)などがある。

掲載されている情報は公開当時のものです。
絵本ナビ編集部
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